第9話

チョコレートがほしいと言われましても……
久留 柑奈
久留 柑奈
(バレンタインか……。元カレ以外だと、毎年お父さんと弟にしかあげてないもんなぁ)

大学生になった今は、友達にもらったらお返しを渡すくらいで、特別な相手はいない。
久留 柑奈
久留 柑奈
特に予定はないですね……。
そうだ、学校の同級生にお店のを渡しましょうか?
宣伝にもなりますし。
あっ、もちろん自費で買いますよ!

ミラージュのチョコレートを食べたら、みんなもきっと驚くだろう。


名案だと思ったのだけれど、純弥さんも、店長も嬉しそうではない。
久留 柑奈
久留 柑奈
あれ? 余計なこと、でしたか……?

純弥さんはふふっと笑って、首を横に振った。


ちょっと困った顔をしている。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
そうじゃなくてね。
あー……ニホンゴガワカラナイ。
柊伍、任せた
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
僕!? え、えっと……。
む、無理して周りに渡さなくていいよ。
柑奈さんが自分のことを好きだって、勘違いする人もいるかもしれないし
久留 柑奈
久留 柑奈
そうですか?
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
うん
伊豆 純弥
伊豆 純弥
おお、柊伍の説得力は完璧だな……

やはり、余計なお世話だったらしい。
久留 柑奈
久留 柑奈
(確かに、そんなことしなくても、ミラージュは人気だもんな……)

お店の力になりたかっただけだから、少しだけ寂しい。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
俺は、柑奈からもらいたい
久留 柑奈
久留 柑奈
……へっ?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
バレンタインのチョコ、欲しい

慧斗くんの言葉に、私だけでなく店長と純弥さんも驚いている。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
若さって怖い……!
マジで、あいつ急に爆弾落とすんだけど……!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
すごく、ストレートに言ったね……

ふたりが小声で何かを言い合っている間、私の頭の中はぐるぐると回っていい返事が出てこない。


断るにしても、承諾するにしても、妥当な理由がないのだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
えっと……。
私はお菓子作りの素人だから、大したものは作れないと思う。
お弁当とお菓子は違うし、専門で勉強している人に渡すなんて……畏れ多いよ

どちらにせよ、問題はそこだ。


けれど、慧斗くんは距離を一歩詰めて、首を横に振る。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
そんなの気にしない。
肝心なのは気持ちだから
久留 柑奈
久留 柑奈
ええっ!
そう言われても……

これは、どうしたものか。
久留 柑奈
久留 柑奈
(な、なんで慧斗くんはこんなにかたくななの!?)

オロオロしていると、店長が私を庇うようにして立った。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
バレンタインは、相手に喜んでもらいたいって気持ちを込めて渡すものだと思う。
欲しいって言われたからって、無理しなくていい。
海外だと、男性から女性に贈るものだったりするし
久留 柑奈
久留 柑奈
店長……

そのフォローにほっとした私の前で、慧斗くんはむっとしたように眉を寄せる。


邪魔するな、とでも言いたげだ。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
まあまあ、慧斗。
落ち着け

純弥さんがカウンターから出てきて、慧斗くんの背中をぽんっと叩いた。


【第10話へつづく】