そう言いながらも、鼻が赤くなってきている。
店長は、いつも気遣いに溢れた優しい人だ。
ラッピングの袋を、ずいっと前に差し出す。
よりによって、スイーツのプロに、手作りという簡素なものを渡すことになるとは。
それでも、店長は嬉しそうに受け取ってくれた。
そう言って笑う店長の頬は、さっきよりも赤くなっている。
目を少し潤ませたかと思えば、私をじっと見つめた。
促されるように熱っぽい視線を送られて、私は観念した。
首を傾げる様もまた大人の余裕があって、悔しくて、ドキドキして。
心臓の高鳴りが加速する。
冷えてきた私の手を、店長がすっと握る。
店長の手も少し冷えていたけれど、触れたところから熱を帯びていった。
未だにこの現実が信じられなくて、肩が硬直する。
とんでもないお願いをされたらどうしようと緊張して、目をぎゅっと瞑った。
柊伍さんのお願い事は、止まることを知らない。
素敵な恋人と手を繋いで、夜の道を歩き出す。
我慢できずにオランジェットを食べた柊伍さんは、「本当に美味しい……!」と、普段の私のように目を輝かせた。
【完】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。