第18話

柊伍と甘酸っぱいオランジェット
久留 柑奈
久留 柑奈
店長!
寒い中、お待たせしてすみません……!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
大丈夫だよ

そう言いながらも、鼻が赤くなってきている。


店長は、いつも気遣いに溢れた優しい人だ。
久留 柑奈
久留 柑奈
あの……。
時間は結構経ってしまったんですけど。
返事をしようと思いまして
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
……うん
久留 柑奈
久留 柑奈
私でよければ、お付き合いしていただけないでしょうか!

ラッピングの袋を、ずいっと前に差し出す。


よりによって、スイーツのプロに、手作りという簡素なものを渡すことになるとは。


それでも、店長は嬉しそうに受け取ってくれた。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ありがとう……。
すごく、すごく嬉しい
久留 柑奈
久留 柑奈
中身は、オランジェットです。
それだったら、私でも作れるかなって
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
わあ……楽しみだな
久留 柑奈
久留 柑奈
ひー! あまり期待しないで下さい!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
あはは。
気持ちがこもっていれば、なんでも美味しいんだよ

そう言って笑う店長の頬は、さっきよりも赤くなっている。


目を少し潤ませたかと思えば、私をじっと見つめた。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
どうして、僕を選んでくれたの?
久留 柑奈
久留 柑奈
それは……ちょっと口にするのは恥ずかしいと言いますか……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
え? いつもははっきり褒めてくれるのに?
久留 柑奈
久留 柑奈
ず、ずるいです……!

促されるように熱っぽい視線を送られて、私は観念した。
久留 柑奈
久留 柑奈
最初は、憧れだったと思うんです。
美味しいお菓子をたくさん作れて、外国語もたくさん話せて、みんなに丁寧で優しいし、格好いいし……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
……うん。
なんだか、恥ずかしくなってきたな……。
それに、僕のスイーツが目当てとか言われなくてよかった……
久留 柑奈
久留 柑奈
もう! 続きを言いますよ!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ごめん、ごめん。
それで……?

首を傾げる様もまた大人の余裕があって、悔しくて、ドキドキして。


心臓の高鳴りが加速する。
久留 柑奈
久留 柑奈
好きだなって確信したのは、この前、私を助けてくれた時でした。
こんなに魅力的で頼もしい人と、一緒にいたいって思いました
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ふふっ……。
そっか
久留 柑奈
久留 柑奈
店長の方こそ、私でいいんですか?
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
柑奈さんがいいんだよ

冷えてきた私の手を、店長がすっと握る。


店長の手も少し冷えていたけれど、触れたところから熱を帯びていった。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
二十六になって、独身でいると……正直、あちこちからのアプローチもすごいんだ
久留 柑奈
久留 柑奈
で、ですよね……!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
でも、柑奈さんはそんなことしないし、素直で明るいし。
かわいいし、本当に癒やされる……
久留 柑奈
久留 柑奈
……!
あ、ありがとう、ございます!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ひとつ、お願いがあるんだけど、いい?

未だにこの現実が信じられなくて、肩が硬直する。


とんでもないお願いをされたらどうしようと緊張して、目をぎゅっと瞑った。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
恋人になるんだし、店長じゃなくて、『柊伍』って呼んでほしいな
久留 柑奈
久留 柑奈
しゅ、柊伍、さん……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
うん。
あと、休みの日は、できるだけ一緒の時間を作ったり、デートに行ったりしようね?
久留 柑奈
久留 柑奈
は、はい!

柊伍さんのお願い事は、止まることを知らない。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
それとね……
久留 柑奈
久留 柑奈
ちょ、全然ひとつじゃないです!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
あはは

素敵な恋人と手を繋いで、夜の道を歩き出す。


我慢できずにオランジェットを食べた柊伍さんは、「本当に美味しい……!」と、普段の私のように目を輝かせた。


【完】