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第20話

純弥とほろにがラムボール
久留 柑奈
久留 柑奈
純弥さん……!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
柑奈ちゃん!

外で待っている純弥さんに声を掛けると、彼の方から駆け寄ってきた。
久留 柑奈
久留 柑奈
(こ、これが大人の余裕……!)

私がこれから言うことは分かっているはずなのに、純弥さんは落ち着き払っている。


でも、嬉しそうに笑っていた。
久留 柑奈
久留 柑奈
あの……。
これなら、純弥さんでも食べられるかなって思って。
ど、どうぞ!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
ありがとう。
何が入ってるの?
久留 柑奈
久留 柑奈
ビターチョコで作ったラムボールです
伊豆 純弥
伊豆 純弥
いいね! コーヒーにも合いそうだ

私が味見してみたところ、ほろ苦くて大人のビターチョコに仕上がったと感じた。


純弥さんに喜んでほしい一心で、作ったものだ。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
これを貰えたってことは、返事も期待していい?
久留 柑奈
久留 柑奈
うっ……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
柑奈ちゃんの気持ちが聞きたいな

顔を近づけて、じっと見つめられる。
久留 柑奈
久留 柑奈
す、好きです……純弥さんのこと
伊豆 純弥
伊豆 純弥
……!
よっしゃ!
久留 柑奈
久留 柑奈
そんなに喜んでもらえるような人間では……!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
柑奈ちゃんは自分の魅力が分かってない。
常連客の中に、柑奈ちゃんを狙ってる男が多いの気付いてないでしょ?

ふと、以前名刺を渡してきた男性を思い出した。


でも、思い当たるのはそれくらいだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
え……?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
やっぱり気付いてないか……。
まあ、いつもにこにこして、あんなにかわいく出迎えられたら、気になるだろうな
久留 柑奈
久留 柑奈
えーっ!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
ということで、俺はライバルが多いんですよ……

悩ましそうな演技をしながら、純弥さんは何度も頷く。
久留 柑奈
久留 柑奈
でも、純弥さんだって……。
女性のお客さんに、にこにこしてますよ
伊豆 純弥
伊豆 純弥
何、ヤキモチ?
あれは営業スマイル
久留 柑奈
久留 柑奈
じ、じゃあ私のも営業スマイルです!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
……ははっ!
ほんと、柑奈ちゃんって変わってるよね。
やっぱり、好きだなー

純弥さんが自覚している通り、彼は大変モテる。


それに引け目を感じる時もありそうだけれど、純弥さんの言葉を聞いてしまえば、不安は溶けてなくなっていきそうだ。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
ねえ、俺のどういうところが好き?
久留 柑奈
久留 柑奈
……第一印象との、ギャップ?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
はは、何それ?
久留 柑奈
久留 柑奈
接客が完璧だったり、いつも気配りを欠かさなかったり、仕事にも熱心なところです
伊豆 純弥
伊豆 純弥
……うわ、嬉しいな

私が冷静さを欠いた時は、純弥さんが一番いい解決策を判断して、落ち着かせてくれた。


この先もそうやって、私を導いてくれるだろう。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
俺の目に、間違いはなかったな……
久留 柑奈
久留 柑奈
え?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
やっぱり、柑奈ちゃんは、俺自身のことをまっすぐ見てくれてる。
それが嬉しい
久留 柑奈
久留 柑奈
えへへ……照れますね

純弥さんは、手に持った包みを解き、ラムボールをひとつ口にした。
久留 柑奈
久留 柑奈
え、ここで食べます!?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
うん、美味しい。
柊伍といい勝負だ
久留 柑奈
久留 柑奈
褒めすぎな気がしますが、美味しかったならよかったです……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
柑奈ちゃん、お礼するからこっちに

手招きされ、何も分からずに純弥さんに近づく。


すると、ふんわりと抱きしめられた。
久留 柑奈
久留 柑奈
わ、わ!
これ、あれですか! 
海外の挨拶的な!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
ははっ、違うよ。
愛情の方のハグ
久留 柑奈
久留 柑奈
わーっ!

通行人に見られるのは恥ずかしかったけれど、触れたところから感じる体温は、とても温かかった。


【完】