外で待っていた慧斗くんに走り寄ると、出会った頃のようにそっぽを向かれてしまった。
あの時は分からなかったけれど、今ならこれが照れ隠しだって分かる。
慧斗くんを呼び止めたということで、もう彼は、私が言うことを理解しているだろう。
返事はするのに、一向に視線が交わらない。
慧斗くんも、緊張しているようだ。
時には人が変わったように迫ってくるくせに、どうしてこんな時ばかり、照れるのだろうか。
慧斗くんはおずおずと私からラッピングの袋を受け取り、ほっと息を吐いた。
口元を腕で隠して、慧斗くんはまた横を向く。
私も負けじと回り込んで、その顔を覗き込んだ。
心底嬉しそうに、ニヤニヤしている。
慧斗くんはゆっくりと頷き、何かを言いかけて、飲み込んだ。
言い淀んでいる原因は何なのだろう。
口下手な慧斗くんが話してくれるのを、じっと待つ。
私が恋愛遍歴を聞いたとき、はぐらかされたのは、そういう理由だったらしい。
気がかりな点を吐露できたことで安心できた様子の慧斗くんは、再びニヤニヤし始めた。
慧斗くんは包みをほどいて、同封していたピックを器用に使い、生チョコを一粒食べた。
慧斗くんがピックに刺して差し出す生チョコを、私も食べてみる。
言われるほど美味しいとは思わなかったけれど、気持ちを込めた分、甘い気がした。
互いの口元にきな粉をつけたまま、私たちは微笑み合った。
【完】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。