第19話

慧斗ときな粉のやわらか生チョコ
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くん、お待たせ!
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……お、おお

外で待っていた慧斗くんに走り寄ると、出会った頃のようにそっぽを向かれてしまった。


あの時は分からなかったけれど、今ならこれが照れ隠しだって分かる。


慧斗くんを呼び止めたということで、もう彼は、私が言うことを理解しているだろう。
久留 柑奈
久留 柑奈
ねえ、ちゃんとこっち向いて
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……うん

返事はするのに、一向に視線が交わらない。


慧斗くんも、緊張しているようだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
ふふっ。
私からチョコレートが欲しいって言ったのは誰?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレだな……
久留 柑奈
久留 柑奈
はい、じゃあこれ。
慧斗くんが前に作ってた、きな粉をまぶした生チョコを真似して作ってみました!
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
あ、ありがとう……

時には人が変わったように迫ってくるくせに、どうしてこんな時ばかり、照れるのだろうか。


慧斗くんはおずおずと私からラッピングの袋を受け取り、ほっと息を吐いた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
あの、さ……
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くんのこと、好きだよ
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……!!
うわ、やばい……。
変な顔になる

口元を腕で隠して、慧斗くんはまた横を向く。


私も負けじと回り込んで、その顔を覗き込んだ。


心底嬉しそうに、ニヤニヤしている。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレが告白するまで、全然こっちのことなんか気にしてなかったのに……。
なんで?
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くんが、いつも気持ちをまっすぐぶつけてくれたから。
それに、元カレの前でも、真っ先に助けてくれたし
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
あれは……。
少しでも格好いいところを見せたいって思ったから……
久留 柑奈
久留 柑奈
それでも! 嬉しかったの!

慧斗くんはゆっくりと頷き、何かを言いかけて、飲み込んだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
どうしたの?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
伊豆さんと柊伍さんがライバルだと、勝ち目ないって思ってた
久留 柑奈
久留 柑奈
そんなことないよ。
毎日何にでも熱心だし、夢だってちゃんと持ってて、すごいなって思ってるよ。
ここぞという時は、率直に気持ちを伝えてくれるし
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
違う。
そうじゃなくて……
いや、そう思ってくれるのは、嬉しいんだけど

言い淀んでいる原因は何なのだろう。


口下手な慧斗くんが話してくれるのを、じっと待つ。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレ、今まで恋愛には全く興味なくて。
彼女がいたこともないんだ……
久留 柑奈
久留 柑奈
そうなの? すごくモテるって聞いたけど

私が恋愛遍歴を聞いたとき、はぐらかされたのは、そういう理由だったらしい。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
成人してるくせに未経験って、引かないか……?
久留 柑奈
久留 柑奈
全然。
私、そういうことを気にするように見える?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……いや、見えない

気がかりな点を吐露できたことで安心できた様子の慧斗くんは、再びニヤニヤし始めた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
あー、やばい……。
こういう時ってどうしたらいいんだ!
久留 柑奈
久留 柑奈
お、落ち着いて!
生チョコ食べる!?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
あ、うん……。
そうする

慧斗くんは包みをほどいて、同封していたピックを器用に使い、生チョコを一粒食べた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレが作ったやつより、うまい……
久留 柑奈
久留 柑奈
そ、それはさすがにお世辞だよ!
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
ほんとだって! 食べてみろよ、ほら

慧斗くんがピックに刺して差し出す生チョコを、私も食べてみる。
久留 柑奈
久留 柑奈
うん。
美味しい、かも……

言われるほど美味しいとは思わなかったけれど、気持ちを込めた分、甘い気がした。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……柑奈のこと、絶対に大事にする。
もし、もしも……。
この先オレが留学することになっても、見放さずにいてくれる?
久留 柑奈
久留 柑奈
……!
もちろん!

互いの口元にきな粉をつけたまま、私たちは微笑み合った。


【完】