第10話

告白の返事は、バレンタインデーに
純弥さんが宥めたけれど、慧斗くんの不機嫌は直らない。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
えっと、飴谷くん?
あとは、柑奈さんが決めることだと思うよ

店長の言葉にも、頷かない。


慧斗くんは誰の前でも常にクールで、こんなに感情をあらわにするタイプではないから、みんな驚いているようだ。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
柊伍さんも、伊豆さんだって、本当は柑奈から欲しいんじゃないですか!
久留 柑奈
久留 柑奈
け、慧斗くん……!?

珍しく大声を出す彼にびっくりして、私は一歩後ずさりをした。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレより数年長く生きてるくせに、本命には逃げ腰になって。
挙げ句、年下のライバルの邪魔をするとか、ほんっと格好悪い……
久留 柑奈
久留 柑奈
え? ライバル……?

店長と純弥さんは顔を見合わせ、はにかんでいる。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
おお、痛いところを突かれたな……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
若さってまぶしいね……
久留 柑奈
久留 柑奈
……ん? どういうことですか?

未だに状況が掴めていないのは、私だけのようだ。


ただ、不思議と心臓が早鐘を打ち始めた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
バレンタインチョコが欲しいって言われたら、分からないか?
オレが柑奈を好きだってこと。
それを必死に止めようとした、柊伍さんも伊豆さんも同じ
久留 柑奈
久留 柑奈
……え。
……え?
ええっ!

突然のような、一方で、無意識に予感していたような告白。


私はまた一歩、後ろに下がる。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
う……。
まさか飴谷くんに言われるとは……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
正直、慧斗は奥手だと思ってあなどってたな……

私が更に一歩下がると、腰にテーブルの端が当たった。


それで、はっと我に返る。
久留 柑奈
久留 柑奈
か、からかってるんじゃなくて、本当なんですか……?
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
……そうだよ。
僕は、柑奈さんが幸せそうに僕の作ったスイーツを食べる姿を見るのが嬉しくて。
そしたら、いつの間にか好きになっていた
久留 柑奈
久留 柑奈
ひえええ……

自分の頬が紅潮していく様が、はっきりと分かる。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレは、初めて会った時に……ゆるキャラみたいに、いつでもにこにこしてるのを見て……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
ああ、一目惚れってやつね。
日本ならではの表現

慧斗くんの告白に純弥さんが茶々を入れると、慧斗くんは恨めしそうに純弥さんを見た。


純弥さんは肩をすくめた後、真顔に戻す。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
俺は……まあ、自分の容姿には割と自信があるんだけど。
柑奈ちゃんは俺じゃなくて、俺が入れたコーヒーに興味を持ってくれたから、かな。
ちゃんと俺自身を見てくれる人がいるんだって思って、嬉しかった
久留 柑奈
久留 柑奈
え……。
え、え……!
えー!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
あはは、柑奈ちゃん、パニック。
落ち着いて

バイト先の、私が信頼し尊敬している人たちからの、突然の告白。


しかも、三人まとめてだ。


「なぜ、私なんかを」と、混乱せずにはいられない。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
バレンタインの話から始まったんで……。
柑奈からの返事は、二月十四日ってどうですか?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
慧斗、ナイスアイディア。
全員NOなら、誰にも返事をしない。
誰かひとりOKなら、その人だけに返事をするってことでいいんじゃない?
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ふたりとも、肝心の柑奈さんを置いてけぼりだよ。
柑奈さん、今の案聞けた? 大丈夫?

店長の問いに、辛うじて頷く。


バレンタインデーなら、考える時間はまだ一ヶ月以上もあるのだ。


その頃には、落ち着いて答えを出せている……かもしれない。
久留 柑奈
久留 柑奈
はい……。
あの、今はとにかく、お気持ちだけ……。
……ありがとうございます

もしかすると、人生一番のモテ期なのかもしれない。


三人が互いを牽制するように小突き合う中、私だけは、異空間にいるかのようにふわふわしていた。


【第11話へつづく】