☆北人side☆
その日の帰り道。
部活が休みになった俺はさっさと帰ろうと鞄を手にする。すると、壱馬と彩光がやってきて…
女子同士は部活に所属していなく、いつも一緒に帰っているらしいが、
この日は同じく部活の休みな壱馬とデートのため、彼女が1人になってしまうらしい…
俺としては一緒に帰れるのは嬉しかった。普段は彼らが仲介役で2人きりで話すことなんてなかったから…
だから、まだ荷物の整理をしていた彼女を呼び、"よろしくね"と笑顔で去っていく彼らを見送る。
遠慮がちに近づいてくる彼女。
それに頷きながら、一緒に駅までの道を歩く。
何を話せばよいか考えあぐね…当たり障りのない声をかける。
会話を続けてくれる優しさと俺が名前で呼んでも"吉野くん"と苗字でしか呼ばない彼女との壁を感じながら答える。
そこで一言間を置いて、"はぁー"と息を吐く。
そしてその息は白く変わった。
そう言いきると突如風が強く吹き、彼女は俯いてマフラーに顔を埋めた。
だから俺の声は届かなかったんだ…
そう顔を上げて聞き返す彼女に。
空に上がって消えちゃうから、白い言葉は真っ直ぐ伝わらなかったのだろう…
そう思うのも僕がひねくれているからだろうか…
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♡あなたside♡
「なんで…だめ…?」
先程別れた彼の言葉。
呟かれたそれは所々しか聴き取れなくて、でも家で出来ない理由を聴かれたように感じて胸が痛んだ。
声をかけても返事なんて帰ってくるわけもなく、リビングを覗く。
…そこにはソファーに寝そべりながら携帯を弄る母と、テレビゲームに夢中な妹の心愛。
(いつもの光景…)
なんて思っていると妹が私に気づき、
『お姉ちゃん、おやつまだー?』
そう言ってくる。母を見ると携帯から目も離さず、
『早くしなさい、心ちゃんが可哀想でしょ…どうせそれぐらいしか頼りになんないんだから!』
そう加担してくる。
"だったらお母さんがやったらいいじゃん…"なんて何回言ったことか…だから言ったところで現状は悪い方にしか変わらないなんて分かっていた。
私はため息を押しころし、
返事もしない妹に声をかけ準備にとりかかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!