☆慎side☆
"花火じゃなくて、花火に照らされた先輩が"
そんなふうに伝えられたら良いのだろうか…
…
その後も大した会話もないまま、有終の美を飾るとも言われるスターマイン花火が咲き始める。
(このままだと今日誘った意味がないよな…)
そう思った俺は意を決して、花火の音に負けないよう名を呼ぶ。その声に花火から俺に視線を移す彼女。
最後の花火が上がる直前の静けさの中、
自分の精一杯の気持ちを伝える。
「でも、ごめんなさい…」
後者は打ち上がった花火と
周りからの歓声で聞こえることはなかった。
しかし、彼女の表情から何を言われたのかなんて容易に想像できた。
…
何か言わなければ、その想いから言葉が口を衝く。
それに微笑んでくれる彼女。
そう去っていく彼女。
花火の終わった広場は帰路を急ぐ人々でごった返し、水色の浴衣姿はそれにすぐ呑まれ消えていった。
…
♡あなたside♡
最後まで花火を楽しんだ私たち。
広場の空いている場所を探すうちに彼の姿は見えなくなっていた。
彼女たちと最寄り駅で別れ、帰路を歩く。
暫く歩いていると、前に見覚えのある人影…
今日ずっと目で追っていたこともあり、
1人の彼に気づけば声をかけていた。
(聞こえなかったかな…)
振り向かない彼に今度は近づいて肩を叩く。
彼は振り向かないのではなく、
"振り向きたくなかった"のだと察せずに…
そう振り返った彼に、はっとする。
理由は…
彼の涙を見たから。
何も発せない私に、彼はそっぽを向いてそれを拭いながら呟く。
("どうしたの?"なんて聞けないよね…)
(先輩のことだってわかるもん…)
言ったことは行動に移すことができる彼だから、
それは1番近くにいた人としてわかっていたから…
(告白したんだろうな…)
そう思ったと同時に口から飛び出す言葉。
そう呟くと彼の頬を再び涙が濡らす。
私はそんな彼の背中を擦り続けた。
…
どれくらい時が経っただろうか。
そう言う彼の表情は先程より幾分すっきりしたように見える。
(よかった…)
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、
そう矢のように放たれ、私の心を射る言葉。
だから思わず返してしまったんだ。
理由は
彼の涙を見たからか…
先輩に振られたとわかったからか…
はたまた、
彼が嘘偽りなく"ありがと"そう言ってくれたからか…
"えっ"そう驚いた瞳をみせる彼。
それにかわまず続ける。
彼の頬に残っていた1粒を親指で拭いながら…
…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!