講義室に着くと先に来ていた友達の陽葵に声をかけられる。それに手を振りながら返す。
(いえいえ、)
そういう彼女は、いつも笑顔が陽だまりのように明るいが今日は一段と輝いている。
そこで質問すれば、よくぞ聴いてくれたとばかりに手を叩いて話始める。
その言葉にビクッと肩が動く。
そういえば、彼女はLDHのグループが好きで、詳しいんだった…でも幸い私の様子には気づかれていない。
とっさに嘘をついてしまった。
でももう彼は私のことなんて忘れているだろう…だから"知らない"は間違いじゃない。
その日の授業はあまり集中できなかった。
今日は3限終わりでバイトが17時から。
そのため1度家に帰り、ギリギリまでレポートを進めようとパソコンを開く。
でも無意識に検索しているのは、彼の名前…彼のいるグループのこと…
MVに映る彼はあの頃よりもキラキラと輝いていた。まるで私とは住む世界が違うと感じるくらいに…
見てることが苦しくなって視線を外すと視界の隅に光る"それ"を見つける。手に取るなり、私は再び彼との日々を思い出していた。
それから彼は自由時間の度に私を誘ってくれた。
『家事、少しくらい手伝ってくれてもいいじゃん!』
「俺は仕事で疲れてんの、」
『仕事、仕事って!最近帰りも遅いし…』
寝室にいても…眠っていても起きてしまうくらい夜な夜な続く両親の喧嘩。
…家に帰っても居場所のない私にとって、彼が差し伸べてくれた手が生きがいだったんだ
でもそんな幸せの終わりは急に訪れる…
「あなたごめんな、パパとママ離婚するんだ」
離婚なんて意味はわからなくても、諭すように言う父と俯いている母を見れば、悪いことくらい容易に想像できた。
『あなた一緒にこの街を出ましょ!』
そしてもう彼に会えなくなってしまうことも…
でも子どもの私に反論する権利なんてなくて黙ってそれを受け入れるしかなかった…
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ふと我に返ると16時半を過ぎている。
私はそこで想い出に浸るのを止め、手に持っていた"それ"ふりかけバイトに向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!