……何か、とんでもない所に来てしまった気がする。
ごみ捨て小屋の陰、俺は壁と背中合わせ。
出るタイミングを見失って、
完全に盗み聞いてる感じになってる。
……あぁ。
やっぱり弥生は。
智希 先輩のことが、そんなに────。
本山先輩が戻って行って、
俺はようやく陰から出る。
今、俺どんだけ情けない顔してんだろうな。
明らかな失恋の感触が、俺の腹を殴りつける。
でも、それ以上に。
弥生も失恋してしまえなんて思ってしまう、
卑怯で卑劣な自分に慄然とする。
いっそ取られる前に告ってしまえなんて、
いつもは思わないことを思ってしまう。
平静を装って、建付けの悪いドアを開ける。
草の入った袋を放る。
それを後ろからぼうっと見ていた弥生が口を開く。
扉を閉めかけていた手を
思いっきり挟んでしまった。いてぇ。
普通だったら
この質問の仕方は脈アリなんだよなぁ。
食いつきやべえな。つか弥生だけど。
言っとくけどこれお前だからな!?
いや言わんけど!!
きっと数えたら何百にもなってしまって。
でもどのいい所も一言で彼女を表すには足りない。
何処が好きとか、何処がいいとか、
そんな理屈をその持ち前の身長で飛び越えて、
そこに彼女はいる。
まぁ当事者だからな。
問いかける目は余りに真摯で無垢で。
俺の事なんて、眼中に無い。
答えた声は掠れてた。
だけど好きな人には好きな人がいる。
そんなのもう……っ
思わず零れた言葉に、
弥生が目を見開いて、伏せる。
その言葉にはっとする。
違う。そうじゃない。
弥生が俺に振り向いてくれたらそりゃ嬉しいけど
それは弥生が苦しい想いしながらでも
先輩への想いを諦めて欲しいってことと
イコールなんかじゃなくて。
弥生にそんな表情させるくらいなら、
俺が俺の想いを俺の中だけで殺す。
それが俺の生き方なだけで。
好きな人には笑ってて欲しい。
好きな人の好きな人が俺でも俺じゃなくても、
その恋は、世界で1番優先的に叶って欲しい。
……だから。
背中を押そう。
大事にする為に。笑って貰う為に。
好きな人が好きな人らしくある為に。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。