【弥生side】
悔しそうな光流先輩を、
ペンギンのぬいぐるみを抱えた碧が宥める。
人波に流されながら歩いていると。
ドドドドドドドドドドドドドド
前方から大量の人が押し寄せてきた。
伸ばした手も虚しく、私は人混みに吸い込まれる。
人混みからなんとか抜け出した時、
皆の姿は何処にもなくて。
ただただ、呆然と立ち尽くす。
人混みの間からするりと、智希先輩が現れた。
気がつけば体育館の入口で懸垂してたり
自販機前の中庭に何故か置いてある丸太の上に
片足立ちして瞑想したりしてますもんね……。
先輩は頷いて、
……動かない。
2人して迷子。
現代社会における遭難……っ。
再び、私たちは呆然と立ち尽くした。
数分後、私たちの手には何故かりんご飴があった。
……何が起きた?てか最初も食べたな?
りんご飴に齧り付く。
甘い爽やかな香りがふわっと漂って。
その時、
♬*.*・゚ .゚・*.
2人同時にスマホが鳴る。
救援を求めようと、星奈からのメッセージを開く。
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そんなメッセージと共に、スーパーボール掬いで無双する本山先輩、スマホで何やら打ち込んでいるような光流先輩と、笑顔でピースの星奈と碧が写った写真が送られていた。
マジかよ、こっちは遭難してるんだけど??
と思った直後、
星奈のメッセージをもう一度読み返して気づく。
夏祭り、
仲間とはぐれ2人っきり、しかも憧れの先輩と……。
何なん、王道ラブコメシチュエーションやんか!!
これは頑張って更に仲良くなるチャンス……!!
同じくスマホを見ていた先輩が顔を上げて言った。
……わかってた……っ!!←←
写真の光流先輩がスマホ見てる時点でわかってた……っ!!←
はいはいそうですね
そんなご都合展開訪れないですよねぇ!!?泣
どよんとした私の空気を勘違いしたのか、
全く見当違いの方向に先輩が慰めてくれた。尊い。
しばらく歩くと、
屋台の、何かキラキラしたものが目に止まった。
ありがとうございます! と断って、私は屋台を覗く。ネックレスにブレスレット、何か細々とした装飾品。少女趣味チックなアクセサリーもあれば、ゴテゴテと派手でゴツい感じのものもある。
そういって先輩が指さしたのは、何だかゴツイ感じで十字架モチーフ、以下にも厨二病患者が好みそうなタイプの剣のアクセサリー。
いや別に全然良い。明らかに厨二病チックな剣がお好きでも、パジャマで学校に登校して来ても、好きなお菓子が黄金糖で急に緑茶すすり出したりしても、先輩のかっこよさは損なわれないって信じてるんで。
その武器を見つめて、思うことひとつ。
急いでわたわたとスマホを取り出し、その画面を向ける。
手元を覗き込んでわちゃわちゃしていると、屋台のおじさんが、んんっと咳払いした。あ、ずっと居座ってちゃダメだね。退散します。
先輩がそう言って、先程の剣を指さす。
おじさんからそれを受け取って、店先から離れる。
みんなの所にいかなきゃいけないのはわかってるけど、まだ先輩と2人でいたかったなって……。
寂しげな私の雰囲気を見てとったのか、先輩は口を開いた。
祭りの光に、見下ろした先輩の顔が照らされる。赤、オレンジ、黄色。暖かな光の舞に、先輩の目がいつもより優しく細まる。
先輩も、私と同じ気持ちで……?!
私は思わずため息をつく。わかった。先輩は、生粋の天然だ。どうしようもない天然だ。
そう思うとおかしくて、私は吹き出してしまう。
私たちは並んで歩き出す。
話し声をよそに、フィナーレの花火があがっていた。
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※作中のゲーム名は架空のものです。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。