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第42話

花火大会、それぞれの想い〖vol.3〗
591
2021/11/23 05:55
【弥生side】


光流先輩
光流先輩
くっ、本山 お前
ヨーヨーどんだけ掬うんだよ……
碧
先輩、そろそろそれぐらいにして
次行きましょうね


悔しそうな光流先輩を、
ペンギンのぬいぐるみを抱えた碧が宥める。



晴樹
晴樹
とは言っても、
次どこ行きます?
本山先輩
本山先輩
遊び尽くした感あるよな
弥生
弥生
食べ物の残骸とヨーヨー
そんな大量に持ってたら
そりゃやりつくした感ありますよね
星奈
星奈
まぁ、適当に歩きましょうよ
花火まであと30分くらいあるし……




人波に流されながら歩いていると。






ドドドドドドドドドドドドドド



光流先輩
光流先輩
うわっ!?
碧
何この人だかり!!



前方から大量の人が押し寄せてきた。





星奈
星奈
はっ、たぶん今ちょうど
盆踊りが終わったくらいのはずです!!
本山先輩
本山先輩
じゃあこれはそれの参加者か!!
晴樹
晴樹
ちょ、皆 はぐれないように!!
弥生
弥生
わっ、ちょっ、あっ
星奈
星奈
えっ、弥生っ!!?


伸ばした手も虚しく、私は人混みに吸い込まれる。















人混みからなんとか抜け出した時、
皆の姿は何処にもなくて。



弥生
弥生
……はぐれた……

ただただ、呆然と立ち尽くす。

平田先輩
平田先輩
……っ、良かった、いた……


人混みの間からするりと、智希先輩が現れた。


弥生
弥生
先輩!? 何で……
平田先輩
平田先輩
俺なら追いつけるなって思って
弥生
弥生
そっか……
先輩 運動神経良いですもんね……


気がつけば体育館の入口で懸垂してたり
自販機前の中庭に何故か置いてある丸太の上に
片足立ちして瞑想したりしてますもんね……。


弥生
弥生
先輩が来てくれて良かったです……
皆のところに行きましょう
平田先輩
平田先輩
あぁ


先輩は頷いて、



……動かない。




弥生
弥生
……ひょっとして、
先輩も皆の場所わかんないとか……?
平田先輩
平田先輩
……弥生もか……



2人して迷子。
現代社会における遭難……っ。




再び、私たちは呆然と立ち尽くした。






















数分後、私たちの手には何故かりんご飴があった。



……何が起きた?てか最初も食べたな?



平田先輩
平田先輩
……とりあえず甘いもん食って、
落ち着こうと思って
弥生
弥生
奢って貰っちゃって申し訳ないです
平田先輩
平田先輩
大丈夫。
とりあえず、まぁ、食べよう



りんご飴に齧り付く。
甘い爽やかな香りがふわっと漂って。






その時、

♬*.*・゚ .゚・*.



2人同時にスマホが鳴る。



弥生
弥生
あ、こういう時の
スマホやないですか!!
平田先輩
平田先輩
文明の利器……



救援を求めようと、星奈からのメッセージを開く。








┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄


ほしな
いやぁ
ほしな
願ったことが本当になって
ほしな
びっくりしたけど
ほしな
良かったよ!!
ほしな
2人っきり楽しんで!!
ほしな
健闘を祈るー!


┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄




そんなメッセージと共に、スーパーボール掬いで無双する本山先輩、スマホで何やら打ち込んでいるような光流先輩と、笑顔でピースの星奈と碧が写った写真が送られていた。




マジかよ、こっちは遭難してるんだけど??


と思った直後、
星奈のメッセージをもう一度読み返して気づく。









夏祭り、
仲間とはぐれ2人っきり、しかも憧れの先輩と……。





何なん、王道ラブコメシチュエーションやんか!!

これは頑張って更に仲良くなるチャンス……!!





平田先輩
平田先輩
大漁旗付近の
スーパーボール掬いのとこにいるって





同じくスマホを見ていた先輩が顔を上げて言った。







……わかってた……っ!!←←

写真の光流先輩がスマホ見てる時点でわかってた……っ!!←


はいはいそうですね
そんなご都合展開訪れないですよねぇ!!?泣







弥生
弥生
じゃあ、行きましょうか……
平田先輩
平田先輩
だ、大丈夫、
すぐ合流できるから……


どよんとした私の空気を勘違いしたのか、
全く見当違いの方向に先輩が慰めてくれた。尊い。











しばらく歩くと、
屋台の、何かキラキラしたものが目に止まった。


弥生
弥生
アクセサリーのお店かな……?
平田先輩
平田先輩
見てく?
弥生
弥生
いいですか?
平田先輩
平田先輩
そんなに急ぐ必要ないしな


ありがとうございます! と断って、私は屋台を覗く。ネックレスにブレスレット、何か細々とした装飾品。少女趣味チックなアクセサリーもあれば、ゴテゴテと派手でゴツい感じのものもある。


平田先輩
平田先輩
……あ
弥生
弥生
どうしました?
平田先輩
平田先輩
いや、あれ


そういって先輩が指さしたのは、何だかゴツイ感じで十字架モチーフ、以下にも厨二病患者が好みそうなタイプの剣のアクセサリー。


弥生
弥生
先輩、そういうの好きなタイプの……?


いや別に全然良い。明らかに厨二病チックな剣がお好きでも、パジャマで学校に登校して来ても、好きなお菓子が黄金糖で急に緑茶すすり出したりしても、先輩のかっこよさは損なわれないって信じてるんで。

平田先輩
平田先輩
いや、今やってるゲームの主人公が持ってる武器に似てるなと思った
弥生
弥生
あぁなるほど


その武器を見つめて、思うことひとつ。

弥生
弥生
先輩、ひょっとしてそのゲームって、あの『Phenomenon Sky of the wall』の事じゃないですか?
平田先輩
平田先輩
うん、そうだけど…… まさか
弥生
弥生
えっ、待って私もやってんですけど


急いでわたわたとスマホを取り出し、その画面を向ける。

平田先輩
平田先輩
……すっげぇ、このゲームやってる奴、俺以外でリアルで初めて見た
弥生
弥生
そうなんですよ! 身近でやってる人いないし! てかそもそもあの二人は一緒にゲームやる様な子達じゃないし……
平田先輩
平田先輩
……フレンド申請しても?
弥生
弥生
えっ、勿論です! えっと、IDは……
平田先輩
平田先輩
……申請した
弥生
弥生
承認しました! 先輩レベル えぐいくらい高いですね……。 って、これ!このキャラ!私めっっちゃ欲しかったやつ!! え、いいなぁ!
平田先輩
平田先輩
あぁそれ、凄く使い勝手がいい。あげる機能はついてないからな……
弥生
弥生
まぁこういうのは自分で当てるのが醍醐味ですし


手元を覗き込んでわちゃわちゃしていると、屋台のおじさんが、んんっと咳払いした。あ、ずっと居座ってちゃダメだね。退散します。
平田先輩
平田先輩
……あ、これ、買っていかないか


先輩がそう言って、先程の剣を指さす。

平田先輩
平田先輩
ほら、横のはさっき好きって言ってたキャラの武器に似てるし
弥生
弥生
えっ、あっ、本当だ!
そう見えますね! すみません、これ下さい
平田先輩
平田先輩
……そっちの方がデザイン性が良いし、俺もそっちにするわ
弥生
弥生
あっ、ですよね〜!! この子武器もかっこいいから本当好きで!


おじさんからそれを受け取って、店先から離れる。

平田先輩
平田先輩
じゃあ、みんなの所向かうか
弥生
弥生
そうですね


みんなの所にいかなきゃいけないのはわかってるけど、まだ先輩と2人でいたかったなって……。


寂しげな私の雰囲気を見てとったのか、先輩は口を開いた。


平田先輩
平田先輩
弥生の気持ちは、わかる。
俺もそうだし
弥生
弥生
……えっ、先輩、嘘……


祭りの光に、見下ろした先輩の顔が照らされる。赤、オレンジ、黄色。暖かな光の舞に、先輩の目がいつもより優しく細まる。



先輩も、私と同じ気持ちで……?!


平田先輩
平田先輩
でもな、これ以上は食べ過ぎだと思うんだ
弥生
弥生
……はっ?
平田先輩
平田先輩
え?
弥生
弥生
……私そんなにもの欲しげな顔してました?
平田先輩
平田先輩
や、だってそこのたこ焼き屋を物悲しげな目で見てたから、食べたいのかと……


私は思わずため息をつく。わかった。先輩は、生粋の天然だ。どうしようもない天然だ。


そう思うとおかしくて、私は吹き出してしまう。


弥生
弥生
もうお腹いっぱいですよ。みんなの所行きましょう、先輩


私たちは並んで歩き出す。














星奈
星奈
あー! 来たきた青春組!!
本山先輩
本山先輩
随分遅かったな、何食ってたんだよ
平田先輩
平田先輩
……りんご飴?
弥生
弥生
確かに食べたけれども!!
晴樹
晴樹
……弥生、祭りでテンション上がるのはわかるけど、そのアクセサリーは流石にどうかと……
弥生
弥生
なっ、かっこいいでしょーが!
ほら、先輩も付けてるから恥ずかしくなんか無いし!
星奈
星奈
……ほう〜?
光流先輩
光流先輩
平田も、ねぇ〜?
弥生
弥生
え、なに?
碧
2人とも! 気づいてないのがまた尊いんじゃないですか、ほっときましょ
平田先輩
平田先輩
……何の話してんだ?
星奈
星奈
なーんでもありませんよ!


話し声をよそに、フィナーレの花火があがっていた。





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※作中のゲーム名は架空のものです。

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