先生にスポーツドリンクと軽い叱責を
貰って観客席に向かうと、
真っ先に優夏ちゃんが声をかけてきた。
腕を振り回し「元気元気」アピールをした、けれど
良くなったとは言っても
正直この蒸し暑い体育館にいるのはキツい。
笑って席を立って、私はテントに向かった。
……話し声?
数分後、テントの近くまで来て
楽しげな声を聞いた。
理由はないけど、
何故か木陰に隠れて、そっと見る。
私達の学校のテントは
傘があって日陰が出来るだけのタープテントだ。
横からの視線を遮る物は、何も無い。
…………だから、見てしまった。
…………弥生ちゃん、と、
……………………平田……………………
平田は弥生ちゃんに何かスマホの画面を見せて、
弥生ちゃんは何処か嬉しそうで、
平田の左耳には白いイヤホン、
弥生ちゃんの、右耳には……
………………白いイヤホン……………………
声は上手く聞き取れないけど、
木漏れ日に照らされた2人ともすごく楽しそうで
ドッドッドッドッ
心臓がいつもよりはやく鳴る。
呼吸が荒い気がする。
喉が乾いて仕方がない。
熱でもあるのか、意識がぼうっとしてくる。
もう焦点もろくに合ってない目を向けると、
平田は顔を赤くしていた。
…………照れたの……?
平田と出会った頃からのことが
次々と頭をよぎっては消えていく。
ほとんどの平田は横顔で、無表情だ。
そこに、時々 笑顔。
目を細め、眉が少し下がるあの笑顔。
それから、真剣な顔。
光流をからかっている時の楽しそうな顔。
色々な顔の平田を、私は思い出すけれど。
あんな顔、見たことない───
……私の方が先に好きになったのに───
…………胸の痛みが、
君をどう思ってるのかをしつこく訴える。
いいよ、もうわかったよ。
うるさいよ……しつこいよ…………。
わかったから、お願いだから
心臓黙ってよ。苦しいよ。
新しい表情を見る度に 好きになった。
でも、今は胸が苦しい。痛い。痛い痛い痛い。
同級生だから、仲良くなれる訳じゃない。
先に好きになったから、
好きになって貰える訳じゃない。
そんなこと、わかってる。
だけど、だけど、
やっぱり、ずるい───
平田は、いつも女子には距離がある。
なのに、
そんなに弥生ちゃんと仲が良いのは何で……?
…………後輩、だからとか?
平田でも、
後輩は可愛がりたくなるものなのかな
いいなぁ……
距離のある同級生より
私は、可愛がられる後輩になりたいよ……
そんな取り留めのない事ばかりが頭をよぎる。
頭がふわふわしてくる。
頬を赤らめたまま寝転んだ平田を見て、
身体を支えきれなくなった私は
その場に崩れ落ちた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!