めんどくさい女だと思われるような発言をした。
聖は急にどうしたのと言いたげな顔をする。ぱちぱちと瞬きを数回繰り返した後、こう話し始めた。
「好きなのは好きだよ? 勉強できて、運動もできて、優しくて、面白いし、嫌味もないし...完璧で天才だよね。私とは住む世界が違う...ってのは大袈裟だけど。尊敬してるよ?」
予想通り、聖からは『完璧』『天才』という単語が出てきた。
だから言おう。
今しか言えない。
わたしはわざとらしく息を吸って、吐いて、聖の目をまじまじと見て。
「わたしは、聖と対等な関係でありたい」
そう言い放った。
聖は予想外の発言に、黙り込む。
そこでわたしは、言葉を続けた。
「わたしは、完璧でも天才でもない。料理はできないし、ゲームもできないし...。尊敬とか、そういうのじゃなくて、同じクラスの、同じ文芸部の、ただの冗談好きって思ってよ」
聖は数秒後、口を開く。
「...そっか、そんな風に思ってたなんて...親友のつもりでいたけど、気づかなかったや。」
自嘲気味に笑う聖に、わたしは表情筋緩め、優しい笑顔で言葉をかける。
「聖はわたしの、最高の親友だよ。これまでで、一番」
聖はわたしの言葉に、今度は嬉しそうに笑う。
「うん、私も」
そう、わたしたちはあくまで親友だ。
最高の親友。
たとえ恋人同士とはどのようなものか、実際に恋人となって色々やってみても、親友は親友。
それは少なくともわたしの中では覆らなかった。だけど、最高の親友であることに今更気づかされた。
「...聖も、もう一枚の方は食べる?」
「あ...うん、じゃあ遠慮なくいただきます」
今度はわたしが、ホットケーキを一切れ、フォークにぶすっと刺して、あーんと口を開ける聖の口にホットケーキを運ぶ。
聖はぱくっとかぶりつき、フォークを抜くと、もぐもぐとホットケーキを咀嚼する。
「...んいひぃ」
「うん、おいしいでしょ」
えへ、と笑うと、聖も「なんで宵が得意げなの」と笑った。
暖かい空気が流れる。すっかり自分が熱を出していることも忘れていた。
「もう帰るの?」
「うん、一応門限的なものもあるしさ」
わたしの子猫のような可愛らしい声に、聖は特に動じずそう答える。ツッコんででほしかったな、と一瞬思ってしまったが、脳内でぶんぶん頭を振る。
わたしは塀の内、聖は塀の外。聖は鞄を肩に掛けて、帰ろうとしている。
「あ、まだ安静にしとくんだよ」
「うん、もう熱は引いたと思うけど」
「まあまあ」
しばらくの沈黙の後。
「またね」
聖が口を開いた。わたしはそれに答える。
「うん、またね。」
こうして、聖は去っていった。
なんだか、よくわからない時間だった。
だけど、何かが変わった気がする。良い方向に転じた。
それはとっても、嬉しいと思う。
さて。
これまでの聖との時間を思い返しながら、百合小説を書いていこうじゃないか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。