第11話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第四話
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2022/04/23 02:12
 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。
 キーボードの打鍵音が響き始めてから、何時間か経ち。
「...できたか」
 一人でぼそりと呟く。
 そう、完成だ。
 一本は完成した。
 校閲はあの二人に任せる。
 次は聖のプロットを...と思ったが、時計を見ると八時を過ぎていた頃だったので、今日書くのはやめにした。課題は出された初日にすぐに終わらせる派なんだけど。
 パソコンの電源はつけたまま、電気だけを消してリビングに向かう。
 そこには、皿を洗う姉の姿があった。
「お、終わりましたか。このままリビングに来なければ持っていくつもりだったよ...というか作り置きされてたものなんだから持って行ってればよかったのに」
 姉は手を止めてわたしにそう言う。
「書くことしか頭になかった」
「依存症のたぐいだ」
「言っとけ」
 そんな会話を終わらせて、椅子に座り作り置きされていたハンバーグを食べる。
 ラップをはがし丸め、箸を手に取る。
「いただきます」
 ハンバーグをいくつかに分割して、一切れを口に運ぶ。
 味は並みのハンバーグ程度だ。しかもだいぶ冷めている。お世辞にも美味しいとは言えない。
 ただこう文句を言ったってこれ以外に食べるものはないので、パクパクと食べ進める。
 時に白米、時に味噌汁も挟みながら。
 静かな食事の時間終わり、箸を置く。
「ごちそうさまでした」
 気が付けば、姉の姿はなかった。おそらく部屋に戻ったのだろう。
 皿を洗い、わたしも部屋に戻る。
 なんとなく夜風に当たりたくて、ベランダに出る。
 外はだいぶ黒に染まってきていて、時折冷涼な風が吹いている。うちの近くのコンビニには誰か若者がたむろしているようで、大きな喋り声や笑い声が聞こえる。
 こういう若者もいるんだな、と思いながら部屋に戻った。
 部屋の温かい空気に包まれながら、ぼふっとベッドに飛び込む。
 天井を見上げながら、わたしは自分の世界に入り込む。
 聖の顔が思い浮かべ、恋愛小説の書き方を考える。正直、聖に手渡されたプロットには、まだ面白みがない。もっと大きなイベントがあると面白くなるはず。
 ただ、今日は諒子のプロットの執筆で疲れ果ててしまい、頭は回らない。
 なので起き上がり、歯磨きして、風呂に入るといった一連の動作を行う。あとは寝るだけという状態にして、スマホを開く。
 ベッドに寝っ転がりながら、ただただ流れてくるニュースをスライドし眺める。寝る何時間か前にはメディア視聴をやめないと睡眠の質が悪くなるとか聞いたことがあるけど、何時間もメディアを手放すということは難しい。情報化社会という魔法で社会を称されている今、睡眠の質の向上のためだけにメディアから何時間も離れるなんて、そうそうできない。少なくともわたしは。
 なんてことを考えながら、眠たくなるのを待つ。液晶を眺めていると眠くなりにくいのかもしれないけれど。
 こうして、わたしの一日は終わる。
 変わらない。いつも同じ。だけど小説を書くことはわたしの繰り返される日常の唯一のエッセンスなわけで。
 わたしは、書くことしかできない。書くことが生きがいだ。
 沢山の量を短時間に書かされるのはあまり得意ではない。けれど結局、書きたいのだ。
 その時、スマホがヴヴヴ、と振動した。
 聖からメッセージが来ていた。
 どうでもいい冗談を言ったあの日から、聖とよくメッセージでやりとりをしている。『恋人同士』らしいかもしれない。
 聖からのメッセージの内容は、書くこと以上に日常のエッセンスとなるものだった。

『明日とかに、宵の家に行ってみたいんだけど、いい?』

 これが、聖なりの『恋人同士』のようだ。

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