第9話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第二話
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2022/04/18 08:16
「はいっ、じゃあ早速作業に取り掛かれる者はやるのだー」
 宵はふざけた感じだけれど、なんとなくこれまでのおふざけとは違う感じがするのだ。
「てか、作業に取り掛かれんのあーししかいねーじゃん。聖のプロットも全然進んでないし」
「んぐう」
 私は頭を矢で刺されたかのような声を漏らす。
 恋愛感情について知らなければ、プロットは書けない。
 しかしそのことを、中田たちはまだ知らないのだ。ついこの前決めたことだしね。
 しかし私たちが恋愛らしいものをしているなんて言いにくい。時代の変化で、同性愛は受け入れられてきているが、私たちが、っていうのはなんていうかこう、変な感じがするのだ。
「とりあえず、今のところの案は...書き出してみるよ」
 私はそう言って、部室の椅子と机に座る。鞄から新品同様の予備ノートを取り出し、一ページ目を開く。
 中田も同じようなことをしようとしている。宵と朝倉は、読書を続けているようだ。
 私が考えた内容、とりあえず時系列純に書き起こしていくかな。
 主人公がネットで相手と知り合うところから始まる。それで、話が合って仲良くなる。一方、現実では人間関係がうまくいっていない...。DMから始まって、メールもするようになる。そんな中で、二人は惹かれていく。で、会うことになって、住所がばれないようにちょっと遠めの駅で会うことにする。そこで会ったのは、クラスの大嫌いなヤツだった。でも結局、ネットでは仲良くできる、本当は気が合うんだ、って気づかされて、いい感じで一緒に遊ぶ。そこで主人公が告白。で、おしまい...こんなもんかな。
 ネットで知り合うってとこが漠然としてるから、絵を見てもらえて...っていうのはどうだろう。現実世界で、主人公は友達と呼べる人もおらず、相手役に揶揄われることも多々あった。で主人公は結構言い返してた。険悪な関係。だからネットにどんどん...みたいな感じでもいいのかもな。
 最後に二人で遊ぶところでは、それこそ手を繋いだりとか、本屋に行ったりとか...そんな感じにしてもいいかも。
 ──と、浮かび上がってくるアイディアを文章にまとめる。
 面白い展開になるかどうかは、宵の文章とアレンジに任せるしかない。
 詳しい描写をするのは結局宵に任せよう。私にできるのはこれくらいだ。
 ふぅ、と一息ついて、宵にノートを手渡す。
「はい、大体のプロットは書けた。これが精いっぱい。あとは宵に任せてもいい?」
 宵は私の目をいつもしっかり見て話してくるので、思わず目を逸らしてしまう。
「んー、おっけーかなぁ。あとはわたしのセンスの問題だね、がんばるよー」
 宵は右手の人差し指と親指でOKサインを見せる。
 なんとなく安心して、ふらっふらと中田のもとへやってきてしまった。
「んー? 聖か。今ミステリー小説のプロットをガリガリ書いてるんだよ。ちょっと集中させておくれぇ」
 しっしと手を振られてしまった。
 ちらりとノートを覗くと、すでに一面にびっしり文字が書かれていた。化け物だこいつ。
「ご、ごめんねぇ...」
 私はその場を去った。
 もう今日は早めに帰ろう。
 帰って早く寝よう。
「さよーなら...」
 教室を出ていく。
 遠くから、「おう、また明日」と聞こえた。
 ...ちょっと、悪いことしちゃったかな。
 投げやりみたいな、人任せみたいな。
 そんな時、ふとあることを思いついた。

 もうちょっと恋愛関係にある人間らしく、宵の家にでも行ってみようかな。

 そんなことを。

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