第8話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第一話
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2022/04/16 02:00
 行動心理学って面白い。
 人の何気ないしぐさや行動──なだめ行動が出るかどうかで嘘を見抜くこともできるなんてな。
 私は活字を追いながら、そんなことを思った。
 いつも通りの部活の時間。私がプロットを書けていないため、みんな小説を書くことができないのだ。
 もうちょっと、参考になるような百合小説や百合漫画を読んだ方がいいのだろうか。
 まあいい、宵は別に気にしてなさそうだし。
 必死に活字を読む部員たちに目をやって、そんなことを思う。特に変わったこともないので、また心理学の本に視線を戻す。今までそんなにまともに読んではいなかったけれど、意外と面白い。
 この本を読んでおけば、宵が嘘をついているかも見抜けるかもな。活用できるときが楽しみだ。
 なんて呑気に思っていたが。

「もう一本小説を作ろう‼」

 宵から衝撃的な言葉が発せられた。
 急に立ち上がったことで、全員の視線が宵の方向へ向いた。
「あの、なんかもう一本小説を作ろうって聞こえたんだけど」
「ん? だから、そう言ってるよ?」
「唐突すぎるって‼」
 一本めを作ろうとした時と、まるで同じ。
 また、私は苦悩の日々を過ごさなければならないのか...?
「だってさ、一本だけ展示して、それが出し物でーす、なんてショボすぎるでしょ? 聖君や!」
 宵は人差し指を立て、私をビシッと指してくる。
 沈黙が場を支配する。
 しかし、これまた朝倉が。
「納得」
「いや、この前より答え方が簡単すぎる‼」
 思わず声に出してしまった。
「まろっちらしいと言ってあげな、聖。ほら、まろっちはコミニュケーションとかそういうのが苦手なんだよ」
 真面目なテンションで中田に言われてしまった。とても申し訳ない。私はあまり部員のことを知らないのだな、と自覚した。
「ごめん...」
 私が謝るよりも先に、朝倉に謝られてしまった。表情筋がないのかってくらいに表情は変わらないけれど。
「いや、私の方が悪かったし......」
「別に、白石さんの反応が普通だから...」
 朝倉は俯く。余計罪を重くするじゃないか。
「あーはいはい、まあそういうことで、あっしもさんせー」
 中田が間に入ってくれた。何もかも適当で大雑把そうだけど、気が利くんだな。
「わ、私もいいとは思うんだけど...私をプロット担当にするのは絶対やめて......」
 そう。もうプロットは考えたくない。また夜中に罫線のノートと向き合うなんて...御免だ。
「うん、勿論そのつもりだよ。今回は、プロットを中田、執筆はわたし、校閲を残り二人にお願いね」
「部長、また執筆担当...」
 朝倉が声を上げる。私も同じことを思った。これじゃちょっと、宵の負担がひどくなるんじゃないか?
「あー、わたしが一番暇だろうしさ。それに、わたし書くのが好きで文芸部に入ったんだから」
 笑顔を見せる宵。
 しかしそこに違和感を覚えた。
 目が、笑っていない。
 これも心理学の本に載ってた──目が笑っていないと、その笑顔は嘘だ、と。
「…なら、いいんだけどさ」
 この先が心配だ。
 なんだか、嫌な予感がする。
 オープンスクールは、本当に大丈夫なのだろうか。

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