第16話

第三章 聖、宵、苦悩、苦闘 第二話
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2022/06/19 00:23
 わたしは小説を書きながら、登場人物と自分と重ねることがある。
 重ねると言っても、ただ比較するだけで、そう難しい話じゃない。例えば境遇に共通点があるかどうかであったり、性格がどこか似てないかであったり...。そういう所を見つめていると、次第に脳内で過去の独白を始める。
 久しぶりの土曜日(勿論、暦的には七日ぶりである)ということで、じっくり小説を書いていた。
 雨は止まない。よって外が暗い。時間感覚が失われるが、振り返った先にあるデジタル時計には、ちゃんと『20:28』と表示されていた。塾は辞めているから、随分と身軽になったものだ。
 パソコンの液晶に向き合いひたすら文字とにらめっこしているうちに、時間は過ぎ去っていく。
 恋愛。どういう感情なのか、結局わかっていないかもしれない。ただ聖と一緒に遊んでいただけ...のような気がする。けれどその時間は、わたしの心の傷を癒してくれたことは何よりも確かだ。そして、聖といるときは特別であることに気づかされたのだ。意味のある時間。それだけはしっかりわかっている。それ以上は、わからない。
「...どうして、恋愛かな」
 独りごちる。
 何を言っても進むことはないので、それらしい言葉を探しながら、キーボードを打ち続け、画面を見続け、書き続けた。
 そしていつの間にか出来上がっていた。
 振り返ると、デジタル時計がわたしに『22:10』と時間を知らせてくれている。
 後はお風呂に入るだけで寝られるようにはしていたけれど、ここまで遅くなるとは予想外だった。
 とりあえず推敲もせず、聖に小説のデータを送り、お風呂に入った。

「おー遅かったね、勉強でもしてたの?」
 お風呂上がり、部屋に戻ろうと階段を上る最中、姉の声が耳に入った。
「いや、小説」
「悪魔に囚われてるみたいだねぇ」
「じゃあそっちは天使に囚われてるのか」
「あたしが可愛いってこと? いい妹に育ったなぁ」
「...前言撤回」
 軽口(そこまで面白いとは言えない)をたたき、わたしは部屋に戻る。
 そして髪も何も濡れてぐしゃぐしゃのまま、ベッドにダイブした。
 ああ、今日はちょっと書きすぎたかもしれない。これでまた熱なんて出したら。聖にどう言われるだろうか。そしてさらに、勢いで書いた文章に、どれくらいのダメ出しが出るだろうか。
 スマホを開く。既に聖は文章に目を通しているらしく、『既読』のマークがついていた。
 そして返信を待つこと数秒後、メッセージ送信時の軽快な音と共に、メッセージが送られてきた。
『送ってくれてありがとう
 感想として言いたいことはいくつかある』
 そして続けて送られてきた。
『色々文章がおかしいところがあって、それはまた推敲しないといけないところだと思う。けどそれ以上に、プロットを書いた自分がとても言えることではないんだけど、ありきたりで、山場のない感じになってるっていうのが一番かな』
 あまりよろしくないみたいであります。
 恋愛。恋愛小説の山場。
 ずっと苦悩してきたのはそれだ。
 一番はキスとかなんとか、そういうのだろうか?
 わたしにはその感覚がわからない。だから、書きようがない。
 けれど──。
 ここで諦めたら、それ以上のことができなくなる。
 意図的にではなく、故意的にそれが起こることを期待して。

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