第13話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第六話
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2022/04/27 10:46
 昨日、小説を一日で書き上げたせいでか、熱を出してしまった。
 体調管理ができないわたしは、聖が言う『完璧』だとか『天才』だとかではない。体調管理以外にも、料理はできないし(姉には独創的なものを作るとまで言われた)、ゲームは下手だし、こう、わたしを完璧なロボットのように思わないでほしい。
 そもそもわたしがこの私立中学に通ったのは、聖と同じ理由で、志望校に落ちたからだ。公立には行きたくないという理由でこの学校を選んだ。
 だからわたしは天才じゃない。
 文武両道の天才じゃない。
 違うってば。
 聖の部屋を見た感想が『もっと変わったものがあると思ってた』なんて、嫌だなぁ。
 そんなことを思いながら、聖のホットケーキを待っていた。
 しかしいつの間にか、眠りに落ちていた。

 わたしが聖が部屋に戻っていたことに気が付いたのは、食器と食器がぶつかるカシャンという音がした時だった。
「...ふ」
 声を漏らすと、聖はこちらに視線をぶつけた。
「あ、起きた? 丁度ホットケーキミックスが余ってたから作れたよ。レシピはネットで調べた。」
「...そう、ありがと」
 すると、聖はホットケーキ一切れをフォークに刺し、それをわたしに向けた。
「はい」
 フォークを手に取ろうとすると、聖は「違う」とぷつりと呟いた。
「自分で食べれるけど」
 聖は顔を紅潮させる。
「そうじゃなくって!」
「えっと?」
「...これが、恋人ってやつじゃないの?」
 聖はそっぽを向いた。
 ああ、なるほど。
 俗に言うあーんってやつですか。
「じゃ、お言葉に甘えて...」
 わたしがあーんと口を開けると、聖はほいとホットケーキとフォークを入れる。パクリと口を閉じ、フォークは抜かれ、口にはホットケーキが残る。
 それをムグムグと噛む。口の中にはホットケーキシロップの甘みと、ホットケーキの生地の温かさが広がり、甘さと旨味を同時に感じる。
「おいしい?」
 わたしはホットケーキを飲み込んでから。
「うん、すっごく」
「...よかったぁ」
 聖の感じから、おそらくあまり自信がなかったのだろう。からかってあげよう。
「聖は将来いい嫁になれますなぁ」
「...え?」
 いつもの鋭いツッコミでなく、驚いた顔をする聖。
「...あれ? ノリが悪いですなぁ」
 またふざけた口調で言ってみても、聖はうんともすんとも言わない。
 傷つけてしまっただろうかと心配し始めてきた時、ようやく聖は口を開いた。
「......嫁...なんて、まだ先のことだよ.....」
 しょんぼりしながらそう声を出した。
「...もう一口。」
 わたしがそう言うと、またフォークを差し出した。
 それがしばらく続いた。
 無言で食べ続けるのは、なんだかとても気まずかった。
 誰かといるのに、何も喋れない。わたしはきっと、こういう沈黙が大の苦手なのだろう。
 聖が何を考えているのかわからない。それと同様に、聖も私が何を考えているのかわからないのかもしれないけど。
 ホットケーキを一枚食べ終えた頃。
 わたしは少し、言ってみることにした。

「聖は、わたしのこと、どう思ってる?」

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