第10話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第三話
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2022/04/23 02:10
 わたしにとって、書くことは生きる意味のようなものだ。
 勿論読むことだって好きだ。ただ、馴染みがない。潔癖症気味だから、図書館や図書室に頻繁に行くようなことはなかった。そんなに裕福な家でもないから、頻繁に買うこともなかった。
 しかし、小学三年生の時、夏休みの宿題でやった作文がたまたま賞をもらった。そこで、書くことに目覚めた。
 今でも、あの喜びは忘れられない。あの喜びが、書くことの原動力にもなっている。

 ──のは確かに事実なのだけれど。
「はい、プロット」
 諒子は笑顔でノートを手渡す。中を開くと、文字がびっしり詰め込まれていた。
「おお、たくさん書いてくれたんねぇ。さんきゅさんきゅ」
 正直、二本もわたしが執筆を担当するのはきついかなぁと思う。
 書くことは確かに好きだ。けれど、さすがに負担だ。二本を同時進行で進めて早く終わらせなければ。
「んじゃ、わたしがかんばるよー」
 プロットを何ページも書いてくれている諒子のミステリー小説の方がすぐに書けそう。今日は早めに帰って、家で書いてこようか。
「わたし、帰って書いてくる。先帰ってもいい?」
 わたしがそう声をかけると、二人が一斉にわたしの方を見る。
「うん。それなら私たちも帰る」
 ましろは無表情だ。
「んじゃ、よろしくぅ」
 対照的に、諒子はニコッと満面の笑みを見せる。
 ああ、荷が重い。
 期間もそんなにあるわけじゃないし、急がないとなぁ...。

「ただいま」
 空虚な家に、わたしの声が木霊こだまする。
 姉は遅くまで部活、両親は今日は仕事で帰ってこれない。
 一人きりの寂しい家だ。
 わたしは階段を駆け上がり、自分の部屋へと向かう。
 ガチャリと部屋のドアを開け、鞄を放り投げ、ポイっと服を脱ぎ捨てる。
 着替えてから、わたしはすぐさまノートパソコンに向き合う。
 この前、誕生日にって買ってもらったノートパソコン。中学生にはまだ早いかもしれないが、そんなこと気にせず両親は欲しい物を買ってくれた。
 パソコンを起動させ、早速小説を書き始める。諒子の丸文字とにらめっこしながら、手を動かし頭を動かし、ただひたすらに書いていく。
 キーボードの打鍵音が作業BGMと化す。
 昔、タイピングが早すぎて気持ち悪がられたな。
 そんな思い出を思い返しながら、ただひたすらに文字を打つ。
 諒子の詳細なプロットのおかげで、とても書きやすい。
 つまり丸投げされた聖のプロットから書く百合小説は、ものすごく書きにくく時間がかかるということ。なんてことだ...。
 ガチャリと家のドアが開く音がする。気が付けば日はあっという間に暮れていたのだ。
「ただいまー」
 姉──佐々木暦の声だ。
 聞こえるかわからないが、「おかえり」と返しておいた。
 数分してから、わたしのキーボードの打鍵音に気づいた姉が部屋のドアを開ける。
「小説書いてる?」
「まあ」
 頭を二つに分割して、文字を打ちながら姉との会話を続ける。
「打つのはや」
「ありがと」
「褒めてはない」
「そう」
 画面に集中しているから、姉の姿は視界に映らない。
 ドアがガチャンと閉まる音がした。
 また、一人で文字を打ち続ける。
 ...疲れたかもなぁ。

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