第12話

第二章 聖なる宵とホットケーキ 第五話
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2022/04/24 01:55
 なんと、今日、宵は欠席らしい。
 担任曰く、体調不良とのことだった。宵が今まで欠席したようなことなんてなかったから、クラス中がどよめいていた。
 宵はスクールカーストの頂点に立っており、クラスの人気者。本人は自覚していないだろうけど、宵は成績優秀スポーツ万能、おまけに性格もよく面白い、まさに天才だ。人気者という自覚がないことで、嫌味もない。非の打ち所がない、最高で最強の頂点。
 彼女がいないことで、今日はあまり授業も回らなかった。皆もそれをよくわかっているようで、宵の偉大さを感じていた。
 そんなこんなで、放課後。
 一応今日は宵の家へ行くはずだったのだけれど、この様子だと無理そうだ。スマホに特に連絡はないようだけれど。
 我が家の方角を向いたその時、宵からメッセージが来た。
『うちにきて』
 予想外のメッセージが送られ、しばらく静止する。うそだろ。
 風邪などのうつるような病気ではないのだろうけど、にしても病人の家に遊びに行くのは気が引ける。
 と、躊躇したその時、更にメッセージが届いた。
『お腹空いたから、何か作ってほしい』
 ...つまり、私に看病しろと。
 子供っぽいなぁ、などと思ったけれど、素直に行くことにした。
『わかった、行く。家の地図送って』
 ピコン、とマップのスクリーンショットが送られた。
 地図を見ることはあまり得意ではないが、とにかく従って進み始めた。

 目の前にそびえたつのは、和洋折衷の一般的な一軒家。
 もっと変わった家だと思っていたので、表札を二度見した。けれど間違いなく『佐々木』と書かれていて、それは何度見ても変わらなかった。
 宵の家は普通らしい。そもそも宵自体がおかしな人とは思っていない。ただ天才で、住むところが違う存在──それだけだ。
 家のチャイムを鳴らす。機械音がした数分後、宵が出迎えてくれた。
「いらっしゃい...」
 宵の声は明らかに元気がなく、動きも鈍かった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ...ないかな」
 躊躇いがあったものの、明らかに大丈夫ではなさそうだ。
「さ、上がって...」
 コンクリートの小さな階段を数段駆け上がって、ガチャリと玄関のドアを開ける宵。それに続いて、私も階段を駆け上がり、玄関のドアをくぐった。
 家の中は、まさに一般的な内装だった。うちはマンションだけれど、特に変わったものもない普遍的な家だとすぐにわかる。
 中をきょろきょろ見回していると、宵はすたすたと階段を上がる。急ぎ足でそれについていき、二階に出た。宵は二階の階段のすぐそこにある部屋のドアを開け、こっちこっちと手招きをした。
「...さ、ゆっくりしてねぇ」
 宵の部屋は、特に変わったものもない『部屋』だった。
「...もっと変わったものがあると思ってた」
 思ったこと口に出すと、宵は、
「わたしってそんなに変な人だったかなぁ...」
 落ち込んだ感じでそう言われてしまったので、もしかしたら宵は、変わっていると言われることがあまり好きではないのかもしれない、と思った。
「...と、部屋に呼ばれたけど、何を作ってほしいの?」
 私はベッドに入る宵に、そう言葉を投げかける。
 宵はうーんと考え込んでから、
「何か甘いもの。ケーキ」
「作れるわけなかろう...」
 反射的にそう答えた。
「そもそも私、そんなに料理できるわけじゃないよ? スイーツなんかホットケーキやらクッキーやらぐらいしか作ったことないし──」
「ホットケーキがいい」
 宵は端的に答えた。
 確かに、ホットケーキくらいなら作れそう。ホットケーキミックスがあるかは知らないけど。
 私は「わかった」と返事をしてから、部屋を出て、階段を駆け下りた。

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