それは突然の事だった。
ピーンポーン
とある平日の夜11時頃、インターホンが鳴った。誰だろう??
インターホンを覗き込むとそこには…
「彰輝…?!」
そんなまさか。似てる人?いや、アイツの顔に似た知り合いなんていたか?私はその男の名前を呟いて、動揺しながらドアを開けた。
「久しぶり。」
ダン!
ドアを閉めた。
え、今何が起きた…?
やっぱりどこをどう見ても、私がこの世で1番会いたくない奴の顔だったよな?
すると奴はノックをし続けてくる。
うるさくてイライラしたからドアを思い切り開けた。
「あー!うるさいな。どうしたのこんな時間に。てか、なんで家の場所知ってるの?」
「ん、とりあえず上がらせて。お邪魔します。」
と言って彼は靴を脱ぎ上がり込んできた。
「いやいやいや…!急な展開すぎて訳わかんない、なんなの?!」
すると2人で奥の部屋に入った後、彼はこう返してきた。
「しばらく世話になるわ。」
「…はい?」
彼の名前は本宮彰輝(もとみや あきら)。私の兄である。会うのはもう2年ぶりくらいだ。
「母さんから連絡行ってるだろ?LINE見てないのか?」
「はい?LINE?」
気付かなかった。確かにLINEを辿ると、「お兄ちゃんそっち行くからよろしく!しばらく住まわせてやって!」
と、LINEが入っていた。
しばらく住まわせてやってだと??
はぁ?!
「ほんとだ。今見たわ。てか、しばらく住むって何!?本当に急すぎる!なんで大事な話をLINEでしか言わないの?電話して来ないのが不思議。彰輝もなんで電話してくれなかったの?」
「…お前が俺の電話出るか?」
「うっ…。」
私は彰輝が苦手だ。彰輝本人もそれを知っているからこそ、今みたいな発言をしてきたのだ。それは私にとって図星な事だった。
「ということで、よろしく。」
「よろしくじゃないよ。私まだ許可してないから!」
「とりあえず1回、母さんと話して欲しいな。」
「順序がいろいろと違いすぎる…」
「LINE見てなかったお前も悪い。俺は単純に、母さんがお前から許可とるって言うもんだから何もしなかったんだよ。てっきりOKもらだったもんだと思ってた。」
私が彰輝との同居を許可すると思う?!と思いながらお母さんに電話をかけようとした。
「やめとけよ。母さんこの時間もう寝てるだろ。明日の朝にしなよ。」
彰輝は荷物を部屋の床に起き始めた。
「もう、本当になんなの…。何?彰輝の家具とか来るわけ?狭くなるの?この部屋。」
「俺は別に家具なんて持ってこないよ。着替えとノートパソコンくらい。今日だって、万が一聞いてないってパターンあったら怖いなと思ったから、荷物は少量にしてきた。」
彰輝はボソボソとした声で淡々と話を続ける。
「あっそう。」
「てか、この部屋WiFiとかは?通ってる?」
「…あるよ。学生アパートだから、そういう設備は備え付け。」
「へー。そりゃ良かった。WiFiあるなら仕事出来るな。」
「仕事?てか、もうここで暮らす気満々みたいな発言やめて?」
「文句があるなら母さんに言ってよ。とりあえず、風呂貸してほしい。」
「はぁ?」
渋々彰輝にお風呂を貸した私。なんでこんな展開になっているの?未だに彰輝が今ここにいることが信じられずにいた。
とりあえず寝よう。何かの間違いかもしれない。そうだよ、これは…夢かもしれない…??
私は彰輝の事は無視をして電気を消して寝る体勢を整えてベッドに潜り込んだ。
眠りにつきかけた時だった。
「真愛ー。」
…何かが聞こえる。
「真愛ー?」
そして部屋に入って来た。
「真愛ー?ボディーソープ無いんだけど。切れた。詰め替えある?」
それも下半身にバスタオルを巻いた姿で。そんなかっこうでウロウロするな。
「なんだよー。寝ようとしてたのに。」
「…悪い。」
とはいえ、彰輝は世間一般で見た時にルックスは普通にカッコイイと思う。体付きもバスケを昔してただけあって、細身ではあるけど筋肉もある。顔立ちも整ってて、鼻筋や二重の線も綺麗だ。少し彰輝の体に目をやった後、ふと上をむ向くとガッツリ目が合ってしまった。彰輝はコンタクトだ。入浴中だから外してるはずで、私と目が合ってる感覚はそこまで無いのかも。
不覚にも少しドキッとしてしまった私は、慌てて起き上がって、洗面台の近くの棚から詰め替えを取り出して彰輝に渡した。
「はい。これ。」
「サンキュ。風呂出る時栓抜いてこいとかある?」
「無い。」
「ふーん、分かった。」
私は彰輝と目を合わせることなく部屋に入り、再びベッドに潜った。
夢なら早く覚めて欲しい…。
そう願って眠りについた。
お願い。どうか本当に、夢でありますように…!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!