第2話

神様
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2021/05/11 04:00
ぼくがどこにいるのかなんて
誰も知らないだろう。

興味もないだろうし


ぼくは一匹ぼっち。


大好きだった畑沼さんも、いつも一緒だったみんなも
ぼくのことなんかきっと忘れている。

きっとぼくという存在がいたことすら
覚えていないと思う。


ぼくがこんなことを考えているなんて

ぼくの心がみんなでいっぱいなんて

ぼくはみんなに会いたいと思っていることなんて



誰も知らないし、誰にも関係ないし、誰にも影響しない。



ぼくは一匹ぼっち。


そうだ、違うことを考えよう。



……



…違うこと?

ぼくに違う何かなんてあったかな?


おいしい草のこと?

ぽかぽかと暖かいお日さまのこと?


ここにはもうおいしい草なんてない

こんなところにお日さまは来てくれないじゃないか。


ぼくは馬鹿だ。


もうなにもないんだ。



ぼくは、ただただ悲しい現実を突きつけられたのだ。


もう考えるのはよそう。




それから何日経っただろうか。

しばらく雨が降っておらず
かすかに感じる隙間風もやんでいた。

とてもとても暑かった。


神様、ぼくはそろそろなのでしょうか。


ぼくが生まれた意味はあったのでしょうか。


ぼくが動かなくなってからでも何かのお役にたてますか?


むしさんの餌になったり、肥料になったり…。


答えてください…、

お願い神様…。


あなたともお話できず誰ともお話できずお迎えにやってくるのですか?



そのとき、
ビューっと大きな風と共にとっても強い雨が小屋の屋根をたたいたんだ。


雨だ!!
のどがカラカラだったんだ!

神様、いらっしゃるのですね!
ありがとうございます!!


喜んでいたのもつかの間、大きな雷が小屋を襲った。


うわっ!!!


通常であれば木でできた小屋は黒焦げになっていただろう。
もちろん中にいたぼくも。


でもね、ぼくは黒焦げにはなっていなかった。



ぼくの上には一つの椅子が乗っていたんだ。



…え?


それはとても汚れていて、古びた椅子だった。


もしかして…椅子が守ってくれたの?


その椅子は焦げていない。
その椅子は何かの金属でできているようだった。


焦げたのは
小屋だけだった。


幸い、大雨で火種はすぐに消えていたのだ。



ザーっという音の中に、
畑沼さんの声が聞こえた。


『おーい!大丈夫か!?』


ぼくは必死に鳴いた。力を振り絞って。


『おお!無事だったか!!今出すから!まってて!』


よかった。
ぼくは忘れられていなかった!


『んっ!開かないな…何かひっかかっているのかな?』


雷の衝撃で小屋にしまってあった荷車が扉を塞いでしまったようだ。


『おーい!だれかー!』


ザー…


雨の音でかき消される声。


『だれかー!だれかー!』


やっぱり今日がお迎えの日なの…?

ぼくはまた泣いた。
でも涙も声ももう出なかった。



ガゴンッ!


『お!開いた!!』


え?

ぼくは目を疑ったんだ。


急に体が軽くなった。

それとともに、扉が開いた。


荷台はぼくの横に移動し、荷台のあった場所に椅子が移動していたのだ。


椅子はぼくの上にあったのに。
…なんで?


いや、それよりも…扉が開いた!!


畑沼さん!!!


…じゃない?


あれはたしか…


よく牧場のお掃除をしに来てくれていた、隣町の ろき …?


何でここに?


頭の中でぐるぐると考えながら
ぼくはいつの間にか眠っていた。

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