自分の撮影分が終わっていて良かった。
あの後公園のベンチに座っているあなたを見つけて、思わず抱きしめて。
ファンの子が見ているかもしれないという心配より、あなたに何もなくて良かったという安心が勝っていた。
『…。じゃあ、たこ焼きでも買って帰ろ。ほら。』
あなた「たこ焼き?」
『今の気分。ほら早く立って!』
あなた「う、うん…。」
きょとんとしてこっちを見ているあなたの手を握って、立ち上がらせる。
こういう時は熱いものを口いっぱいに頬張りたい気分だ。
近くにたこ焼き屋さんあったかな…と考えていると、
あなた「かっこいいけど、ズレてるのも、大好きだなぁ…」
そんな声が聞こえてくる。
一瞬空耳かと疑ったが、あなたの表情はそんな雰囲気ではない。
俺がプチパニックになっている間も、あなたはふわっと微笑みながら見つめてくる。
『ねぇ、無自覚?』
あなた「へ?」
『さっきから全部聞こえてる。』
あなた「うそ、私声に出てた?」
『ばっちり。』
あなた「うわ。恥ずかし…。」
『こっちの方が恥ずかしいわ笑』
俺が照れてるのに気付いているかは分からないけれど、無自覚って恐ろしい…。
あなた「…ほくとっ。」
『なに。』
あなた「好きだよ。」
『……っ!』
また不意打ち…!
さすがにこれはきつい。持たない。
明らかに自分の顔が熱くなっているのが分かる。
口に手を当てて、こやつはどこでこんなのを学んだのかと考えていた。
あなた「北斗?顔赤くない?」
『別に。』
あなた「あ、熱あるんじゃない?」
『…わ!ちょ、まっ、』
急にそんなことを聞かれたかと思うと、あなたの細い腕が伸びてくる。
明らかに対象は俺の額。
今度はプチどころではなくただのパニック。
慌てる俺にあなたは微笑んで、腕を伸ばしてきた。
でもさすがに俺も、やられっぱなしではない。
『ちょ、待てって言ってんじゃん。』
あなた「へ?」
何度目かに伸びてきた腕を掴んで引っ張る。
案の定あなたは俺の体に収まって、心臓の鼓動が伝わってきた。
『好きって言われるだけじゃやだよ。』
あなた「…?」
『俺からも言いたいし。』
そしてめちゃめちゃに照れさせて、かわいい顔を眺めようじゃないか。
……そう思っていたのに。
あなた「…ふふっ笑」
『ねぇなんで笑うの。』
あなた「なんでかなぁ笑」
『おい。』
照れるどころかまたキスをしかけてしまった。
そろそろ俺の理性も持たない。
あんな、あと数cmの所でおあずけ食らって、尚もあなたはかわいい顔をする。
あー…。
『まじでキスしてぇ…』
そう呟いたのは、あなたには聞こえていなかったようだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。