似ている。
私が探してる“あの人”と、似ている。
もしかしたら、霞柱様が私の…………
なんて、信じたいけど信じられない。
もどかしさが胸を痛める。
もう一度、霞柱様の優しい語りに耳を傾けた。
どこか、心が落ち着く……。
────────
あなたは、鬼を自分の手で殺すことを怖がっているようだった。
確かに、僕より小さい女の子が最終選別で生き残るなんて無理があるか...
なんてさっきの言葉を後悔していると、あなたが小さな声を上げた。
なんて自信なさげなんだろう
僕は、そんな弱い部分のあなたも可憐で美しいあなたも
全て守ってあげたいと、初めて思えた。
あなたの小さく細い指と指切りげんまんをした。
それから、あなたに毎日会いに行っては素振りをして
たまに戦って、走り込みをして...
基礎練習を終えると、呼吸を教えた。
だけど
何度教えても、どう教えても、あなたは霞の呼吸を体得できなかった。
あなたは、なにかに行き詰るとすぐに弱音を吐いて泣き出した。
もしかしたら、あなたに霞の呼吸は合ってないのかもしれない。
早く動いたり、姿を隠したり、多彩な技術を使う霞の呼吸。
優しくて、素直に自分の感情を表現出来て
小柄で力の弱いあなたにも使いこなせる、あなただけの呼吸。
咄嗟にでたのは、“心の呼吸”だった。
沢山の感情を知っている、あなたにぴったりな呼吸
霞の呼吸を継承させることは出来ないけど
あなたが全集中の呼吸を体得できるなら、そんなことはどうでもよかった。
そう言ったあなたの瞳は見たことがないくらい力強く、頼もしかった。
もうこの時点でわかっていた
あなたは、“心の呼吸の使い手”になる、と……。
あなたは、木の幹を斜めに目にも見えぬ速さで斬り倒した。
まるで、雀が羽ばたいていくように...。
あなたは、思いがけないスピードで心の呼吸を上達させていった。
そして、最終選別へと向かっていくこととなる。
あなたならもう大丈夫なのに
まだ自信が無いのか、最終選別に行くことを嫌がる。
僕は、少しの勇気を振り絞って
あなたの頬に口付けをした。
そうあなたの前では強がっていたけど、本当は僕も怖かったんだ。
もうあなたに会えなくなるんじゃないか、
これでお別れになるんじゃないか、って...。
あなたはにっこり笑ってくれた。
僕が守りたい、大好きな笑顔で。
そうして、あなたは最終選別へと旅立った。
僕は、あなたの気持ちを聞くことなく
─────────“霞柱”となった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!