____________光が見えた、気がした。
まだ高校生の1人の少女が、人生をかけた賭けに出たと言うこと。
仮にも僕は現総理大臣で、僕の隣に座っているのは桐生一彦さんで。
高校生と総理大臣が面会だなんて、普通はあり得ない出来事だから、僕は誰にもこの事を公表していないし、今後するつもりもないけれど。
でも、明らかに僕の方が権力も財力も持っていると言うのに、あの子は言い放った。
『____________どうして、言葉は平等では無くなったのですか。』
真っ直ぐな瞳で。
握りしめた手は震えていたけれど、しっかりと目を見つめて。
『何で、言葉は平等で無くなったんですか。何で、言葉を買おうと思ったんですか。』
『何でもないただの日常は、どうして奪われたのですか。』
自分の意見を、ただ真っ直ぐ。
『桐生さんにも考えがあって、だからこそ、私がそれを否定することはしてはいけない事だって、わかってます、わかってるけど、』
言葉の重みを確かめるように。
『____________言葉を、使わせて、下さい。』
震える声で、それでもしっかりと息を吸って。
『お願いします。言葉を、自由に使えるようにして下さい。お願い、します。』
震える声で、そう言い切った日谷さんは頭を下げた。
日谷さんが、真っ直ぐ前を向いて訴える姿が、まるで。
言葉の管理課にいた、元同僚の2人の姿に見えた。
あの時も、僕はただ無力な人間だった。
あの2人がいたから、僕は言葉の管理課を辞めた。
ああ、このままじゃ駄目なんだって気付けたから。
でも、三宅先輩が笑って僕を送り出した時、少しだけ、引き留めて欲しいと思ってしまった。
国の1番上になっても、僕の本質は何も変わっていない。
結局、僕はただの弱虫で。
周りの力でここまで来た。
____________僕は、日谷さんみたいな人間にはなれない。
自分の全てを賭けて、目の前のものに全力でぶつかる。
そんな人間には、僕はなれない。
でも、それでも良いんだって。
あの2人は僕に教えてくれた。
だから僕は、総理大臣でありながらも、弱い人間のままで生きていく。
僕に出来ない事なんて山ほどあって。
総理大臣という立場に就いた以上、強くならないといけないのはわかってる。
でも、それでも僕は。
自分の信じたいものを、信じ続ける。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!