※見る人によっては不快になるかもしれません、、、!それと捏造多めですこういう話むちゃ好きです。
12月末
今年ももう数日で終わってしまうような日だった。
あの日は特別寒い日で、朝から5℃以下だったそうだ
朝の寒さで目が覚め、布団から出るのを少し躊躇いながらも起き上がる。
太陽の反射が目をさし、眩しくて手で顔を隠す。
「もう朝か、、、」
そんな独り言を呟き、タンスの中から引っ張り出した服に袖を通す。
ヒヤッとした服に身震いしながらも軽くコートを肩にかけ、玄関へ向かった。
、、、俺は毎朝あの場所へ行く。
あの場所って言ってもただの小さなアパートの屋上、、、朝目覚めたらそこへ行って空気を吸うのが日課になっていた。
玄関から漏れ出す風が酷く冷たく一瞬行くのを拒んだが、ため息混じりの吐息に合わせて靴を履いた。
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外は案の定冷たく、肺が痛むくらいだった。
だが気温は変わっても毎日見る景色は変わらない。
錆び付いた深緑の床に、剥がれかけの白いペンキで塗られたフェンス。アパートで使われていたであろうタンクのようなもの。どれも見慣れた景色だ。
ここでいつも朝を迎えては近くのコンビニで買ったコーヒーを啜るのが流れだ。
_だがここに来るのは俺だけじゃない。
ここもそんなに有名な場所でもないが、ここら辺に住んでる人が来て、飛び降りようとするんだとよ。
俺も何度かそんな奴らに会ったことはある。
ここでコーヒーでも飲んでたりすると、音なんか滅多にないから足音なんざすぐわかるもんだ。
そんな人が来る度に
「早く楽になりたい」だの
「苦しい もう辛い」だの聞かされる。
正直俺は1人で居る方が良かったし、目の前で逝かれても迷惑だった。
だからいつも話を聞いて、アドバイスを言って追い返してるだけ、特に特別なことはせずに帰るその人の背中を見ているだけ。
、、、あぁ、今日も誰も来なければいいな。
そうやって東京の冷たい空気を肺に入れ、コーヒーを1口飲んだ。
きっと今日も特別なことは起こらないと思っていた、何気なく外に出て数十分して帰るだけの時間を満喫している最中だった。
、、、だが今日はいつにも増して想像も出来ないような日になった。
特に何も考えず、コーヒーもそろそろ底が見えそうなくらいになってきた時、、、
突然背後から声がした。
「ねっ何してんの〜?」
ほぼ0に近いほど音がならなかったのに、足音すら聞こえなかったのに、何故か俺の後ろには人が立っていた。
突然のあまり小さく声が出たような気がしたが、そんなことより急に話しかけられて脳が回らなかった。
俺は慌てて体の向きを変え、声のする方へ目を向けた。
、、、なんなんだこの人?
今までとは違う人ですごくニコニコしている。
それに俺よりも何歳か年上に見えるし、そういえば足音もしなかったし、、、何者なんだこの人、、、
いや唐突すぎるだろ、、、!
マジでなんなんだよこの人!
今日初めて人に言葉を送ったがその言葉がこんなにぎこちなく何も思ってなさそうな声になるなんて思いもしなかった、、、
何となくで人に声掛けんのかよこの人、、、
それでも背後から急には流石にダメでしょ、、、
すっげぇ笑顔、、、この会話楽しいか、、、?
なんだか逆に怖くなってきた、、、
何だこのガッチマンとか言う人は、、、
おっ。
俺のお気に入りのデグーのポーチに気づいてくれたのか。可愛いよな、、、
、、、いやマジかホントに!?
どうみたってデグーだろ!牛と間違えるか!?
てかこれデグーなのにっ、、、!
ガッチさんは俺が持っていたコーヒーに指を指した。
___こうして出会ったガッチさん。
初めに出会った時はマジで驚いたけど結構話しやすい人だった。
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そうやって毎朝何日もガッチさんと屋上で待ち合わせをして、コーヒーを飲んで、笑いあって。
アイツら飛び降りようとする人達も2人で説得して追い返してやったりして。
、、、そして何ヶ月後にはここから飛び降りようとする人は姿を表さなくなった。
これからずっとガッチさんと毎朝話していくんだと思っていた。
世間話も、自分のことも、人のことも、
毎朝こうやってくだらないことも楽しいこともガッチさんと話していくんだと思ってた。
ガッチさんが飼っている猫と犬の話も聞いている時はこっちも楽しくなったり、俺の家にはデグーがいることも話したりした。ガッチさんはそれをしっかりと聞いてくれていた。
(けどポーチがデグーだっていうのは何度言っても認めないけど。)
__だけどある日、、、
その日常がバラバラになる日が来た。
家で飼っていたデグーのこむぎが亡くなった。
突然の急死だった。
それ以上何も考えられない時間が長く続いた。
もう俺の心はボロボロになっているのは気づいていた。胸ら辺に大きな穴が空いたみたいに、大切なものが突然失われてしまったことの現実を受け止めるのが不可能と化していた。
大人になってでも子供のように泣きじゃくって、
神なんて信じたくなかったが今日だけは、1日でもいいからこむぎと触れて居たいと願いたかった。
それから数日間、屋上なんて行ってなくて。
ただ家で自分の腕を濡らし続けていた。
だけど唐突に。
屋上へ行きたくなる日が来た。
もしかしたらあの屋上へ行けばまた会えるんじゃないか、、、こむぎは屋上で待っていてくれているんじゃないか。
そう思うことにして、服を着た。
もうとっくに寒さなど感じられなかった。
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、、、。
そういえばこむぎが亡くなる前はここでガッチさんと話したりしたな、、、
ガッチさん毎日待っていてくれてたのかな。
朝の5時。いつもよりだいぶ早い時間。
俺は屋上で1人、こむぎを探した。
こむぎはここに居てくれている。 _そんな訳ない。
ここで待っていてくれているはず。
_こむぎはもう亡くなった。
早く会いたい。 _もう、会えない。
俺の頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
例えるなら天使と悪魔の囁きのようだ。
、、、だが紛れもなくこむぎを探しているのも、現実を理解しているのも”俺”なのは分かっていた。
もう、やめたいな。
無意識にフェンスに足をかける。
鉄のフェンスの高い音が屋上に、外にと広がる。
こんなことしたって意味無い。
でもこんなのしないとやっていけない。
、、、あぁまただ。
俺の中の天使と悪魔が囁いている。
でももういいよ。
、、、やってることはアイツらと同じでも。
__アイツらもこんな気持ちだったんだな。
フェンスは俺の真後ろに。
フェンスから手を離して、重力に身を任せてしまえばそこで終わり。
そういえば俺は元々1人が好きだった。
初めっから俺は1人でいたかったんだ。
いつもここに来るアイツらも。
俺が例外無く全員追い返してやった。
____もう、ここに来るやつは居ない。
心が軽くなった気がして。
その軽さで、
手を離した。
最後はこんな末路になるんだ。
もう自分でも納得出来た。正しい行動だと思うのに
どこかの俺が一言言う。
「「ねぇ、、、止めてよ、、、」」
最後に聞こえたのはその一言だけだった。
、、、?
一言聞こえた、、、?
唐突に左腕が痛くなる。
まるで何かに引っ張られているようだ。
俺は状況が理解出来ず、、、俺の手を引く方を見た。
そこには、、、
こんな時間にいるはずの無い。
ガッチさんが居た。
ガッチさんのこんな焦った顔なんて今まで見たこと無かった。
ガッチさんは左手で俺の腕を掴みながら、
俺に右手を差し出してくれた。
両腕で俺を引き上げようとしてくれているガッチさんの目を見た時、、、
俺はまだ1人じゃなかったんだ。
、、、ガッチさんから差し伸べられた右手に掴み、
ガッチさんは両腕で俺を引き上げてくれた。
その時のガッチさんの手は、、、
酷く冷たかった。
引き上げられた勢いで俺は屋上の床に背中をつけた。
仰向けになりながらもガッチさんに問う。
俺は何も言えなかった。
ただ助けられた事が正しいのか、
間違いなのか、ハッキリしないままだった。
ガッチさんが心配そうにこちらを見る。
、、、ハッキリと。
ガッチさんは間違いだと言った。
ガッチさんだって悲しいことは何度もあったはずだ。それでもあんなに笑顔でいたんだ、、、。
ガッチさんは俺に悲しそうな目で問いかけた。
そんな顔をされるとこっちの心が傷んでしまう、、、
軽く笑って見せた俺に、その笑顔を見て安心したのかガッチさんはいつも通りニッコリと笑い返してくれた。
ガッチさんは俺に手を差し伸べてくれた。
俺は体制を変え、
ガッチさんの手を握り、起き上がった。
その手はとても暖かかった。
ガッチさんの手を握った瞬間、
体が急に寒くなったように感じた。
あぁ、、、俺まだ生きてるんだ、、、
ガッチさんに手を貸してもらい、起き上がった後。
ガッチさんに声をかけられた時、
ガッチさんに目をやると視界が滲んでいた。
世界が水彩画に水を垂らしたように、
ぐにゃぐにゃと動く世界があった。
恥ずかしながらも腕で涙を拭く。
あぁ、、、そんなに優しく声をかけないでくれ。
まだ目から溢れる水は止まることない。
ただそんな中、ガッチさんの優しくこちらを見ているその顔だけはハッキリと見えていた。
そうやって背中を撫でてくれた。
ガッチさんが俺の背中を撫でてくれたとき、
こむぎが羨ましそうに俺を見ている気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。