岩本side
「海行きたくね?」
タピオカを飲みながら運転していると助手席に座るふっかが唐突に言う
「何突然…」言いかけた俺の言葉を遮って
「行きたい!行きたい!」ラウールと佐久間が騒ぎ出す
時間は午後15時
確かにこの時期なら海は人が少ない気もするけど
「雨音ちゃんも海行きたくない?!」佐久間が後ろを振り返って雨音ちゃんに聞く
バックミラー越しに雨音ちゃんを見ると困惑しながらも
「行きたいですけど…時間とか大丈夫なんですか?皆さん明日からもまたお仕事ですし」と答えている
「そんなの平気だよ!せっかくの休み!満喫しようよ!お願い照くん!」
ラウールがキラッキラの目で訴える
「お願い照」言われてチラリと横を見るとラウールの真似をして顎下に手を当てて目をぱちくりさせるふっか
「妖怪やん」康二の言葉に
「誰が妖怪や!」と突っ込むふっか
「そんじゃ行きますか」
俺が言うと後ろが騒がしくなる
「珍しいじゃん。ふっかが海なんて」騒がしさに紛れて俺が言うと
「せっかくなんだし。楽しんでもらいたいじゃん?なかなかこうゆう事もできなかったんじゃないかなと思ってさ」と窓の外を眺めながら答えるふっか
チラリとバックミラーを見ると嬉しそうに笑う雨音ちゃんが見えた
30分程車を走らせ海に着くとやっぱり人気はほとんどなくて
車から降りて走り出すメンバー達
それを見て笑う雨音ちゃんの腕を掴み走り出すラウール
「雨音ちゃんってさ」
いつの間にか横にいた阿部ちゃんが話し出す
「ラウールには心許してる感じしない?」
「俺達に敬語使わなくていいよって言っても気付いたら戻っちゃってるけど、ラウールには違うんだよね。今も、腕掴まれても拒む感じじゃないし」
阿部ちゃんの言葉に雨音ちゃんが家に来た当初の頃を思い出す
寝ぼけていたとは言え触れられることを拒んでいた雨音ちゃん
そう考えたらラウールにはだいぶ心許しているのかもしれない
「雨音ちゃんからしても年下だし、弟ができたみたいな感じなのかもよ?実際ラウールあんなに可愛いし」とふっか
「何はともあれ良いことだよね」と笑って阿部ちゃんも走り出す
靴を脱いでズボンの裾を折り曲げ水に足を付ける翔太に続いて佐久間たちも海に足をつける
「冷めてー!」と騒ぎながら水を掛け合い遊び出すみんなに
康二がカメラを向けて写真を撮っていた
足を海につけながら何やら海の底を凝視するめめ
「魚!!今動いた!」と指差して阿部ちゃんと魚を探している
良い意味でうちのメンバーは無邪気だ
だから滝沢くんも俺達なら雨音ちゃんの心を癒せると思って雨音ちゃんを託してくれたのかもしれない
みんなを見ていると
「滝沢くんの気持ちに答えないとな」と俺の考えている事がわかったのか、ふっかが呟いた
俺とふっかも海に向かって歩き出す
しばらく遊んでたら疲れ始めたのか海を眺めて座り込むメンバー達
そんな中雨音ちゃんは1人海に足を付けて寄せては返す波をぼんやりと眺めている
夕日に照らされてオレンジ色に光る雨音ちゃんの輪郭
そんな姿を言葉を交わさず見守る俺達
「綺麗だよね」
ラウールが放った言葉が
それは海なのか雨音ちゃんに向けてなのか、それとも両方なのか誰にもわからなかった
風に流される乱れる髪もそのままに
沈む夕日をただ静かに立ち尽くして見つめる雨音ちゃん
あの時雨音ちゃんが何を思っていたのかは誰もわからない
静かに康二のカメラのシャッター音が響く
その音も海のさざ波によってかき消され
雨音ちゃんには届いていなかった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!