ラウールside
「阿部ちゃんタオル持って来て」
ふっかさんの一声でみんなハッと我に返る
阿部ちゃんはすぐに洗面所の方に走って行った
「俺も行きます」と言ってめめも阿部ちゃんに着いて行く
「とりあえず中に…」
岩本くんが声をかける
「ありがとう」と言って滝沢くんが靴を脱ぎ始める
何となく足下に目をやるとずぶ濡れの女の子は裸足だった
「あ、足拭かないといけないね」
裸足の女の子に気付いた舘様が言うと同時にめめがフェイスタオルを舘様に渡した
足を拭いてあげようと屈んだ舘様にスっと後ろに下がり距離を取る女の子
一瞬の沈黙
なんとも言えない空気が玄関に流れる
「ごめんね、ありがとう。ほら、自分で拭きな。」
見兼ねた滝沢くんがタオルを受け取り女の子に渡す
小さく頷きタオルを受け取ると足を拭き始める女の子
足は陶器の様に白くて細い
奥からバタバタと阿部ちゃんといつの間に手伝いに行ってたのか佐久間くんが数枚のバスタオルを持って戻ってきた
滝沢くんと女の子にバスタオルを渡しリビングに通す
「なになに、どーゆーことなん?頭ついてけへん」
廊下を後ろから歩いて来ている康二くんが小さな声でしょっぴーと話していた
僕も頭がついていかない
みんなそうだと思う
いつも騒がしい佐久間くんでさえ黙って余ったタオルを持ってオロオロしている
岩本くんを先頭にゾロゾロとみんなでリビングに入って行く
舘様が「お茶入れてきますね。翔太手伝って」と言い、しょっぴーを連れてキッチンに向かった。
お礼を言いながら頭をバスタオルで乾かす滝沢くん
隣には頭からバスタオルを被っているだけで乾かそうとしない女の子
顔は…俯いててよく見えない
誰も言葉を発しない
滝沢くんの言葉をみんなが待っていた
そう言えば…滝沢くんは車で来たはずなのに
なんで滝沢くんも女の子もこんなにずぶ濡れなんだろう
雨は、そこまで酷い降り方をしていないのに
ここに来る前は傘も持たずに長時間外にいたのかな
そんな事を考えていると舘様としょっぴーがお盆にみんなの分のお茶を入れて持ってきた
手際良く渡していく舘様に対して、お茶をプルプルと震わせながらみんなに渡すしょっぴー
1人だけオレンジジュースなのはきっと佐久間くんのだ
「改めて、こんな時間に押しかけてしまって申し訳ない。」
滝沢くんの一言でみんなが滝沢くんの方を見た
「この子は雨音(あまね)。俺の親戚のおばさんの子なんだ。歳は…22歳。ほんとに急でみんな理解できないと思う。
だけど、どうかこの子をしばらくこの家に住まわせてやって欲しい」
「え?」ふっかさんの一言
時が止まったように静まり返る室内
窓に打ち付ける雨の音だけが小さく響いていた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!