第5話

bud end「猛獣」
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2020/08/02 12:41
殺せないなァ…
途端に頭痛が来て、
それは俺の意識を覚醒させるのに十分な痛みで。
…でも体は言うこと聞かなくて。
必死にみんなの中で暴れ回ってて。
姿はまるで猛獣さながら。

だって刃物を求めて、
殺しにかかろうとして、
暴れ回って。
そんなことを思うと俺は

飼われてる動物って可哀想だなって。

だって考えてみてよ。

自分が犬とか猫だとか思って。

飼ってくれてる奴は買えばいつでも食える。

でも飼われてる俺らは

素直に命令に従わなくちゃいけない。

従わなかったら貰えないどころか

嫌なことをされる。

正確にはドアの外に出されたり、
嫌な音を出されたり、
奴にとっては叩かれたり。

そうじゃんか。

じゃあ俺は今動物かって言われたら人間だけど

抑えてる側からしたら

めんどくさいペットみたいなもんで。

つくづく俺は思う。


ペットって可哀想だなって。

だからペットには基本自由にさせている。

俺ら人間みたいに。

縛らない。

自分がされたら嫌だから。

後始末はしないと俺も嫌だからするけど。
そう考えると俺は落ち着いてきた。

…ま、自分よりも不幸な目にあってるペットを思い出したからね。




なんだか束縛が弱まった気がして。

するりと手の中から抜け出して。

男に近寄った。

莉犬くん
莉犬くん
結局貴方は何がしたかったんですか?
俺は今、目が笑ってないのだろうか。

それとも、狂った目で相手を見つめているのか。













……刃物を持っているのだろうか。
モブ
モブ
ひ…とを殺して…  み…たく…て
彼の声は枯れていて。

俺は哀れんだ目つきにきっと変わっている。



枯れるまで殴られたんだね。

言葉も言えないくらい呂律が回らなくなっちゃったんだね。

好奇心だけで殺されそうになっちゃって。


俺は悲しいよ。

だってさ…









全て、貴方の行為の所為なのにね。
莉犬くん
莉犬くん
その心は?
モブ
モブ
友人が…ッ…殺人して…って…気持ちいいって…言って…た…ッ
莉犬くん
莉犬くん
そうかいそうかい。
辛いよね。
好奇心だけで殺されかけてさ。
俺たちだけの空間から一歩抜け出してみると……





誰もが驚愕を隠しきれてない様子で。



特にメンバーなんて

「あっ…えっ…っ…?」

って。

驚き過ぎだよ。


るぅと視点
今莉犬の精神が壊れかけてるのは誰にもお見通しだった。




…ごめんなさい。訂正しますね。


「莉犬の精神が壊れてるのは。」

でしたね。

でもそんなことはどうでもいいんですよ。


だってそんな言葉を発しながらずぅっと合間合間に

落ちてる刃物で手首を切ってるから。


男性だってそうです。

莉犬が手首を切ってるのを見て、


次は俺なんじゃないか。
俺がやられるんじゃないか。


そんなことを言っていますし。

でも莉犬にはもう自我なんてきっとなくて。

そうかいそうかい。って言ってて。


それが道端ならまだ良かった。

でも道路で堂々と。
最初は声をかけてましたよ。

僕らだって。

でも声は耳の時点でシャットアウトされてて。

何も届かなくって。

莉犬の妄想通りの言葉しか通さなくなってて。

きっと莉犬に届いた声は少ないんだ。




いつか首まで切ってしまいそうな不安感と

失血死してしまう間近なのは分かっていても止めに入れない臆病な自分。

このままだと本当に死んでしまいそうな莉犬を見てられなくて。

でも僕は臆病で。動けなくって。

誰かが動いてくれるんじゃないか。なんて淡い期待も消えてしまって。
なーくん
なーくん
……ねっ!ねぇ!
俺だよ。ななもりだよ。
今聞こえてる?
最初に動いてくれたのはなーくんで。

いつも引っ張ってってくれるなーくんで。

莉犬に届いているか定かではない声を

一生懸命発し続けていて。
それに耐えられなくなったメンバーや

周りの人々。

通りかかった人でさえ

言い始めた。

「早く戻ってきて。」

流石の声のボリュームで耳でシャットアウトできなくなったかな。

数名の声は届いたのかな。

そんな時、救急が動いた。
最初はあたふたしてた僕だけど、

脳が教えてくれなかった情報を

今やっと脳が受け止めてくれて。

情報を与えてくれた。

莉犬がバサッと倒れたのだ。


失血死?

精神的苦痛?
死んだのか定かではないが

周りの人々は応援してくれた。
「早く起きなさい!」

「ほら、貴方のメンバーが待ってるわよ!」

「リスナーを悲しませないでよ!」



その中に、ぽつりと呟いた声は掻き消される程だったのにみんなの耳に届いた。

「戻ってきてほしい。私は貴方に支えられて救われた。

なのに救ってくれた貴方が死ぬ?そんなのおかしいじゃない。

まだ何も恩返しできていないのに。これって恩を仇で返しちゃうんじゃないの?

リスナーも、ここにいるみんなも。ここまで見世物として見てきた。

なら助けよう。あの人よりもみすぼらしい声だって。

掠れた声でだって。叫び続けて。これは、あの子の母として。

今みなさんにお願いします。

私が愛せなかった分、あの子を幸せにしてあげてください…。」

するとひそひそ声で話しかけてくる人がいた。
ころんくん
ころんくん
ねぇねぇ。あのお母さんって莉犬の母親でしょ?


ころちゃんだった。
ジェルくん
ジェルくん
せやな。でも印象まったく違うな。
さとみくん
さとみくん
おう。莉犬からは最低な母親って聞いたぞ。
るぅとくん
るぅとくん
でも優しかったですね。


きっと自分の罪を悔いて来たのだろう。

勇敢なお母様だ。
僕だったらきっと何もできないままおわっていただろう。
るぅとくん
るぅとくん
…すごい。
なーくん
なーくん
ん?どうしたの?
るぅとくん
るぅとくん
あ、いえ。
なんでもないですよ。
なーくん
なーくん
そう?じゃあいいんだけど…?
さっきよりも声が大きくなっている気がする。

アニメみたいだな。なんて(笑)
………………
……………………………
病院にて
僕らは莉犬のいる病院へと駆けつけた。
車できた方が早いのに走って来てしまった。

みんな速さはバラバラで合わせるのが大変で。


でも共通したところといえば、

「莉犬あいつ死んでないよな…。」

という思い。
僕たちは病院に着くなり直ぐ(受付とかもありましたが)

病室へ駆けつけた。(病院内は走れないのでなるべく早歩きでした)


そこにはまだ眠っている莉犬と先生がいて。
とってもドキドキした。

でもみんな思いは一緒。

「「「「「絶対に莉犬は死んでない!」」」」」

…………………
先生から打ち明けられたことを真面目に聞いた。
中には泣き出す人もいて大変だった。
でも案外僕は泣かなくて。

みんなを慰める係になっていた。
先生から伝えられたことは。













「莉犬さんは失血死してしまいました……。
残念ですが……。」


「え?」とみんなが口々に言う。
でも僕は泣かなかった。

いや、泣けなかった。
脳が処理できてないみたいで。
心が受け止められなくて。
気を紛らわせられるのは慰めることだけで。
そこから僕は生きているようで生きていないような生活になってしまった。
この日から1週間。

お葬式が行われたのだ。

僕はその時の意識はあって。

とても泣いた。

そしてみんなで莉犬の家を片付けることになった。

悲しみがぶり返してしまうが

知らない業者に頼みたくもなくて。

葬式の3日後に行ったのだ。
みんなで泣きながら家を片付けていると

机の中に何かしまってあるものがあって。
手紙一通一通に簡単に目を通していくと

愚痴の手紙や

家の事情。

何十通の中に何通かの嬉しい手紙。
一番奥にしまってある手紙に興味が湧いてしまい読んでしまった。

どうせ後で眺めるんだしいいよね。なんて。


それは少し前に書かれていた遺書で。

メンバー1人1人に手紙が書かれていて。
順番に読み上げていった。


ころちゃんへ


俺ね、ころちゃんが大好きだったんだ。

あ、みんなも好きだけどさ!

てか待って!!これみんな読んでるってことは

俺死んだってこと!?

実感湧かないよ〜〜。

でも20代で書くのはあんま気が乗んないや。

おじさんまで生きてたい!って俺女だけど!ww

大丈夫!!今女って気にして書いてないから!ww

で、話戻すね。

ころちゃんが好きで。

魅力的だったんだ。

声ガラガラなのに歌う時すごく上手くって。

なんでそんな声出せるのーって聞いてもコツだよ。コ・ツ☆

って言われた時はちょっと引いたけど…あはは。

でもギャップって意図的にやっても無理じゃん?

だからすとぷりの唯一のギャップ担当だね!ww


…大事なこと話すね。

今、俺が死んでるでしょ?

でもね、あんまり苦しまないでね。

俺はきっと上から見守ってるから。

悲しい顔されたくないの。

俺のせいで…ってこっちが病んじゃうからね。

でも時々思い出して泣いてほしいな…って俺ワガママだけど。

時々思い出して泣いてくれたなら俺は嬉しいな。

それだけ俺に思い入れてるってことでしょ?

いつもありがとうね。猿なくせにヤギでウマウマレーダーの動物園さん。

やっぱ訂正。ころちゃん。ありがとう。
ころんくん
ころんくん
なんだよ…心配して損だったじゃねぇか…。

さとみくんへ

今ねころちゃん充てる手紙を書き終えてさとみくんの書いてるよ。

さところ?ころさと?まぁどっちでもいっか!

実感わかないとかの話はころちゃんのしたからちゃんと読んでなさいよー(^^)

手書きだから手痛い…けど頑張るお!


でこっから真面目な話するけどいいかな?

いいね!わかった!!

俺はさとちゃんと会えて幸せで仕方なかったよ。

俺の支えでいてくれたさとみくん。

一番嬉しかったのは

誕生日にネックレスくれたこと!

さとみくんのことだから意味あるんだろうなって調べてたら

永遠に繋がろうって意味だった!

でもすとぷりメンバー全員に渡してたよね!

天国でも俺は鎖で繋がれてるよ。

それと、いっつも相談に乗ってくれるさとみくん。

自分で溜め込むくせがあるから俺が死んだ今。

自分のせいとか思っちゃやーよ!!

2人も泣いたら俺死んじゃう!!って死んでるか!ww

でもこれを読んでくれてるのなら、

お願いがあるんだ。さとみくん。

僕のスマホからメモを開いて。

パスワードは「すとぷり結成記念日」

できたかな?

じゃあさっさとメモ開いてね!!

でみんなに充てる手紙を読み終わった後1つの動画があるから見てね!!

んーそれだけかな。なんか内容薄くなってごめんなさい…。
さとみくん
さとみくん
ぜんっぜん内容薄くねぇし…。
でもありがと…な。

ジェルへ


なんで呼び捨てって?いいでしょ別に!!

はいもう行くよ!!


すとぷり入ってから鬱になっていた俺に真っ先に気づいてくれたのはジェルくんだった。

お母さんが鬱だったかららしいけど凄いよ。

だってそこから鬱にならなかったんだもん。

俺よりメンタル強いなって実感したよ。


ジェルくんは泣く想像つかないけど一応言っとく。泣くな!!

俺ジェル嫌いって言ったことあるけど…照れ隠し…だからって書いてたら恥ずかしくなって来た。

責任とってね。ジェル?

ジェルには鬱から解放してもらった恩があるから。

大好きなんだよ?本当はね?

って!照れる!やめい!←

以上、I love. youな赤色わんわんでした!

でもみんなのことも好きだからね!

って〜〜!!恥ずい!!切る!!← 何を
ジェルくん
ジェルくん
俺だって泣くわ…アホ。

お待ちかねのるぅちゃん!!


公式ペアの腹黒ちゃん!!

でも本当じゃない事実も動画にされて辛そうだったのは知ってるよ。

だからぎゅーってしたら顔赤くなってて、「かわい」って思ったww

で!メンバー達!!るぅとくんが辛くない範囲で捏造しろ!!

あ、事実だったらいいよ(^^)


俺はるぅちゃんと会って変わったよ。

今まで中性的な声が嫌いってからかわれてたの。

でもるぅとくんお得意のショタボさんと会って一変。

辛さを分かち合えてついには愚痴をケラケラ笑いながら言えるぐらい楽になった。

リスカをやめたのもそれかな。でも俺狂うとやっちゃうからなー。やばやば(^ν^)

さ、て、と!真面目タイム!(?)


最近はコラボ曲も増えてるよね。

でももうコラボできないんだもんね。

だから上を向いて話しかけてね。俺に。

なんでもいいよ。憎まれ口でも泣き声でも。

全部全部拾ってあげるから。

メンバーの声以外シャットアウトしてでも聞いちゃうから!!

…なんてね☆ by君が大好きさ☆❤️U^ェ^U
るぅとくん
るぅとくん
変な顔文字使わないでくださいよ…
今ウキウキできる気分じゃないんですから…(笑)


最後に!リーダーななもり!さぁお読みなさい!


いっつも責任感が強くて何事も挫けなかった引っ張り役のなーくん。

俺はその性格に憧れて本気で歌い手を目指そうって思った。

最初は遊び半分だったんだけどね。それについては謝るけどさ。

でも結成当時からずっとチャレンジ精神が強かったよね。

俺あのとき萎えたもん。こんな俺がすとぷりやってていいのかーって。

…まぁ現在進行形でやってたはずなんですがね!

でも人の命って脆いからすぐ死んじゃう。

タコさんみたいになりたかった(^^)

ごめんね。迷惑ばっかかけてさ。

でもすとぷりは残った5人で作っていってね。

勿論最前線はなーくんだよ!頑張って!

上から神様にすとぷりをナンバーワンにして!って言っとくよ!

現状維持じゃ平行線!!あえて逃したあの終電!!

仲間を信じてした挑戦!!目指すはナンバーワン!!!!!!

ってことで頑張れぇぇぇぇぇぇ!!

以上(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾すとぷりのかわいいアニマル担当の赤色わんわん莉犬だにゃ…じゃなくてわん!

(今の聞かなかったことにして)
なーくん
なーくん
いつまでたっても莉犬くんだなぁ…うっ…
さとみくん
さとみくん
…んじゃ、動画見ますか。
さとみくんはスマホを取り出して(どこから取ってきたんですか)

結成記念日を入力。

素早くメモを開いて動画を見た。



動画には遺書に書いてあったことを読み上げているようなものだった。

でも最後まで見ると

「今話したことを遺書に書く!!手死ぬかも!ww」

とか、遺書に書かれていない思いだったり

おまけ形式で色々あった。

最後は

「こんな俺だけど忘れないでね。それじゃあみんな。もう何もないよ。
だから…だから家を片付け俺は終わり…だよ…っ。
永遠のさよならなんてしたくないけど…ばいばい。」


ここで動画が切れている。



〜あれから数年〜


まだすとぷりとしての活動は忘れずにやってます。

時々莉犬を思い出して泣いちゃう日もあるけどね。




「ねぇ莉犬。聞こえますか。
あれから今まで以上に人気になったよ。
でも莉犬を知らない新規の子もいて悲しいかな。
それじゃあ莉犬。また後で話そうね。
今から会議があるんだ。
盗聴しててもいいよ。……ばいばい。」
今日はこれでいいかな。と天へ語りかけるのをやめた。

また明日かな。と思いちょっぴり悲しくなる。

でもこれからも支えていてね。莉犬くん。












(俺も待ち切れないよ!
だから会議の後にもっかい話してね!!

今日もお疲れ様。るぅとくん。)



莉犬の声が聞こえた気がした。幻聴かな。

まぁ幻聴でも嬉しいことに変わりはないよ。

「ありがと。莉犬。」


(幻聴じゃないよーww
いつも隣にいますからね!
いつでも話しかけてらっしゃい!!

あ、でも上じゃなくて話しかけてるとき前にいるから
前に向かって話しかけてくんない?)






bud end 「失血死」

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