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第19話

此方が望むのならば。


「・・・っ相変わらず馬鹿力なんだから」
背中を自身の手で抑えながら先程まで此処に居た人物の悪態をついた太宰さん。
先程まで居た中原さんは太宰さんに懇親の一撃を食らわせた後満足気に帰って行ったのだ。
今、薄暗い路地には僕と太宰さんのみである。
「さて、芥川君」
自身の名を呼ばれ自然と顔を向ける。
ポートマフィアに居た頃、僕に向けることの無かったあの楽しそうな表情が目の前にあった。
勿論その顔に慣れておらず目を逸らす。
「・・・はい」
「中也ね、羽那ちゃんに近々告白するんだって」
そんな事、先程の二人の会話で分かった。
だが触れたらいけないだろうと思い聞かなかった事にしたのに、何故彼は掘り返したのだろうか。
「・・・」
黙って聞く僕に彼は話し続ける。
「全く、困ったものだよ。何せ告白をしないって最初は駄々を捏ねるんだもの!やれやれ、あの身長と言動だと完全に小学生だねぇ」
本題に入ろうとしない太宰さん。
僕から本題を尋ねるべきか、
「僕を呼び出した理由は。」
「・・・元上司の世間話も黙って聞けないのかい?」
目が合った。
今度はマフィア時代の”あの目”。
・・・僕は今、判断を間違った。
黙って話を聞いておけば良かったのだ。
「・・・すいません」
「まぁ、そんなに要件を聞きたいなら教えてあげよう。心して聞いて呉れ給え」
「はい」
「・・・・・・羽那ちゃんの事どう思ってるのかい?」
「!」
「いやぁ、私の小さな相棒が告白するけど、そう云えば芥川君と羽那ちゃん仲良いなぁって思ってね。確認しておこうかなって!」
陽気に話すが目が笑っておらず恐怖そのもの。
オマケに此方は僕を”元部下”として扱い、中原さんのことは”相棒”としている。
何故だ。
何故部下とさえして貰えない。
僕が弱者だからか?
ならばもっと強くならねば。
もっともっと力をつけなければ。
「・・・もう一度尋ねよう。君は羽那ちゃんのことが好きかい?」
太宰さんの声で我に返り「羽那とは仲良く有りませぬ」と素っ気無く返答した。
「本当に?」
「そのような嘘を付く理由が無い」
「・・・安心したよ」
とニコリと太宰さんは笑ってみせたのた。












僕は此方に嘘をついた。
本当は・・・羽那に対し何かしらの感情が有る。
然し、此方は中原さんと羽那が結ばれる事を望んでいるのだ。・・・ならば僕は・・・・・・大人しく身を引くしか無いだろう。




















握り締めた指先の爪が己の皮膚に
深く
深く
食い込んだ。




















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私が「羽那ちゃんの事、好きかい?」と尋ねると
芥川君は「彼女とは仲良くない」と答えた。
私は好きかどうか聞いたのだが・・・
然し之は彼なりの気遣いであると直ぐに分かった。
「本当に?」
「そのような嘘を付く理由が無い」
そう言う彼の拳は強く握り締められている。
嘘、ついてるじゃあないか。
”君は本当は羽那ちゃんが好きだろう?”
そう言おうかと思った。
だが私は「・・・安心したよ」と代わりの言葉を伝えた。
折角彼が自分の気持ちを押し殺し中也の気持ちを
尊重したのだ。
・・・私が中也を応援しているからだとは思うが、
芥川君が身を引こうとしているのは事実。
そこで私が邪魔をするのは間違いだろう。
黙々と考えた後に「もう帰っていいよ」と言ってあげると「はい・・・」と静かに答え咳を零しながら路地裏の奥へと芥川君は姿を消したのだった。