「はァ」と俺は羽那が見えなくなったコトを確認
すると溜息を吐いた。
「・・・結局彼奴誘えてねェ」
そう。誘えてない。
誘わなければ成らない、頭では解ってる。
けど言おうとすると無駄に意識して言えない。
「俺は餓鬼かよ・・・」
百歩譲って之が学生なら解る。
けど俺は学生を経験したコトの無い成人(22)だ。
取り敢えず、誘わねば。
意気込んで来た道を振り返った時、一台の屋台が
目に止まった。風車のみが売ってある奇妙な出店。
物珍しいので自然と脚が向く。
出店に行くと「いらっしゃい」と婆さんがしわしわの顔で愛想よく笑う。
「なァ此処って風車だけなのか?」
「そうだよ、坊ちゃんいるかい?」
・・・”坊ちゃん”という言葉は聞かなかったことにしておこう。とても感に触ったが。
「之くれよ。いくらだ?」
俺が聞くと婆さんは風車を手に取って
「此処の風車はね魔法が掛かっているんだよ。之を貰った人は皆ね、笑顔になれるんだ。だから坊ちゃんも誰かにあげたら笑顔が広がるねぇ。」
と和やかに話すもんだから”坊ちゃん”と呼ばれることに対しての苛立ちも消えた。
「そうなのか。」
ポツリと言った言葉が聴こえなかったのか、其の儘「はいどうぞ」と風車を手の上に乗せられる。
「婆さん金は?」
「そうだねぇ、坊ちゃんの笑顔が見たいねぇ」
「え。」
俺は悪い冗談かと思ったが婆さんは相変わらず
しわしわな笑顔の儘なので冗談じゃないらしい。
・・・仕方無ねェ。
「婆さん、有難うな」
俺は営業スマイルと感謝の言葉、其れから数万円を
婆さんの手に握らせた。
「おやまぁ、こんなに貰ってもアタシャ・・・」
「子供や孫に使えば良いじゃねェか」
「・・・そうだねぇ、そうするよ。有難うねぇ」
しわしわな顔を更にしわしわにさせた婆さんを見て
ふっ、と自然と頬が緩んだ。
___________あ、本当に風車貰ったら笑顔になった。
そんなことを思いながら俺は出店から離れた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。