中原さんに宣言したあと、羽那を探し歩いた。
梅酒専門店。
行き付けのカフェ。
噴水のある広場。
「居ない・・・」
予想が全て外れ。
電話をあれから何度か掛けたが矢張り繋がらず。
「羽那め・・・僕に探させるなど・・・」
言葉の最中に咳が零れる。
咳が落ち着き、ふと、目止まったのは路地裏。
確か此処ら辺は・・・以前、中原さんによって羽那が拾われたという路地裏・・・・・・・・・。
仄かな期待を心に忍ばせ路地裏に脚を踏み入れた。左に、右に、右に、左に。何となく進んで行く。
然して、行き止まりに辿り着いた。
行き止まりの所には様々なものが雑に積み上げられており、その上に膝を抱え座り込む”羽那”。
やっと、見つけた。
僕は安堵の溜息を零し自らの異能で身体を持ち上げ彼女へと近付く。
「羽那」
自身の名を呼ばれたことに驚いたのか素早く顔を上げた彼女の顔半分はフードで隠されており見ることは出来なかった。
「羽那、こんな所で何をしている」
「・・・・・暫く一人にして。」
彼女の声は泣いているのか少し震えていた。
ズキン、と胸が締め付けられる。
「駄目だ。」
「・・・・・・・・・。」
沈黙が落ちる。
数秒後、羽那は立ち上がったかと思うと軽い足取りで建物から建物へ飛び、建物の上へと行った。
其れの後を追う。
「待て、羽・・・」
「何で着いてくるの?」
立ち止まりクルリと此方に振り返る羽那。
建物の上は風が強い為、彼女のフードがめくれ今にも泣き出してしまいそうな顔が露になった。
予想より繊細で綺麗な表情。
触れれば壊れてしまいそうな_______________
「こんな顔じゃ社に戻っても心配されるだけよ。
あの人にも迷惑かけたし・・・」
羽那の瞳が揺れる。
”あの人”とは中原さんのことだろう。
僕ならそんな顔をさせないのに。
絶対、させないのに。
「羽那。」
最大限に微笑んでみせた。
其の僕の表情に驚いている彼女に近付く。
「羽那。」
「な、に」
戸惑う彼女の右頬を僕の手で包む。
更に驚き何時も異常に大きくなる瞳。
_______________あぁ、綺麗だ。
「あ、芥川何し・・・」
「僕にしておけ。僕ならそんな顔をさせない。
そんな顔、絶対に。」
「・・・意味分かんない。」
「分からぬか?」
ならば教えよう。
「貴様が好きだからだ。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。