第23話

episode⑦fin.「あいされる。」
393
2022/08/31 19:09
彼女の勤めるカフェの近くまで来た。
連絡はしてない。
仕事中はきっとスマホ身につけてないだろうから。
なんの確証もないけど、さっき、仲間の話を聞いて、来た。お店がある反対側の歩道から、様子を伺うと、あなたの下の名前ちゃんが今日もお店にいるのがわかった。もう遅い時間だし、閉店までかな。

前は、何も言わなくたって、突然お店に行って飲み物買ったりしてた。
なのに、仲良くなればなるほど、行かなくなったし行けなくなったな。スケジュール的な問題もまああるけどさ。

今日、今なんて、別に、今行けるのに、
なんか、行かない俺( ̄∇ ̄)。
人の気持ちって不思議やー、と思いながら、お店から離れた。
橋本涼
橋本涼
=====
ガリさん、会えた?
=====
橋本先生からメッセージ。

ありがてえ、マジ…🙏✨

猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
=====
ううん。まだ仕事中だから、さっき姿は確認したけど、まだ会いに行ってない。終わるまで待とうと思うよ。
=====
橋本涼
橋本涼
=====
そかそか。
なんかあったら、俺でも他の誰かでもいいし、ほんと、言ってよ?
なんか気になったからさ。
=====
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
=====
うん。あとで会えるのは会えると思う。
頑張る。ありがと。
=====
色んなこと考えながら、ちょっと手持ち無沙汰だったし、メッセージくれたのはありがたい。気持ちも少しだけど落ち着いた感じがする。

お店の閉店時間までまだだいぶあるな……。
今日彼女が何時上がりかも知らないで来ちゃった。
もう遅いしこの感じだと閉店まで仕事して上がるんだろうけど。

俺は、
初めてあなたの下の名前ちゃんと話した場所に来て、ガードレールにもたれて考え事をし始めた。これまでのこと沢山思い出して。

お店が閉まる前にメッセージを入れておいた。





「お仕事終えてお店出たらすぐ連絡して。会いに来たから。」




びっくりするかな。

喜んでくれるかな。


初めてちゃんと話した時のことを思い起こしたら、この場所で彼女が来るまでソワソワして待ってた時の感覚が蘇って来た。あん時はまだ敬語で話してたなーなんて。
(なまえ)
あなた
どうしたの?!
どういうこと?
会いに来たってなに?
全然時計見てなかったら、突然電話かかってきてびっくりした。

混乱してる(笑)。

そりゃあそうだよね。
急遽寄ったんだし。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
落ち着いて(笑)
(なまえ)
あなた
いや、なんかあったの?
落ち着いてられないよ。急にこんなこと言うから………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
会いに来ちゃ駄目だった?
(なまえ)
あなた
そんなことないけど、でも…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
同僚の人と一緒に帰るとかだった?
(なまえ)
あなた
あー、ううん、メッセージ見て、お店閉めてからすぐにスタッフとは別れたけど。
(なまえ)
あなた
会いに来たってなに?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
会いに来たの。
(なまえ)
あなた
え?
いま?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。なんか突然思い立って、行かなくちゃって思って来た。
今どこに居る?歩いてる?
(なまえ)
あなた
うん。
駅の方向に歩いてるけど………蒼弥くんがどこに居るかわからないし。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
初めて話した時の場所、駅の階段に居る。
(なまえ)
あなた
え?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え?覚えてる、よね…?
(なまえ)
あなた
覚えてるけど勿論。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そこにいる。
あ、通り過ぎちゃった?
(なまえ)
あなた
ううん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
今どこらへん歩いて…
あたりを見回そうとしたら、すぐそこに彼女が立ってた。
なんか、
電話繋いだまんま、
しばらくお互いのこと見てた。
(なまえ)
あなた
びっくりした。
電話で話してる(笑)。

彼女に近付いて、電話かけてる彼女の手を取って、俺が電話を切った。

猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ………なにこれ。
その時、
あなたの下の名前ちゃんの手の甲と腕に傷があるのに気が付いて、俺は二度見してもう一度優しく手を取った。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
待って待って、これなに、どうしたの。
(なまえ)
あなた
あーーー、これ、怪我したの。もう治りかけだから平気。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いつ!
(なまえ)
あなた
こないだ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
って、いつ?
(なまえ)
あなた
ちょっと前。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なんで。
(なまえ)
あなた
私がぼんやり歩いてたから……自転車に乗ってる人とちょっと当たっちゃって😉。
ほんと、ボーッと歩いてたもんだから。
(なまえ)
あなた
あっ、でもね、その自転車の人が、すごくちゃんとした人でね、その場で止まってくださってね、それで、
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いつ。
(なまえ)
あなた
え?少し前だよ、こないだ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
もう治りかけてる、でも打った痕はまだ分かるよ。少し前よりもうちょっと前だよね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いつ?
(なまえ)
あなた
怒らないでくれる?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え………なんで俺が怒るの……怒らないよそんな、まさか。心配はしても怒ったりしないよ。
(なまえ)
あなた
うん、蒼弥くんが失敗した日。
絶句だよ、こんなの。
なんも言ってなかった。
あの日、電話で話もしたのに…………

俺の手に重なってる、まだ怪我の痕が残ってる手を見つめたまま、そんな気持ちになってた。
(なまえ)
あなた
なんで言わないんだって思ったでしょ、今(笑)。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そりゃあ………だって、なんで。
(なまえ)
あなた
言えるわけないじゃない。
でも俺は連絡しちゃった。あの日。
仕事失敗した、って。
(なまえ)
あなた
大事なお仕事の本番期間中?だったんだし。蒼弥くんが失敗したーって言ってた時だし…それに、前の日に私が、連絡しばらくやめようかって言ったんだから😊
(なまえ)
あなた
それにね、別に大した怪我でもないから。ほんとに。自転車の人がね、一応お医者さん行って下さいって言ってくださったから、一度行ったんだけど、そんなに何もなかったんだよね。打ったのと、表面的な擦り傷だけで。だから言うほどのもんでもなかったしさ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そうか。
(なまえ)
あなた
ほんと、私、ぼんやり考え事してたもんだから(笑)。
はしもっちゃんが言ってた、
「我慢してんのは彼女だから」
「お前が言えなくしてる」
って言葉が、頭の中をループしてる。
無限ループ。
(なまえ)
あなた
………あの、平気だよ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え?あ。うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
……まだ痛い?
(なまえ)
あなた
ううん、大丈夫。
ぎゅって押さえたりしたらそりゃ少しまだ痛いけど、普通にしてる分には何も困らないくらいには回復してる。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なんで俺に怒らないの?
(なまえ)
あなた
なにに怒るの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
だってさぁ、
俺が仕事しくじった日にこの怪我したんでしょ?俺に何度も聞いたじゃん、怪我してない?って。
自分が怪我してたのに。
俺なんか、失敗したとか言っても、怪我も無いし、なんとか最後まで仕事は出来た。
終わるまで連絡やめようよって言われたのに、いつも俺から連絡してた。それを無視しないでメッセージも電話も対応してくれてた。

ほんとは、
俺の大事な仕事が終わるまで連絡やめようって言ったあなたの下の名前ちゃんの方が、俺よりも苦しかったんじゃないか。
怪我しても言えなくて、俺の失敗心配して、
会える?って言ったら俺に「あー、言っちゃう?それ?」とか言われて、
俺のまとまった仕事終わっても会おうって言わなくて、
終わったらゆっくり話そうって言ってたくせに改めて話そうとも言わないで。
(なまえ)
あなた
いや、本当に大丈夫だよ?
怒ることもないし。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
今日ね、反省会したの。
(なまえ)
あなた
お仕事の?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そう。
俺がミスったこととか、全体のこととかも、今後どうするかとかも話し合う日で。
(なまえ)
あなた
それが終わってから、ここに来たの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
それで、
優斗たち、もう知ってた………
(なまえ)
あなた
え?なにを…?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺らのこと。
(なまえ)
あなた
どうして?!びっくりなんだけど。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ね。不思議だよね。
俺もあなたの下の名前ちゃんも何も言ってないのに。
(なまえ)
あなた
うん…
(なまえ)
あなた
なんでかは、聞けたの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
休みの日に会ったでしょ?
あれ、
優斗と瑞稀くんが偶然見てたんだって(笑)。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そんなこと、ある?普通。
あなたの下の名前ちゃんは、とても驚いてた。
(なまえ)
あなた
でも、一緒にいるところを見かけただけで、なんで……?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
普通の距離感じゃなかったんだって。
(なまえ)
あなた
えーーー………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
お店に行ってた時も、なんか変だなーって思ってたって言われちゃった。
あなたの下の名前ちゃんは、今の今までびっくりしていたのに、急に笑い出した。
それが、俺は、嬉しくて、
何故って、やっぱり、そもそもお客さんと店員として優斗と仲良く接してたわけだし、仲間の手前、俺と個人的に関わってることは言わない方がいいと思って秘密ねって俺が言ったからきっと彼女もそうしてくれていたし、第一そんなこと堂々とカミングアウトしたところで仕事しづらくなっただろうし……今後またみんながお店に行くことがあったら、やりづらいだろうなって思ったのに、めんどくさい顔ひとつしないで、笑ってくれたから。
(なまえ)
あなた
言ったでしょ?
すぐわかる気がするって。
(〃艸〃) 
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
我慢しなくていい、もう。
俺があーしてこーしてって勝手ばかり言って申し訳ない…
俺は、彼女の怪我した手をずっと両手で包んで撫でてた。
話してる間ずっと。
(なまえ)
あなた
なに?我慢って(・∀・)。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
こういう、なんてゆーか、うん、その、俺が、仕事の内容によってたまに偉そうになったりオラオラしてたり上からになったり、あと、この前みたいにヘマしてシュンとしてたりしても、あなたの下の名前ちゃんが「これは今言ったらダメだな」とか考えて言葉呑み込まなくていいっていうこと。
(なまえ)
あなた
私、のみこんでないよ?
我慢もしてないし。
ポカンとして、頭の上にハテナマークがいっぱい浮かんでる感じの彼女だったけど、俺はそれが既に我慢させてるような気もして、
ううん
って首を横に振った。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
橋本先生に怒られたんで………。
(なまえ)
あなた
橋本先生ってそれ誰(笑)。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
みんなでお店に行った時に居たよ。
(なまえ)
あなた
蒼弥くんとお仕事一緒にしてる人?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
本番期間中、気が張ってるのは分かるけど、あなたの下の名前ちゃんに「会いたいな」って言わせないようにしてるのはお前だ、って。
(なまえ)
あなた
そんな大袈裟なこと……
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
休みの日に2人で初めて会って出掛けて、あれが初めてのデートみたいなもんなのに、翌日から俺が大事な仕事続いて、だから次の約束もしないで会いたいも無しで…お前そのまま2回目無いのかなって思われて終わるぞって(笑)。
(なまえ)
あなた
あー、それは、少しだけ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え……?!
Σ(;゚ω゚ノ)ノ
(なまえ)
あなた
思ってた時ある。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あの、それは、どういう…
(なまえ)
あなた
(笑)またその顔する。
俺は、心配になると顔に出るみたい💧
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
はしもっちゃんにも笑われた。
(なまえ)
あなた
その顔?(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん………明日地球滅亡するみたいな顔するなって。
(なまえ)
あなた
私の好きと、蒼弥くんの好きは、
違うのかもなーって思ったりしてたかな。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前ちゃんの好きはどんなの?
んー、って彼女は考え込んじゃった。
答えにくい質問だったかな。

俺の好きはなんなんだろうって同時に考えてみた。

タイミング的に、絶対に、女の子にうつつ抜かして浮かれて仕事しちゃいけないって強く強く思ってた。
この気持ちのほうが、勝ってしまってたんだろう。
(なまえ)
あなた
私は、事情がどうとか関係なくフルオープンでどんどん好きになりたい感じかなぁ。
(なまえ)
あなた
だからね、
(なまえ)
あなた
お仕事終わったら会える?って普通に当たり前みたいに聞いて、蒼弥くんが「それ言っちゃうと自分が保てないから」みたいな話をしてくれた時に、あれ………?って思った。
(なまえ)
あなた
この人は、もしかしたら、お仕事を完璧にやり遂げる為の力として誰かと付き合ったり好きになったりするのかなって。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
確かに、俺、あなたの下の名前ちゃんと会って、力になってるって感じてたよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
でもそれって、誰かを好きになったら、そうなるんじゃない?その人が居てくれるから頑張れたり、その人と話すだけで出来ないことなんか無いと思えたり。
あなたの下の名前ちゃんは俺の手を、まだ少し傷痕が残ってる手で握って、淡々と語った。
(なまえ)
あなた
私は違う。
(なまえ)
あなた
私は………。
(なまえ)
あなた
蒼弥くんと出会う前までの自分の暮らし…仕事とか普段の生活とか…は、蒼弥くんと出会っても変わらない、仕事のクオリティも変えない。蒼弥くんが居たら頑張れるんじゃなくて、いつも頑張ってるわけでもなくて、いざって時に力が出せるようにしてる、常に。蒼弥くんが居ても居なくても。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃあ俺がいる意味は?!
俺が居ても居なくてもいい?
(なまえ)
あなた
私の仕事をうまく行かせる為に蒼弥くんが居るんじゃないもん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃあ、なんで。
俺は何のために居るの。
(なまえ)
あなた
何のためとか無いの!
何のためとかってなったら、それはもう、必要なだけで、何かの役に立つから居てくださいってことになるじゃない?私そーゆーのじゃないもん、蒼弥くんのことは。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃあ、なに。
なんで俺と距離詰めたの。
(なまえ)
あなた
好きだから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なんで。
(なまえ)
あなた
なんでとか無い(笑)
困って笑ってる。
なんでとか無くて、理由もなしに好き、ただそれだけ。
(なまえ)
あなた
分かんない?
(なまえ)
あなた
好きだけじゃ、おかしいの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
おかしくない………
(なまえ)
あなた
私が、また会える?って言ったのは、「どうして次の約束もしてくれないの?」って言ってるんじゃなくて、言葉のまんまだよ。
大変な時に無理に会って欲しいなんて思ってなくて、一通り終わったら私と会える?ってそれだけ。
(なまえ)
あなた
会いたいけど今は無理だよって答えさせたいんじゃないもん。
また会える?うん会えるよ、ってだけで嬉しいのが、好きってことじゃないの?
(なまえ)
あなた
話したり、会ったり、メッセージやりとりして、心が動くだけだよ。
私の怪我も、蒼弥くんの失敗も、心が動くくらい考えててただただ好きだから、それだけじゃん。私、怪我したの蒼弥くんのせいにしたくないもん。
(なまえ)
あなた
わー、そんなに好きだったっけー?って思ったよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
………俺も、いつもなら絶対しない失敗するくらい、考えてて、好きだったのかな。
(なまえ)
あなた
やっと喋った(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん、なんか、考えてた。
あなたの下の名前ちゃんの話聞きながら。
俺はどうだったかなって。
(なまえ)
あなた
なんかね、ぐちゃぐちゃいっぱいまた余計なこと、私、話しちゃったけど………
彼女は俺の手を解いて、控えめに俺のこと抱き締めて来た。
(なまえ)
あなた
びっくりしたよ。
会いに来てくれてほんとに嬉しい。
(なまえ)
あなた
ほんとに、もしかしたら、もう、次は無いのかなって。好きって言わなきゃ良かったかなとか。思ったりもしてたから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あのさ。
(なまえ)
あなた
あ…ごめん。一方的に決めつけて。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ううん、あのね、
多分、俺とあなたの下の名前ちゃんって、休みとかスケジュールが合いにくいし合わせにくいと思うんだ。
(なまえ)
あなた
うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いつも、夜に、連絡取り合って話してたけど、今日みたいに少し会えば良かったのかも。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
30分とかでも、会えた方が、なんていうか……顔見て、面と向かって話して、その日その日で様子も分かるし。
(なまえ)
あなた
でも…大事な期間中だったんでしょ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そうなんだけど。
でも、ちょっとでも会える時に会ってたら、全然気持ち違ったかもって思うんだよ。会ってたら少なくとも「次は無いのかも」なんて思わなかったはずだし。
俺よりずっと小さい身体を抱きしめ返しながら、俺しっかりしなきゃなーって思った。
仕事しくじったことで彼女を頼って、
同じタイミングでこんな怪我してたこと全然知らないで、俺の不安ばかり話しててほんとバカな俺。助けてもらうことばっか考えてたんかな………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
次会う約束決めようよ。
今日帰ったら休みの日とかスケジュール確かめといて。ちょっとでも会えそうなタイミング合わせて行こ。
彼女は、頷いてくれた。
表情見えないけど、きっと嬉しそう。

俺って多分だけど言葉が足りない。
お喋りな癖に大事なことや肝心なことを言えなかったり言わなかったりしちゃう。好きな人相手だと特にそうなる傾向があるのかもしれないなって、自分で今回気付いた。
なんかこれって、致命的(笑)。

俺と違って、あなたの下の名前ちゃんは、
普段は気を遣ってくれてあまりあれこれ言わないけど、電話やメッセージでも無駄なことは言わないし、潔く暫く連絡やめようなんて言っちゃう決断もできたりするし、話さなきゃいけない時には今日みたいにすごく沢山考えていたことを話してくれる。

たまに、
俺と似てて理屈っぽいとこあるな〜なんて思うんだけど(笑)、どんなに想って考えてくれてるか伝わる。


猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
もう、優斗たちにも知られちゃってるしね。今度からは、大事な仕事あっても、その先の約束も相談して、これ終わったら会えるーーーー!っていうほうの強気で行く。
それに対してなんも言わない彼女。
ただ、ニコニコしてて、そんな姿見て俺もなんだかニヤけちゃう。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
この間会った時も、気付いたら予定より長く一緒に居たけど、立ち話でこんな何十分も居られるのも相当馬鹿だよね(笑)。
(なまえ)
あなた
こんなに居るならご飯でも食べに行けばいいのにほんとに馬鹿だよね(〃艸〃) 
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
でも、あなたの下の名前ちゃんが言う「ただ好き」ってそういうことなんでしょ?
(なまえ)
あなた
うん…………。
一緒に居たらご飯もいらないって、痩せちゃうかもねー。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ、それは困るのよ。
(なまえ)
あなた
なんで?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
マーケティングに支障が出る。
(なまえ)
あなた
え?蒼弥くんってどこのフィールドで戦ってるの?(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
……( ̄∀ ̄*)
次会う時はさっさとご飯食べに行こうか。
(なまえ)
あなた
うん。次に会えるの楽しみにして待ってる。
(なまえ)
あなた
………ん?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん、ちょっと待っててね。
不思議そうに俺のこと見上げてる彼女。

駅から出てくる人の流れが途切れるのを俺は待って、その場が静かになった時、さらっとキスして、彼女の髪を撫でた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ほんとは俺もずっと会いたかったよ。
次に会えるの、俺も楽しみにしてる。
(なまえ)
あなた
じゃあ………。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
今日はこれで。
帰ろっか。
(なまえ)
あなた
優斗さんたちにもよろしく伝えてね。またお店来てくださいって。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あーーーーー。もうね、通知切ってたけど(笑)トークルームが大変なことになってる………はず。ほら。
会ってるの知ってる癖にお構いなしに送ってくるから💧
メッセージアプリを開いて、
優斗たちからの怒涛のメッセージをちらっと見せる。

あなたの下の名前ちゃんは、安心したように笑ってくれてた。
俺は、いつだったか、
「優斗たちには秘密で」なんて彼女にお願いしたことを思い出して後悔した。
そもそも、隠さなくても良かったのかも知れない。もっと仲間を信頼して味方につけて良かったんだな。

今夜眠る前にまた連絡し合うことを約束して、彼女と別れた。

そして、
帰り道。

優斗たちとのトークルームを開いた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
お前らうるせーんだよ!💦
作間龍斗
作間龍斗
あ、居た。
井上瑞稀
井上瑞稀
ガリさん!
橋本涼
橋本涼
どうだったー?ちゃんと会えたー?
高橋優斗
高橋優斗
大丈夫かお前(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
会えたよ。ちゃんと。
今帰り。

………ありがとう。
作間龍斗
作間龍斗
やったー!
。゚✶ฺ.ヽ(*´∀`*)ノ.✶゚ฺ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
みんなに、よろしくって。またお店来てって。
高橋優斗
高橋優斗
あ、俺もう明日行くわ。
作間龍斗
作間龍斗
え、待って俺も行きたい。
橋本涼
橋本涼
えー、そんなん俺も行きたいじゃん。
井上瑞稀
井上瑞稀
俺も!
高橋優斗
高橋優斗
ガリさんは?
井上瑞稀
井上瑞稀
ガリさん行かないの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なんかそんなみんなが行くとか言ったら俺が行けなくなっちゃうじゃん!
てか、俺だけ行かないのおかしいでしょ!
橋本涼
橋本涼
いや、なんか、急〜〜に彼氏面されてもーー……
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
違う…それはさあ、
それは違うじゃん💦
それはさぁ彼氏面とかそーじゃなくて。
家に着くまでずっとみんなとやり取りしてた。

俺、愛されてんなーって………思った一日だった。水面下で動く期間がちょっとしかなかったのは予想外だったけど、彼女の想いも聞けて、俺の中のもやもやも話せたし、何より、「いや、今から会いに行けよ」って突っ込んでくれた仲間に背中を押された。

眠る前に彼女と次の約束決めてから寝ようと思ってたけど、明日、お店に行くことを伝えたら、彼女はなんて言うかな。
今日も明日も俺に会えて喜んでくれるかな。

…じゃなくて、
俺が、明日も会えるの嬉しいって伝えなきゃ。



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