みんな怒ってるわけじゃなかった。
どーしちゃったの的なニュアンス。
瑞稀くんが俺の背中をペシペシ叩く。
俺がやらかすはずのない凡ミスだった。
自分でも、ありえねーって思ってる。
はしもっちゃんが、楽屋の外に行って、「ちょっとガリさんメンテ必要だからもう帰らせたいんで車呼べます?」と言ってるのが聞こえた。
すぐ戻って来て、また俺に声かけてくれる。
ぐうの音も出なくて
不貞腐れてうなだれてると、
優斗が寄ってきて、
って。
なんもないって答えたけど、
それは
みんなに話すことはなんもないってこと。
我ながら、ぐだぐだ。
ミス自体は、ちょっとしたことだったんだけど、自分でもびっくりで許せない失敗だったし、みんなも「は?なんで〜〜〜💦」って感じだったと思う。
用意して貰った車に1人乗り込むその前に、電話を一本掛けた。
ダメ元だったから、当然ダメだった。
仕事中だもんな…。
車の中で、窓にもたれてうとうとしてた。
家の前まで送って貰って、
家に残ってたご飯を食べれるだけ食べて、
風呂入って、自室のベッドに倒れ込んだ。
あ〜〜〜〜〜〜〜…
最悪。
結局、助けを求めるのはあなたの下の名前ちゃんっていう。
だせー。
知らない間に眠ってた。
次に目覚めたのは、真夜中、日付も変わった時だった。
スマホが震えて、
薄目でディスプレイを確かめる。
もはや俺の方が女の子みたいで。
仕事詰まってるからって、気持ち強く行かなきゃいけないからって、調子乗って、あなたの下の名前ちゃんに多分だいぶカッコつけた。
メッセージ確認して、
あー返信くれたんだ………と思って、でも力入らなくてまたうとうとしてたみたい。
彼女からの着信音で目が覚めた。
あんなに、気が張ってて、彼女に甘えられない状況を自ら作っておきながら、ほんとに、なんつーか、啖呵切った相手に泣きついてる。
やっぱり、昨日の、
会いたいっていう話のこと、考えてるんだ。
仕方なく、本当に仕方なく、渋々、
「うん」
って返事をした。
はぁ。頑張れるかな、俺💧
この感じで明日行ったら怒られる。
絶対に怒られる(笑)。
整えてきてって言われたのに〜。
翌日、
特にみんなは俺に何か言うことはなく。
確認箇所のリハだけやって、
多分だけど俺の調子見たかったんだろうな。
そんな感じ。
一度、楽屋から出て、階段まで行き、階段に腰掛けて、精神統一。
とにかく最後までやり切らないと。
俺の居ないところで、
みんなが既にこんな話をしてるなんて知らずに、毎日毎回気持ちを奮い立たせて心を保って、なんとかラストまで終えることが出来た。
あなたの下の名前ちゃんから、最後まで連絡取るのやめようかって言われたのに、俺の方が毎日連絡してた。
彼女も無視しないで俺の相手をしてくれた。
とは言っても、最低限。
いつも話を切り上げて先におやすみって言うのは彼女のほう。
最終日は、いつもよりも遅くに帰宅して、それでも彼女に連絡しないでは居られなくて、終わったよって報告したくなって、それに、終わったからもう安心して話せるのかなって思ったりもしてたんだけど、あなたの下の名前ちゃんはあんまりそんな感じでもなかった。
頑張ったねお疲れ様と言ってはくれたけど、
やっと終わったねー!!って感じではなかった。
改めて別日。
関係者さんたちも揃っての打ち上げも無事に終わり、そのまた別日に俺たちだけで反省会という名の振り返りミーティング。
俺の小さなミス……小さいけど大きな事故に繋がる可能性は秘めてた小さなミスについての話題は避けられない。
優斗がよく言ってた「お前なんかあっただろ」も絶対改めて言われるだろうなって分かってたし。
一通り仕事の話をして、
次の課題や、今後の展開も散々話し合ったあと、ちょっとホッとした時間。
優斗が俺の肩を組んできて馴れ馴れしく笑ってる。
(°▽°)!
びっくりしすぎていつもは線な目が点になって頭抱えちゃった。
なんだそれ。
なにそれ。
どういうことだそれ。
なんで。
なんで………。
え、なんで?
大混乱なんだけど。
瑞稀くんも?知ってるの?
なんで?
俺、誰にも言ってないのに。
え、無理なんだけど💧
てことは俺、既にバレてたのに、何もないふりしてたってこと?
優斗たちも知ってて、知らんぷりしててくれたってこと?
俺は、おでこをテーブルにコツンとくっつけて突っ伏してた。
みんなの優しさと、気遣いと、それから俺の反応見て笑ってくれてるのが、何というか、もう笑うしかないし「マジかよ〜ちくしょーやられた〜」ってなってたけど、観念するしか無かったな。
はしもっちゃん、めっちゃ笑ってた。
なんか淡々と話す俺をニコニコしながら見ててくれてたとは思ってたけど、話し終わったら、すごい笑ってて。
めっちゃいま俺すぐ帰りたい。
帰って、ってゆうか、この足で会いに行きたい。向こうが仕事だろうが何だろうが、会いに行って、ちゃんと俺も同じ想いだよって伝えたくなった。
はしもっちゃん、すげー。
あー…………
俺は、「会いたい」って言った彼女に、「会いたいって言うな」って言っちゃったようなもんなんだ…。
はしもっちゃんの話を聞いて初めて、
俺の都合で不安にさせてたかもしれないことを知った。
本当に、今夜会いに行こうかな。
会ってくれるかな。
約束はしてないけど………。
みんなに、
浮かれてんじゃねー💢ってキレられなくて良かった( ̄∀ ̄*)。
うん、やっぱり、会いに行こう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。