あれから、
俺とあなたの下の名前ちゃんは、毎日必ず連絡を取り合ってた。
どちらかが頼んでそうするわけじゃなく、
何故か、自然とそうなってる。
メッセージ終わる時、電話を切る時、
どちらからともなく
「じゃあまた明日ね」
ってなる。
お店の前を通る時は、チラッと気にするし、
寄れる時は寄って。
わざわざお店に行く機会を狙ってるとかはないんだけど、まあ、気にはなっちゃうんだよね。
優斗や、他の誰か仲間と行ったら、
なんもないフリをしてる。
いつも通りのフリ。
でも、なんかの時には……俺だけ行く時とか、あとはみんなで居ても俺1人で何かを取りにカウンターに行った時とかは、みんなからは俺の背中しか見えないから、彼女が接客してくれるとなんとなくアイコンタクトしちゃう感じだし、帰る時とかも見ちゃう時はある。勿論分かんないように、さりげなくね。
今日は、ここのリハ場はひとまず一旦最後。
追い込む日だし、確認も多い日になる。
修正が入ったりすると、それこそ時間との勝負になるのは最初から分かってるから、食べ物や飲み物は予め大量に準備してある。
だいたいいつも俺の号令。
俺だって優斗たちと同じ気持ちだけど、
興味ないのを装ってる。
余計な素振り見せて勘繰られるのも嫌だったし。
残り数時間の戦いを終えて、
みんな揃って、あなたの下の名前ちゃんの居るお店に寄った。
時間的にまだ大丈夫で、今日のまとめや改善点の確認も兼ねて、お茶だけして行くことに。
優斗が、お会計してくれてる店員さんに話しかけてる。
どの店員さんも、にこやかに話を聞きながら仕事をしてくれてて、あなたの下の名前ちゃんもこの時はレジ触ってなかったのに「寂しくなりますね」って言ってくれてた。
明日はオフ。全員揃ってオフ。
さっき、あなたの下の名前ちゃんも明日休みって言ってたな………なんか約束出来ないかな…。
トレー2つに飲み物の準備が出来てそうだったから、
俺は率先して取りに行った。
基本、俺は、このお店では何も気にしてないのを装うのが通常になってた。特に彼女に関する話題にはまず積極的に参加しないと決め込んでた。元々、優斗が好きなお店ってだけだったし、俺自身ほとんど来てなかったお店だったのに、優斗に連れられて来た時にあなたの下の名前ちゃんを初めて見た。そこからスタートだったから………その時の感じでそのまま今に至るっていう風に装ってる。
1人の店員さんがまず一つ目のトレーを持って運んでくれて、あなたの下の名前ちゃんがもう一つのトレーを運ぼうとしてくれてたところを俺が黙って受け取った。
俺は、大丈夫だよって意味で、ちょっと照れ笑い。伏し目がちに微笑んで、そのままトレーを自分たちのテーブルに持って来た。
俺が戻ると、他の4人は、早速今日の仕事の話をしていた。
反省会じゃないけれど、修正かけたところとか、注意しなきゃいけないとことか、色々な確認も兼ねて。
仕事の話、特に技術面の話は熱くなる。
そしてその日の夜。
暫くすると彼女から返信が届いた。
この時はちゃんと説明しなかった。
こうして裏であなたの下の名前ちゃんと話したり連絡取れてることが優斗たちにバレるのが怖いわけじゃないから。
俺が怖いのは────────────。
彼女を手に入れる前にからかわれたりしてごちゃごちゃとややこしいことになったり介入してこられたりして動きにくくなるのが………その結果彼女をものにできないことが1番怖い。
彼女だって、
嫌じゃないはず。
嫌なら毎日連絡なんかしない。
また明日ね、なんて言うわけない。
俺の中ではとっくの前から駆け引き段階に突入してた。
もうあとは確かめるだけ。
だから。
メッセージのやり取りで、文字だと、ニュアンス伝わらないな。
俺はすぐ彼女に電話をした。
お互いの声を確かめながら、明日の約束をした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!