第8話

おもいこむ。
656
2021/08/30 12:36
早めに仕事が終わって、解散。
本当は今日は逢えない予定だったけど、急遽、あなたの下の名前に連絡してみることに。

メッセージを送ったけど既読にもならない。
忙しいのかな。
まぁ、ゆっくり待つとするか。そのうち返信くれるでしょ。
ウィンドウショッピングして、気になってた洋服屋さんも行って、そろそろお腹空いたからあなたの下の名前から返事来ないかなーなんて思いながら街をウロウロしていると…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え………………なんで…
俺の目に飛び込んできたのは
さっきまで一緒にいた仕事仲間の瑞稀君とあなたの下の名前が一緒にいるところだった。

めちゃくちゃ楽しそうに笑って話してる。

俺からのメッセージ気付いてないのかな。
井上瑞稀
井上瑞稀
びっくりだよね、こんなことある?って思うよほんとに!
(なまえ)
あなた
いつ言おう、いつ言おうってさ(笑)。
井上瑞稀
井上瑞稀
あはは!
そうなるなる。
(なまえ)
あなた
あっ、待って、これ見たい。
井上瑞稀
井上瑞稀
んー?いいよ。
(なまえ)
あなた
これやっぱり買おうかなー。
これ系のサマーニット欲しいなってここんとこ迷ってて。
井上瑞稀
井上瑞稀
そうなんだ。
あなたの下の名前は、こっちも似合う気がする。この色味の方が良くない?
(なまえ)
あなた
んー、よし、ちょと瑞稀これ持ってて。一回着て来る!
井上瑞稀
井上瑞稀
はいはい、着たら一回見せてよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なに、、、これ、、、なに見せられてんだ俺。
信じられない。
俺が仕事の予定の日時に、こんな…。
しかも、仕事が予定より早く終わって、連絡したのに、俺と一緒にさっきまで仕事してた瑞稀君とあなたの下の名前がデートしてるとか、ほんとに信じられない。

2人にわからないように少し離れたところで見てた。

洋服?一緒に買い物?
瑞稀君があなたの下の名前のバッグ持って、あなたの下の名前が試着するの待ってる…?
マジもんのデートやん。

( ;´Д`)

(なまえ)
あなた
どうかな。サイズは合ってる!
井上瑞稀
井上瑞稀
あー、待って、こっちも着てみてよ。
俺的にはこっちなんだよねー。
(なまえ)
あなた
えー、そっか。
今シーズンのデートに着ていこうと思ってたのに〜〜!違うかあ〜……。
井上瑞稀
井上瑞稀
ガリさんの隣に居る前提ならこっちだよ。
最近何気にセットアップ増やしてるじゃん、ガリさんって。隣に居るならこっちが可愛い気がすんな〜。
(なまえ)
あなた
分かった!
こっちね!
井上瑞稀
井上瑞稀
単細胞過ぎ(笑)
基準が猪狩になっちゃってる。
好きな方にしな。
応援の意味で俺が買ってやるから(笑)。
何回も試着しては、2人でイチャイチャして…。あ、なんか俺いま悲しい。
どうしたらいいんだ、これは。

瑞稀君が、あなたの下の名前に洋服合わせてあげたりしてる。
ツライ………切ないぞこれは…。

え、しかも、瑞稀君が買ってあげてる。

プレゼント………?

2人が買い物終えたので、俺は急いでその場を立ち去る。
心臓がバクバクしてて、落ち着かない。

もう見ちゃったんだから深追いするだけ傷が抉られるって言うのに、まだ俺は2人を目で追ってた。

あなたの下の名前がスマホの通知に気付いたみたいで、瑞稀君となんか話しながらスマホ触ってる。

そして俺のスマホが震えた。

(なまえ)
あなた
=====
ごめん、気付くの遅くて。
もうお仕事終わったんだね。
今からなら大丈夫だよ🙆‍♀️
買い物してたとこ。
=====
白々しいな。
だんだん腹立って来てる。

俺は、2人を目撃したことを黙ったまま、
この日から、普通に、当たり前のように、これまで通りあなたの下の名前と付き合ってた。
大好きだし、俺と居る時のあなたの下の名前は今までと何ら変わらないし、でも………

俺が何も知らないと思って………

当然、仕事も、何事もないようにこなしていたし、瑞稀君とも顔を合わす。
仕事の合間に、瑞稀君のスマホにあなたって表示されたメッセージ通知が来てるのも偶然見たこともある。隠す気ゼロかよ…。
ただ、瑞稀君は俺に対して全く変わらず優しく接してくれる。

ん?
ちょっと待ってくれ。
もしかして、俺とあなたの下の名前が付き合ってるって知らないのかな。
だとしたら……
(なまえ)
あなた
お待たせ〜
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
大丈夫だよ、待ってない。
行こ。
(なまえ)
あなた
うん(・∀・)
ある日のデート。
もう悲しいとかじゃなくて、うっかりため息吐きそうになる。

あの時、瑞稀君がプレゼントしてた服を着て俺と逢うなんて。
どういう神経してんだ。

食事のあと、
俺は意を決して、あなたの下の名前に瑞稀君のことを突きつけた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺に隠してることあるよね。
(なまえ)
あなた
え〜?隠してること?
なんだろ。
どんなこと?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ごめんね、俺もう知ってんだわ。
(なまえ)
あなた
ん?なにを?
(なまえ)
あなた
蒼弥、どうしてそんな顔するの。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
何でだと思う?
知ってるって言ってるでしょ。
俺と付き合ってるメリットある?
(なまえ)
あなた
え……ちょっと何?
分かんない分かんない!
蒼弥は何を知ってるの?
付き合うメリットってなに?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺と付き合わなくても、別に良くない?
あからさまに、あなたの下の名前は悲しい表情になった。
今の俺には、それすら、わざとらしくて計算高く見えてしまう。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃあ、言おうか?
(なまえ)
あなた
うん、言って。分かんないから……
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
瑞稀君と俺、両方と付き合ってるよね。
(なまえ)
あなた
…………へ?瑞稀?
俺の前で瑞稀君のこと呼び捨てとか、
驚きすぎてボロが出たってとこかな。
はあ………もう、俺はもう無理って思ってた。
(なまえ)
あなた
瑞稀と私が仲良くしてるのを知ったから、蒼弥は怒ってるの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
怒ってるってゆーか、
最初は偶然見かけて。
俺が仕事早く終わっちゃった日……
(なまえ)
あなた
あ〜〜〜あの日ね、
え、蒼弥見てたの?
なんで黙って見てたの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
声掛けられるかよ、あんな楽しそうに幸せそうにイチャついてて………。
しかも、その服。
あん時、買ってもらったやつでしょ、瑞稀君に。よく俺と逢う時に着て来れるよなあ。
(なまえ)
あなた
え、え、え、いや、イチャついてないって。そんな仲良さげだったかな………。
(なまえ)
あなた
たしかに、この服はあの時のだけど。
でもね、別に瑞稀は…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
もういいよ、言い訳は。
(なまえ)
あなた
え、なに。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
瑞稀君は知ってんの?
俺とあなたの下の名前が付き合ってること。
(なまえ)
あなた
知ってるよ、私が話した。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ああ、そう。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃ、お幸せに。
本当は
あなたの下の名前と出逢えて付き合えて良かったって思ってたけど、口をついて出て来たのは、こんな憎まれ口だった。

俺は自ら負けを認めたみたいで、ただただ、残念な気持ちだったな。
(なまえ)
あなた
蒼弥、なんか、話が全然…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺、なんか間違ってる?
(なまえ)
あなた
大間違いすぎてどこから話していいか分かんない!瑞稀は私の従兄だよ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
は?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
苦しすぎんだろ。
(なまえ)
あなた
え………
(なまえ)
あなた
信じて、くれないの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
信じるかよそんな古典的な言い訳(笑)
俺が何も知らないと思ってたんだろうけど、俺、二股とかそういうの無理なんだ。
(なまえ)
あなた
分かった………私のことそんなふうに思ってたんなら、私も無理だから。
じゃあ、これでおしまいにしようね。
悲しいけど、信用されてないなら仕方ないです。
あなたの下の名前は、とても悲しい目で俺を見て言った。
そして黙って、帰って行った。

なんか、モヤっとするけど、
結局、何の証明も出来ないんだから、
だからこんなにあっさり引き下がって………
めんどくさくなって俺を見限ったってとこか。
翌日から
俺は、なるべく仕事に全神経を使い果たすようにしてた。
ちょっとでも余計なこと考えると、
ブレる気がして。

気持ちが晴れる……ことは無い。

瑞稀君が居るし。

どうしてもあなたの下の名前のことは心によぎる。
集中してるつもりが、なんかいつもと違うのか、仕事仲間や関係者から、口々に「どうした?なんか調子悪い?」と言われてた。
井上瑞稀
井上瑞稀
ガリさん、もしかして、お腹空き過ぎてる?(笑)
勝ち誇って嘲笑われたように思えて、
条件反射的に
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
おかげさまで彼女と破局したんすよ。
と、冷たく言い放ってしまった。
我ながら大人気ない。
井上瑞稀
井上瑞稀
は………?えっ?!
なに?嘘でしょ?
ちょっとガリさん、ちょっとこっち…ちょっと!
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なに〜〜〜もう〜〜〜別れたんだからもう勝手にしてくれよ〜〜〜
仕事の合間、俺がボソッと放った言葉に、瑞稀君は反応して、俺をみんなから離れたところに引っ張ってきて、俺は瑞稀君と2人でこそこそ話す羽目に。
何が楽しくてこんな………
井上瑞稀
井上瑞稀
勝手にって何言ってんの。
ちょっと!どういうこと?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
瑞稀君にとっては好都合でしょ、だって。
井上瑞稀
井上瑞稀
え?なに、俺が?
俺は
「…露骨に反応してんじゃん…」
と小さな独り言。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
結局、俺だけが知らなかったってことだろ。邪魔者の俺が居なくなったんだからもういーじゃん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
てか………もうぶっちゃけ聞くけどさぁ、瑞稀君あなたの下の名前といつからの付き合いなの。
井上瑞稀
井上瑞稀
………え?(´◦ω◦`)
井上瑞稀
井上瑞稀
えっ……とぉ………
付き合いってゆうかーーー親戚だからなぁ。
それで言ったらあなたの下の名前が生まれた時から…?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
はぁ………そーゆーのもういらんから。
口裏合わせてんのね、はい、分かった分かった。
明らか動揺してる瑞稀君を横目にしれっと見ながら、俺はもううんざりしてた。
井上瑞稀
井上瑞稀
あなたの下の名前はなんて……?
その前に、何で別れたの!
本命さんは余裕でいいっすねー。

不貞腐れてる俺に
瑞稀君は焦った様子であれこれ聞いてくる。
井上瑞稀
井上瑞稀
ガリさん、まさかとは思うけど……
俺とあなたの下の名前が従兄妹同士なの信じてない…の?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
はい?
仲良くデートしておいて良く言うわ。
井上瑞稀
井上瑞稀
いやいや、待って待って。
ほんとだから。
デートって言っても、身内で買い物だから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
服買ってあげたりさ、荷物持ってあげたりさ、しょっちゅう連絡もしてんでしょ。
井上瑞稀
井上瑞稀
ちょっ………と、マジで待って。
どうしたら信じてくれんの。
本当にそれは誤解だしガリさんの勘違いだって。

なんて言うのかなぁーーーー、んー、兄妹みたいな感じだよ。あなたの下の名前は兄弟居ないしさ、俺がお兄ちゃんみたいな感じっていうか。小さい時から仲良い身内だよ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
知らねー。

もう俺には無関係だから。
井上瑞稀
井上瑞稀
早まんないでよ。
あーもう、どうしたら分かってもらえるかな……
井上瑞稀
井上瑞稀
あ………。
そうだ。
瑞稀君はスマホを俺の前に置いて、
スピーカーにして、お母さんに電話をかけた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
何やってんの。
井上瑞稀
井上瑞稀
こうでもしないと信じてくれないでしょ。
親に電話してでも信じて欲しいんだから、とりあえずそこで黙って聞いてろ。
コール音が2回、
すぐに相手が電話に出た。
瑞稀君のお母さんだ。

マジで親に電話してんの、なにこれ。
「どうしたの?瑞稀仕事じゃないの?」
井上瑞稀
井上瑞稀
仕事の合間だよ。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、俺とあなたの下の名前っていくつ違いだっけ?
「え?あなたの下の名前ちゃん?2歳違いに決まってるでしょ。どうしたの。あなたの下の名前ちゃんがなに?なんかあったの?」
井上瑞稀
井上瑞稀
いや、何もないけど…っていうか、何もないわけじゃないけど、あなたの下の名前の彼氏がさ、俺と仕事の仲間なんだよ。
「えー?!そうなの?!こんなことあるんだね!」
井上瑞稀
井上瑞稀
でさ、その、あなたの下の名前の彼氏って子が、俺とあなたの下の名前が仲良すぎて、従兄妹だって信じてくれなくて困ってて………
「(笑)いくらなんでもあなたの下の名前ちゃんもっと顔面の趣味いいでしょ(笑)。恋人に見えたっていうこと?(笑)面白いね。」
井上瑞稀
井上瑞稀
それ親が子供に言うことじゃないし💧
「あなたの下の名前ちゃんと居たらアンタ頑張ってもATMにしか見えないのにね(笑)。一応ライバルにしてもらえたのね(笑)。あ、ATMに見えるんじゃなくて、財布代わりみたいなもんだよね🤣」
井上瑞稀
井上瑞稀
いや、それも親が言うことじゃないし💦いーんだよそういうのは!(笑)
「はいはい、なに?」
井上瑞稀
井上瑞稀
あのさ、俺が小学校あがった頃くらいからさ、毎年あなたの下の名前も一緒に旅行とか遊園地とか行ってたの覚えてる?
「覚えてるに決まってるでしょ。あなたの下の名前ちゃんはお母さんも働いてたから、よくうちの家族とどこか出掛けたり、ご飯もしょっちゅう食べに来てたしね。うちの子よ、ほぼ。」
瑞稀君は、お母さんとひとしきりあなたの下の名前の話をして電話を切った。
俺が、何も言えずに居ると、
怒ったりせずに、いつも通りのトーンで俺に言った。
井上瑞稀
井上瑞稀
安心してくれた?
瑞稀君とお母さんの会話を聞きながら、
俺はみるみる動悸がして、
別れた時のあなたの下の名前の悲しい顔……俺を責めることなく肩を落として去って行った後ろ姿…を、思い出してしまってた。

何か言葉を発したら、ぶわっと泣いてしまいそうなくらい。
井上瑞稀
井上瑞稀
俺は別にどう言われても思われてもいいし、ガリさんに対して何も思わないしいつもと変わんないけどさ、でも、あなたの下の名前は………。
井上瑞稀
井上瑞稀
誤解させるようなことしたのは、申し訳ない。でも俺とあなたの下の名前は本当に従兄妹だし、俺が選んでプレゼントしたように見えたあの洋服も、ガリさんの隣で着たいならこっちだねって、俺が応援の意味を込めて買ったやつだから。
瑞稀君の話なんか殆ど入って来なかった。

ひたすらに、
あなたの下の名前に酷いこと言った、
あの洋服も俺の隣で着る前提だったんだ…
一度出した言葉は引っ込められない…ってことばかり思ってた。
後悔してももう遅かった。
井上瑞稀
井上瑞稀
ま!とにかく、今は仕事ちゃんとやろ!
戻ろう!
俺は、瑞稀君に背中をバシッと叩かれて、
大きく頷き、現場へ戻った。
この日の仕事は、ずっと、瑞稀君が俺を気にかけてくれてたように思えた。

瑞稀君にもちゃんと謝れていない。

仕事がひと段落して、
瑞稀君は終了、俺はあと一件仕事があった。
移動車が用意出来るまでの少しの間、俺は控室で待つことになっていて、瑞稀君はわざと、うん、多分わざと他の人よりも遅く、帰り支度をしてたと思う。
井上瑞稀
井上瑞稀
じゃ、お先。
俺からあなたの下の名前に話しとくから。
仕事全部終えたら、あなたの下の名前に連絡してやって。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ぇ…………だけど………
井上瑞稀
井上瑞稀
大丈夫だって。
大丈夫なように話すから。
じゃね。
控室を颯爽と出て行った瑞稀君をすぐに追った。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
瑞稀君!
………あの。
井上瑞稀
井上瑞稀
ん?
なに、大丈夫だって!(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺……ごめん!……なさぃ。
井上瑞稀
井上瑞稀
謝る相手、俺じゃないよ。
俺の肩をポンポンと軽く叩いて、瑞稀君は帰って行った。

今日、最後の現場も、
なんとかやり切った。
そして、
帰り道、
あなたの下の名前に電話をかけた。

出てくれない。
3回かけ直して、
諦めようかと思って、あと一回だけ…と最後のつもりでかけた電話に、あなたの下の名前は出てくれた。
(なまえ)
あなた
…………………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
………………
黙ってたんじゃない。
話せなかったんだ。
電話に出てくれたことにホッとしたこともあるし、一方的に責めてしまったことや、あなたの下の名前の話を全然聞こうとしなかったこと、悲しませたこと、色々全部…………
泣いて、話せなかった。
(なまえ)
あなた
………なんで?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
………ぇ…。
(なまえ)
あなた
なんで信じてくれなかったの。
(なまえ)
あなた
なんで、瑞稀の言うことは信じて、
私の言うことは信じなかったの。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ごめん俺…あなたの下の名前が…瑞稀君と…
(なまえ)
あなた
そんな古典的な言い訳どうでもいい。
あ………俺が言った言葉………。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
付き合ってるようにしか見えなくて。
(なまえ)
あなた
逢いに来て。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え?なに…何言って…
(なまえ)
あなた
逢いに来て!今すぐ。
私のことがまだ好きなら今すぐ逢いに来て。
もう好きじゃないなら2度と連絡しないで。
電話はそこで切れてしまった。

不安だらけのまんま
あなたの下の名前の暮らすマンションへ向かう。行かないなんて選択肢は秒で捨てた。

猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
着いたよ。
玄関ドアの前で電話をかけて、あなたの下の名前に告げた。
何も返答はなく……静かに電話が切れると、
目の前のドアが開いた。

表情が怒ってる。

申し訳ない気持ち120%の俺は、ごめんって言葉を出すのもはばかられるくらいで、言葉よりも先に力なく頭を下げた。
俺が頭を下げたと同時に、あなたの下の名前が抱きついて来た。
抱きしめ返していいのかどうかも不安で、両手の行き場が無かった。
抱きついたまんま喋るし、何て言ってるかわからなくて、聞き返した。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
………なに………聞こえないよ……
身体を丸めて、俺よりずっと小さいあなたの下の名前が何を話してるのか聞こうとする。
(なまえ)
あなた
もう………バカ。
(なまえ)
あなた
ほんとにバカなんだから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
最初から……
本当に思ってた気持ちを伝えなきゃいけないと思って、震える声で話す。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
最初から俺は遊ばれてたんだと思って…瑞稀君とあなたの下の名前がすげぇ親密に見えて。
(なまえ)
あなた
当たり前じゃん私が生まれた時から瑞稀は居たんだから(笑)
思い返したら、
俺、あなたの下の名前が俺を好きで付き合ってることに自信がなかったのかもしれない。
だから瑞稀君とあなたの下の名前を見かけた時にすぐに決めつけて思い込んで、ほらやっぱりって…………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
…あなたの下の名前のこと好きすぎて…親密の種類、間違えた。
あなたの下の名前は俺にギュッと抱きついたまま、肩を揺らして笑ってるみたい。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ごめ…ん。
(なまえ)
あなた
今度、瑞稀と3人でご飯、行こうか。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え…………?
俺から少し身体を離して、ちゃんと俺の顔見て話してくれてる。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
でも…俺は……てか俺とあなたの下の名前は……その。
(なまえ)
あなた
瑞稀が奢ってくれるから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ぃやそんな勝手に…
(なまえ)
あなた
もっと早く私がこうすれば良かったんだよね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
でもさ、
でも、3人でご飯って、俺どの立場で…
(なまえ)
あなた
蒼弥が決めたらいいんじゃない、かな。
(なまえ)
あなた
私は蒼弥に浮気者と思われて嫌われたけど諦め悪くて相変わらず蒼弥を好きな懲りない元カノ、くらいで行こうかなって思ってるんだけどね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
元カノっていうのは、刺さる………
そうだよな、だって別れちゃってるんだから。
こうしてまた逢えて、好き同士って分かってるのに、別れているから元カノってことになってしまう。
あなたの下の名前にそう言わせてしまってるのは、全部俺のせい。
(なまえ)
あなた
じゃあ、
(なまえ)
あなた
んー………嫌われた私が言うのも変かもだけど…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
…がぅ……
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
…違う。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
勘違いした俺のせい。
腹が立って、俺が何も知らないと思って…って思ったから、もう全部バレてるけどってしてやったりな気持ちだった、反省してます……。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
嫌いだからじゃなかったょ。

だからここにも来たし…
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前は悪くない。
(なまえ)
あなた
すごく言いにくいけど、
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ん?
(なまえ)
あなた
元サヤって、どうやって元サヤに戻ったらいいのかな。戻し方が分からない。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
もう、戻ってる………ってこと、ない?
照れ臭かったけど、控えめに俺がそう言うと、彼女は「戻りたい」って言った。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺が悪かった。
図々しくも、あなたの下の名前のこと抱き寄せた。これくらいしか、今は出来ない。
(なまえ)
あなた
1番悪いのは瑞稀だよね。
ずっと申し訳ない気持ちでいた俺も、これには笑い出しちゃった。
(なまえ)
あなた
だから瑞稀の奢りで、なんかいいもの食べに行こうよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
瑞稀君、完全にもらい事故やん(笑)
やっと前みたいに笑い合えた。
ホッとした。
このあと、あなたの下の名前の部屋から、瑞稀君に連絡をした。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そーゆーわけなんで、
ご馳走になります😋
井上瑞稀
井上瑞稀
お前ら、ふざけんなよおい(笑)。
ガリさんは、あなたの下の名前に酷いこと言ったんだからほんとにほんとに反省して。
まぁ…でも、安心したわ。

今回はもう百歩譲って俺が1番悪いとしてももう根も葉もないことで喧嘩するなよー。何食べたいか考えといて。
俺が1番悪いのに、
あなたの下の名前も瑞稀君も、最終的には笑って許してくれた。

こんなこと、もう考えたくないけど、これから先、あなたの下の名前に寄ってくる男がいても、自信もって俺の方が勝ってるって思うような俺でいないとな。

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