第11話

ぎゃくてんする。
588
2021/10/29 09:08
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あの…
休みの日、ひとりで歩いているときに、
控えめに声をかけられた。
弱気なナンパかと思って立ち止まることもなく歩いていたら、その人物は付いてきて、私の顔を確かめるように少し前に出てもう一度話しかけてきた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
すいません、あの、えと、
違ったらごめんなさい。
あの……もしかして、あなたの下の名前…?
名前を言われて驚いて、立ち止まった。

その人の姿をちゃんと見て、
私は息を呑んだ。
そんな私の無言の反応に、もう一度その人は私の名前を言う。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前だよね。
(なまえ)
あなた
えっ………蒼弥?
だいぶ前…もう1年以上経つな………私はこの人=蒼弥に、盛大にフラれた。

なんで蒼弥は私と付き合ってくれたのか、と思い続けた恋愛だった。
だって、私は、さっぱり冴えない女だったから。
見た目も華やかじゃなかったし、どこにでも居る普通の、本当に極々普通の人だった。
蒼弥は、冴えない私でも、「俺のこと好きって思ってくれてありがとう」精神で付き合ってくれた。でも、そんな付き合い方で長続きするはずがなかった。

「あなたの下の名前のこと嫌いじゃないけど、でも何ヶ月も付き合ってきてるのに、あなたの下の名前がよく分からないし、このまま付き合ってていいのかも分からないから…」

そんなふんわりした感じで、でも私にとっては盛大にフラれた。
(なまえ)
あなた
びっくりした………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いや俺もびっくりしたって!
そりゃびっくりしただろうね。
私のびっくりしたと、蒼弥のびっくりしたは、多分意味が違う。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
雰囲気………違ったから。
人違いかもしれないと思ったけど……声かけてみて良かったわー。
能天気なこと言うんだなー。

私は、蒼弥のことを忘れよう忘れようとして生きてきたのに。
蒼弥が私のこと分からないって言ったから、
このまま付き合ってていいか分からないって言ったから、私は自分を変えようと必死になった。もうフラれて別れているのに、いつか蒼弥と再会する機会があっても私だと気付かないくらいになってやると思って。
(なまえ)
あなた
なんでこんなとこ歩いてたの。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺?今日休みで買い物。
あなたの下の名前は?
(なまえ)
あなた
んー……私もそんなとこ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
よかったら少し……話さない?
(なまえ)
あなた
え………?
(なまえ)
あなた
蒼弥と?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そ。俺と。
ダメ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あー…ごめん、このあとの予定も聞かずに、俺…
(なまえ)
あなた
いいよ。
蒼弥は、私のことを二度見した。
(なまえ)
あなた
ん?
いいよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いいの……?
(なまえ)
あなた
うん。だって、こんな人混みで止まってるの私たちだけだよ。すごい邪魔じゃない?(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
う、うん。じゃあ、とりあえず歩こ。
蒼弥が意外にも動揺を隠せてなかったから、
私は、私の外見が変わるにつれて男の人からの反応とか態度が変わって来てることを思い返していた。

何を悟ったわけでもないけれど、
潜在的に「男ってバカだなー」くらいには思うようになってたと思う。

私と蒼弥は、少し歩いた。
会話は殆ど無く。
気まずそうにしてる蒼弥を隣に感じながら、
しばらく歩いて、話せそうなお店に入った。
(なまえ)
あなた
なに?
じーっと私を見てるから、なんか、居心地悪くて。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いや、ううん。別に、なんもない。
(なまえ)
あなた
やっぱり人違いかも………
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え。
(なまえ)
あなた
とか思ってる?
蒼弥はちょっとだけ、表情を曇らせたように見えた。気のせいかな。分かんないけど。
私に声かけちゃったこと、後悔してんのかな。
(なまえ)
あなた
それとも、
もっと嬉しそうにしてくれるかと思った?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ううん。あなたの下の名前が嬉しいって思ってるなら嬉しそうにしてて欲しいけど、そうじゃないならそのままでいいよ。
(なまえ)
あなた
そう。
2人、ものすごくぎこちなかった。
久しぶりすぎたこともあるし、
私が変わっていたこともあるだろうし、
さっき偶然バッタリ会っちゃったっていうのも少なからず影響してると思う。

私は、
蒼弥が、話そうよって言ってくれたから、
いいよって答えただけ。
蒼弥は、
私になんの話をしようと思ったんだろう。

全然、話が見えない。
見えなさすぎて、だんだん退屈になってきつつある。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前は、ほんと、雰囲気変わったね。
(なまえ)
あなた
うん。
きっと人違いだったんじゃないかな。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
なんでそんなこと。
(なまえ)
あなた
違う人っぽくない?私。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
それは、うん。
そう思うけどさ。
過去の私と居る時は、蒼弥は、こんな感じじゃなかった気がする。
私が変わったから接し方も変わったのか。
それとも単に久々だからなのか。
(なまえ)
あなた
特別話すことがないなら解散する?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ、いや、話したいんだよ。話したいんだけど。何から話したらいいか分かんなくてさ。あなたの下の名前が、見た目もそうだけど、なんとなく話し方とか俺への接し方とか全部、俺の知ってるあなたの下の名前と違いすぎて……どこから突っ込んだらいいか、もう💦
(なまえ)
あなた
そうなんだ。
蒼弥に対してこんなふうに少しでも思うことになるなんて、考えたことなかった。

男って、バカだなー。

って。

過去に付き合ってた女が、
いつまでも自分が知ってるまんまだと信じてるのだとしたら、どれだけ脳内お花畑?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ!
じゃあさ、今日はこうやって少し話せて良かったってことで、俺からまた連絡するよ。俺の連絡先、消去とかしてないよね?
(なまえ)
あなた
してないよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前の連絡先も前と変わってない…?
(なまえ)
あなた
変わってないよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
じゃあ、またすぐ連絡する。
今日は、なんか、うまく話せないわ。
でも久しぶりに会えて良かった。
私は彼の提案を飲んだ。
今まで、特に、蒼弥からの連絡を拒否してたこともないし、避けていたわけでもないけれど、どちらからも連絡をしないまま時が過ぎてたから、こうして偶然再会したのも何かタイミングみたいなものがあるのかもね。

私も、うまくはなせなかったから、
彼には申し訳なかった。
つまらなさそうに見えてるだろうし。
(なまえ)
あなた
分かった。
じゃ、私、行くね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん、ありがと。
すぐに連絡するから、ね。
そこからまっすぐ帰宅した。
帰り道ずーっと蒼弥のことを考えてた。
偶然とは言え、久しぶりに会った蒼弥は、前よりちょっと大人っぽくなってた気もしたし、でもうまく話せずにまごまごしてるのは意外な可愛さだなーなんて思ったりして。

その日の夜遅く、
そろそろ寝るかなーーってときに、
蒼弥が電話をかけてきた。
いきなり電話?(笑)ってスマホに突っ込んじゃった。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ…あなたの下の名前?
(なまえ)
あなた
うん。
今日はありがとね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ぇ…
(なまえ)
あなた
え?ん?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
こっちこそ。
街中で突然声掛けてごめんね。
あの、それに、
うまく話せなくて( ̄▽ ̄;)。
(なまえ)
あなた
蒼弥も、違う人みたいだったよ?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そう?
(なまえ)
あなた
うん。
なんか、ちょっと面白かった。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
え。
(なまえ)
あなた
あー、変な意味じゃなくて。
蒼弥も前の蒼弥とは色々と様子が違ったから。
そーかな………
って、控えめに言う感じも、前とは少し違って感じたな。
元々、私が知ってる蒼弥は、なんというか、もう少し堂々としていて、はっきりものを言う感じというか。

なのに、今の蒼弥は、
私の反応を伺ってるように感じて。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前ほど変わってないよ、俺は。
(なまえ)
あなた
そんなに私、変わってた?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
だから声掛ける時も正直…迷ったというか。
違うかもって思いながら声掛けたんだよね。
(なまえ)
あなた
よくそれで話しかけれたね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ほんとそうだよ、超勇気出したもん。
(なまえ)
あなた
大袈裟じゃない?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ううん、大袈裟じゃなくて。
だって、
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺と居た時のあなたの下の名前は、どっちかっていうと俺について来てる感じの子だったし。
(なまえ)
あなた
うん……
(なまえ)
あなた
今の私はそんな風じゃなく見えた、のかな。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ、悪い意味ではない。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
でも、話すと、やっぱりあなたの下の名前だなって思うとこも、端々にあったりもしたよ。
私は
蒼弥に、正直に話してみた。
蒼弥と別れることになったときに、蒼弥が私に言ったこと。
それがきっかけで、自分を変えたくなったこと。

───付き合っていても俺はあなたの下の名前が分からない。

だから、分かりやすくならなきゃいけない気がしたこと。
もっと、私はこうなんだ、って自分を出せた方がいいのかなって考えたこととかも。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そっか。
俺があんなこと言ったし………。
(なまえ)
あなた
いいきっかけだったと思う。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そう?
(なまえ)
あなた
うん。あの頃の私の方がいいって言う人ももしかしたら居るかもだけどね。
でも私には蒼弥が言った言葉の影響がとても大きかった。どんな私に変化したとしても、このままで居るよりは良い気がしたから、出来ることを片っ端からやっていったら、こうなっちゃった(笑)。
電話の向こうで蒼弥は暫く黙ってた。
なにを思って黙ってるんだろうね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
まあ…どんなあなたの下の名前でも、きっと、あなたの下の名前はあなたの下の名前なんだろうけどさ。って今は言えるけど、あの時の俺はもしかしたらまだまだ子供だったのかも。
分からないんじゃなくて、分かろうとしてなかっただけかもしんない。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あと………今のあなたの下の名前を見たから、こんな風に考えられるようになったのかも。
(なまえ)
あなた
真逆の人、みたいなレベルだもんね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
あ、これも悪い意味じゃなくて。
(なまえ)
あなた
洋服とか持ち物とか変えていく時に、
それまでは私って服装も保守的で大人しいのばっかだったけど、あれ、私、意外と露出多くても似合う……って思っちゃって、調子付いちゃったの。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
元々スタイルいいもんね。
(なまえ)
あなた
知ってるって感じ出さないでよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ごめん……って…
ほら、スタイルいいのに、体型隠す感じの服が多かったじゃん、前は。
(なまえ)
あなた
(笑)
私は、蒼弥がちょっとだけ、俺は知ってるってマウント取ってくる風な言い方したのが面白くて、クスクスと笑い続けてた。
(なまえ)
あなた
なんかさ、もう、布面積少なくし始めたら楽しくなってしまって(笑)。解放〜!みたいな感じ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
昔から知ってる奴とか、妙に言い寄ってくるようにならなかった…?
(なまえ)
あなた
分かりやすく、そうなったよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
だろうな。
(なまえ)
あなた
超痩せたよねって言われることも多かった。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
痩せたんじゃないでしょ?元々メリハリある体型なのを前は服で隠して見せてなかっただけだよね。
(なまえ)
あなた
だから、言い方(笑)
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ごめん、また………💧
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あのさ。
気付いたら、楽しくお喋りしてた。
最初はとてもよそよそしい空気感だったのに、笑って話してた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あの……今の感じ、似合ってるって思うよ。
(なまえ)
あなた
え?なに。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
変わらなきゃなんて思わせた俺は最低だったと思ってるけど、でも、今のあなたの下の名前は、その、きっと、あなたの下の名前が今の自分で楽に居られてるなら今のが本来のあなたの下の名前なのかもしんないしさ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いや……ってゆーか、そうじゃなくて、あ、そうじゃなくもないんだけど。
(なまえ)
あなた
………何言ってるの。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん………やっぱりうまく話せてないな。
なんか本当の言いたいことがあるんだなってのは分かった。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
綺麗に!…………なった、よね。
(なまえ)
あなた
少しは垢抜けたかな。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
前がダメとかじゃないんだよ。
前はもうどうでもいいっていうか、前のあなたの下の名前は前のあなたの下の名前で俺は好きだったし。
けど、今のあなたの下の名前は、すごく魅力的で綺麗だって、思う。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
俺のことなんかガンガン振り切って遥か先を進んでる感じ、する。
(なまえ)
あなた
なにそれ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん……
ちょっと黙ってしまった。
なんで?
ここ黙るとこ?
よく分からないけど、蒼弥が言いたいこと、話したいことに、近づいてるのかもしれないと思って聞いてた。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
だからすごく言いにくい。
(なまえ)
あなた
まさかとは思うけど、
蒼弥も、今の私に今更寄ってくる奴らと同じ感じ?
あ、そこは、
そいつらと一緒にすんな、って言わないんだ(笑)。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
別れた時さ、
俺がもう付き合えないって言った時、
黙って、涙いっぱいこぼして泣いてたの、ずっと忘れなくてさ。
あの時、俺、びっくりしてたの。あんまり感情出さない子かと思ってたから、こんなに泣くの………って。しかも黙って。
(なまえ)
あなた
だって……
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
だって?なに。
(なまえ)
あなた
大好きだったから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
ごめん、ね…。こんな好きで居てくれたんだって思ったのに、引っ込みがつかなくて、あの時の俺。最初から最後までずっと安定して好きで居続けてくれてたのに、俺は、あなたの下の名前のことがわかんないって言っちゃって………。
最後に、私は蒼弥に、手を差し出して、今までありがとうって握手したくて。
蒼弥はギュッと握手してくれたけど、
私はもう彼の手を握り返す勇気も無くなってた。ただただ、彼の手を自信が無い震える両手で力無く包み込むしか出来なかったんだ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前の手がすごい震えてて、あの時。
(なまえ)
あなた
そりゃあ、これが最後なんだなって思うしさ。手を離したら終わるんだなぁ、って思ってた気がする。
ちょっと思い出して、つらくなる。
でも越えてきたんだって自負も今はある。
当時の私はなんの取り柄も特徴もない普通すぎるくらい普通の子だったから、蒼弥が付き合ってくれたことも奇跡みたいだった。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
今日の今日で何言ってんだ馬鹿みたいって思うだろうけど、多分、今は、俺の方が変わり映えしない普通で。
(なまえ)
あなた
変わり映えしない普通なんてことはないでしょ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
いやいや、変わり映えしないよ。
今日ね、会って話してる途中に、話すことないなら解散って言われた時、別れた時のあなたの下の名前ってこんな感覚だったのかなってさ。ちょっと思ってたんだ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あ、勿論、解散と別れるのは全然違うって分かってるよ!でも、言いたいこととか考えてることあるのに、伝わらない伝えられないみたいなのって…
(なまえ)
あなた
蒼弥が言いたいこと考えてることってなんなの?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
………それは。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
当時、俺が勝手に思ってた「付き合ってる」っていう形にあなたの下の名前がハマらなかっただけで、分からないって言ってしまったことを、後悔………というか。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あと、ほんと今日の今日であれなんだけど、また…俺と会ってみない?
とか。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
それで、その、会ってるうちに、またお互いのこと改めて知って、それで…
(なまえ)
あなた
なんか、昔と逆みたい。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
めっちゃ逆だよ(笑)
もう今、俺、酸欠なりそーだもん。
彼の話を聞いてて分かるのは、昔の私はこういうのが無かったってこと。
一生懸命伝えようとか、なんとかして表現しようとかが、足りてなかったんだよなー。
ただただ蒼弥を好き、それだけで居たから、自己満足みたいな状態だったかもしれない。
(なまえ)
あなた
私は………そんなに出来なかったよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そんなにって?
(なまえ)
あなた
蒼弥みたいに、伝えよう伝えようって出来なかったから、蒼弥と居て、好きだなーってそんだけだったから。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
今は?
(なまえ)
あなた
今の私のこのやり取りの感じで、実は蒼弥のこと好きだなーだったら、怖くない?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
そっ…か。
(なまえ)
あなた
なに。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ううん。
(なまえ)
あなた
がっかりした?
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
あなたの下の名前、あのさ。
(なまえ)
あなた
うん。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
これ、立場逆転通り越してる。
(なまえ)
あなた
どゆこと。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
通り越して、俺、どこまで持つかなって思ってる。
(なまえ)
あなた
頑張ってo(。'▽'。)o
昨日まで忘れてたくらいなのに、
ただ偶然会った、それだけで、人の心って変わったり動いたりするのかな。
珍しいもん見たから興味湧いただけ、なんじゃない?って思うようにしとこ。

とは言え、

もう一生会わないと思ってた。
でも会えたし、こうして直接電話もしてる。
不思議なタイミングってあるもんなんだな。
(なまえ)
あなた
今日、バッタリ会っただけなのに、
蒼弥って凄く色んなこと考えてんだね。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
うん。
なんか、色々駆け巡ってるよ。
でも電話だと少しは話せた。
立場逆転なんてオーバーな…って私は思ってるんだけど、蒼弥が何をどう考えてるのか分かんないし、ちょっと流れに委ねてみてもいいのかな。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
またすぐ会ってくれる?
ほんと男って………と心によぎりつつ、
まあいっか、って気持ちもあって、こんな蒼弥もなかなか見れないなとかも思って(笑)………
(なまえ)
あなた
いいよ。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ほらもう……
(なまえ)
あなた
なに。
猪狩蒼弥
猪狩蒼弥
ううん、なんもない。
私のペースって言いたかったのかな(笑)。
でも、
こうなれたのは、
蒼弥のお陰。
これくらい許してくれたら、意地悪する気無いから心配しなくていいのに。

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