もうすぐ先輩たちの卒業式がある。
先輩たちが学校から去っていくのは寂しいけど、新しい門出でもあるから、お祝いの日。
と同時に、卒業にあたって、みんなソワソワし始める。
卒業式に、好きな人に想いを伝えようとか、記念の品を貰いたいとか。
うちの学校は、いつからか知らないけど、1番は名札や校章と連絡先をセットで貰えること、となっている。
お母さんに言ったら、お母さんの時代も学ランの第二ボタンを貰うとかそういうのあったらしい。古い習慣がうちの学校にもなんとなく残ってるってことか。
蒼弥先輩は、
私の部活の先輩で、前から仲良くしてもらってる先輩です。
決めるときは決めるカッコいい先輩だけど、時々びっくりするタイミングで間抜けな一面を披露してくれる可愛いとこもあって、憧れとは少し違うけど、大好きな先輩。
なんだかんだ文句言いながら、相手してくれて、面倒見てくれる。
まー、分かりやすく言うなら、
私が懐いてるって感じかな。
何度頼んでも、
やだ!無理!って言われて終わるんだけど、
めげないで頑張った。
校内で見かけるたびに声を掛けて。
またお前かと言われても、うるさいと言われても、お互い憎まれ口叩いてても、どこかで少しは伝わってると信じるしか無かったし信じたかった。
そして、ついにこの日がやって来た。
蒼弥先輩たちの卒業式。
学校行事としての卒業式が終わり、
各クラス、教室で最後のホームルームがあり、
私たち後輩も、帰る子は帰って、親しい先輩方を待つ子もいて、勿論好きな先輩を待つ子もいて……。
私は勿論、蒼弥先輩を待ちたかった。
というか、最後の悪あがきをさせてくれと思ってた(笑)。
中庭から校門に繋がるちょっと広いところに、先輩方は友達同士でおしゃべりしたり、仲間で集まったりしてて、後輩連中はまばらに、その様子を見ていて、多分、タイミングを見計らってる感じ。
しばらくして蒼弥先輩が校舎から友達何人かと出て来て、喋ってたから、私はそれがひと段落ついた時に声を掛けようと思って見てた。
蒼弥先輩が居た集団がゆるっとひとまず解散みたいになった雰囲気の時に私がそこに向かおうとしたら………
振り向くとそこには作間先輩。
作間先輩は、あんまりじっくり話したことがない先輩だけど、機会があって話す時は凄く優しくて誠実で人当たりの柔らかな人。
周りに、作間先輩を待ってた子達もちらほら居たのにお構いなしに、こういうことする(笑)。
作間先輩は、小さなメッセージカードと名札を私に手渡してくれた。メッセージカードには連絡先が書いてあった。
作間先輩越しに、ほんの一瞬だったけど蒼弥先輩と目が合った………気がした。お互いすぐそらしたんだけど。
次に蒼弥先輩を見た時にはもう、蒼弥先輩の周りには数人の女の子たちが居て順番に何か貰ってるみたいだった。名札は、校舎の外に出る時に外すから、誰かにあげたのかどうかは分からなかったけど、遠目にも校章は既に取り外されてるのは分かった。
私は、蒼弥先輩のことが気になりつつも、目の前の作間先輩から条件反射で受け取っちゃった名札と連絡先を丁寧にお返しした。
私が作間先輩と話している途中に、向こうから蒼弥先輩の声が聞こえて来る。
なんか、胸が苦しくなっちゃって。
悲しいのを堪えた。
私はもう蒼弥先輩の方を見れずにいたけど、友達に呼ばれて蒼弥先輩は
と威勢よく大きな声で言ったから、
待っててくれないの?って思ってしまって、一度だけチラッと目線を向けたら校門を出て行く蒼弥先輩と目が合った…………けど無表情でさっと目を逸らして行ってしまった。
作間先輩の名札を受け取らなかったくせに連絡先だけもらっちゃったから、帰り道こりゃ刺されるな…とか思いながら、友達にだいぶ話を聞いてもらい沢山泣いて、まあでも友達にもこれ以上終わりのない話をし続けられないから、一人でトボトボと歩いて帰ってたけど、全然家に帰りたい気持ちじゃ無かった。
いつもの通学路からちょっと路地を入ったところの小さな公園の1番奥の隅っこのベンチを見つけて座った。
雨が降って来て、もう、余計に惨めな気持ち。
あーーー。
終わっちゃったな。
あんなに、「くださいください」お願いしていて結果貰えませんでした残念〜おしまい〜なんてさ。
何時間経っただろ。
いま何時かな。
だいぶ悲しみに暮れて(笑)泣き続けて、スッキリしたかも。
意外と軽やかな気持ちで公園の外へ出て帰り道に戻ろうとした時。
蒼弥先輩は、私の切り替えの早さを褒めてくれて(だから何様w)、さっきよりももっとちゃんと傘に入れてくれた。
長い時間、雨に濡れたバッグから出て来たタオルは、当たり前だけど洗濯直後状態💧
私がこれ以上雨に濡れないようにしながら、蒼弥先輩はポケットに手を突っ込んだ。
ポケットから、何かを取り出すと
と、傘をまた蒼弥先輩が持ってくれた。
私に手渡してくれたのは
蒼弥先輩の名札と校章だった。
私は、動揺しすぎて、何も言葉が出なくなっちゃった。
ただただ自分の手の中にある蒼弥先輩の名札と校章を見ていた。
クシャクシャになった紙。
蒼弥先輩はそれをそのまま私に渡したから、広げてみると、蒼弥先輩の連絡先と「いつでも連絡してこいよ」という言葉が綺麗な字で書いてあった。
私は蒼弥先輩から貰った名札と校章と連絡先を大切に胸に当てて喜びを噛み締めた。
両手で大事そうに名札と校章を持っている私を見て笑ってる。そんなに変かな。欲しかったものを貰えたら、みんな、嬉しくて大事に持ってるんじゃないのかな。
蒼弥先輩は、慌てていて、私が確かめたいことを阻止してくる。
確かめたらいけないのかな。
まだなんとなくで居ないといけないのかな。
あまり人気のない道で
蒼弥先輩は、私の前に立つと、
なんの前触れもなくスラスラと早口で言ってくれた。
私は、スラスラと流暢に話すほどに、蒼弥先輩が私を見なくなっていって、どんどん困った表情になっていったり、つらそうになっていくのが切なかった。
時々、私の顔をチラチラ見ながら、様子を伺うように。
多分、同じくらいの言葉の量で、私が自分の想いを語ると想像してたのかもしれないけど、蒼弥先輩は拍子抜けしたみたいな意表を突かれたみたいな驚いたような表情で私を見た。
蒼弥先輩は、力が抜けてほっとした感じで、今までで1番優しい目で私のことを見てたかも。
私の頭を撫でてくれた。
私は相変わらず大事に手に持っていた蒼弥先輩の名札と校章を改めて見つめた。
蒼弥先輩は、私の唇にふわっとキスをしてくれた。
蒼弥先輩はやたらと照れてた。
我慢したけど心の声めっちゃ漏れた(笑)。
あと少し、私の家まで相合い傘で歩いてる間も、どうしても嬉しくてニヤけちゃう。
ううん、と首を横に振った。
家に着くまでの数分間、蒼弥先輩はちょっと口数少なめになってた。
隣で時々蒼弥先輩をチラチラ見ながら私はただただ幸せ。
私が家のドアに入るまで、蒼弥先輩は見ててくれた。
波乱に満ちた卒業式。
雨に降られてみっともない状態で叶った恋だから、明日以降これからは逢うたびに「あの日よりは可愛いな」って思ってもらえるかな(笑)。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。