俺は女優に笑顔で手を振る。
もちろん振りたくないけどね。
バタン
梨花が呼んでくれたタクシーに乗り込む。
タクシーが発車し、ドラマの関係者たちが見えなくなったところで、
梨花がため息をついている。
まあ、俺のマネージャーなんて大変だよな。
自分でもそう思う。
タクシーにはものの10分も乗っていない。
梨花が運転手にお金を払いながら言う。
あ、やべ、これ梨花が怒る予兆だ。
俺はタクシーを降りながら言う。
涼しい顔をして梨花が言う。
これがほかのやつだったらキレてるんだけど…どうしてかな、梨花だと怒りが湧いてこない。
なんだかんだ話していたら、梨花と分かれるところまで来てしまった。
俺は片手をあげて家の方向へと進んだ。
やっぱ梨花と話してるときが1番リラックス出来るな…。
そんなことを思いながらしばらく歩いていると、
!?
目の前に人影が!?
転んでしまったらしく、しゃがみこんで物を拾っている。
ハンカチ?
よく見ると、俺の足元にサクラ柄のハンカチが落ちていた。
つーか、これまずいだろ。声からして女だし、もし俺だってバレたら…。
でも…拾わなきゃだよな。
よし、ここはさっと渡してさっと立ち去る!
俺がそう決めていると、
どうやら思っていたよりも長く考えていたようだ。
俺はハンカチを拾った。
あとはさっと渡してさっと立ち去る…。
ああー!俺のバカ!
つい職業病が出てしまった。
あれ、気づいていない?
女はかすかに頬を赤らめているだけで、全然騒いでいない。
俺は女に手を差し伸べた…ってこれ完全にバレただろ!?
何やってんだ、俺!
って気づいてなーい!
んなことあるか?俺は今をときめく人気俳優だぞ??
女は俺の手を掴み、立ち上がった…その瞬間。
ドサッ
いてて…。
気づくと俺と女は道路に倒れていた。
俺が下で女が上。そんな、漫画などでよく見るシチュエーションだった。
はっ、帽子とマスクが取れてる!
終わった…。
とりあえず女は大丈夫なのか?
俺は女のほうを見た。
すると、女は立ち上がる途中で目が合った。
その途端、
さっきまで暗闇で見えなかった顔が月明かりに照らされてはっきりと見える。
サラサラの黒髪ロングヘアにほんのりピンク色の頬と唇。
そして。
少しブルーのかかった瞳。
その瞳に吸い込まれそうになった────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。