第2話

〜出会い〜
52
2019/07/20 09:48
唯斗
お疲れ様でした!
スタッフ
お疲れ様〜!
女優
唯斗くんばいばーい!
俺は女優に笑顔で手を振る。



もちろん振りたくないけどね。
梨花
唯斗、帰りましょ。
バタン
梨花が呼んでくれたタクシーに乗り込む。
唯斗
それじゃ、お先に失礼します。
梨花
すみません、駅までお願いします。
タクシーが発車し、ドラマの関係者たちが見えなくなったところで、
唯斗
あー、やっと終わった。打ち上げなんてやんなくていいだろ。
梨花
こーら唯斗。打ち上げは結構大事なのよ?せっかくドラマの撮影全部終わったんだから。
唯斗
終わったからこそもう関わりなくないんだよ。
梨花
まったくもう…。
梨花がため息をついている。
まあ、俺のマネージャーなんて大変だよな。
自分でもそう思う。
梨花
あ、着いたみたいね。
唯斗
こんな少しの距離なんだから歩きでもいいのに。
タクシーにはものの10分も乗っていない。
梨花
ダメよ。この当たりは人通りが多いんだし、バレたらどうするの。
梨花が運転手にお金を払いながら言う。
あ、やべ、これ梨花が怒る予兆だ。
唯斗
あっ、そーだよな!梨花の言うとーり!
俺はタクシーを降りながら言う。
梨花
…はいはい。
運転手さん、ありがとうございました。
唯斗
えっら!
梨花
何言ってるの、普通だったら言うわよ。
唯斗
じゃ、俺が普通じゃないって言うわけ?
梨花
そういうことになるわね。
涼しい顔をして梨花が言う。
これがほかのやつだったらキレてるんだけど…どうしてかな、梨花だと怒りが湧いてこない。
なんだかんだ話していたら、梨花と分かれるところまで来てしまった。
梨花
じゃあまたね。
唯斗
おう。
俺は片手をあげて家の方向へと進んだ。
やっぱ梨花と話してるときが1番リラックス出来るな…。
そんなことを思いながらしばらく歩いていると、
!?
目の前に人影が!?
転んでしまったらしく、しゃがみこんで物を拾っている。
???
あ、すみません、そのハンカチ取ってもらえますか?
ハンカチ?
よく見ると、俺の足元にサクラ柄のハンカチが落ちていた。
つーか、これまずいだろ。声からして女だし、もし俺だってバレたら…。

でも…拾わなきゃだよな。

よし、ここはさっと渡してさっと立ち去る!
俺がそう決めていると、
???
…?あの…。
唯斗
あっ、すみません!
どうやら思っていたよりも長く考えていたようだ。
俺はハンカチを拾った。
あとはさっと渡してさっと立ち去る…。
唯斗
はい、どうぞ。
きれいなハンカチですね。きっと大事に使っていたんでしょう?
ああー!俺のバカ!
つい職業病が出てしまった。
???
あっありがとうございます!!
あれ、気づいていない?
女はかすかに頬を赤らめているだけで、全然騒いでいない。
唯斗
立てますか?
俺は女に手を差し伸べた…ってこれ完全にバレただろ!?

何やってんだ、俺!
???
はい…、ありがとうございます。
って気づいてなーい!

んなことあるか?俺は今をときめく人気俳優だぞ??
女は俺の手を掴み、立ち上がった…その瞬間。
???
キャッ!
唯斗
ウワッ
ドサッ
いてて…。
気づくと俺と女は道路に倒れていた。

俺が下で女が上。そんな、漫画などでよく見るシチュエーションだった。
はっ、帽子とマスクが取れてる!

終わった…。

とりあえず女は大丈夫なのか?
俺は女のほうを見た。

すると、女は立ち上がる途中で目が合った。

その途端、
唯斗
……!
さっきまで暗闇で見えなかった顔が月明かりに照らされてはっきりと見える。

サラサラの黒髪ロングヘアにほんのりピンク色の頬と唇。

そして。
少しブルーのかかった瞳。
その瞳に吸い込まれそうになった────

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