第13話

夏 休 み 編
1,994
2021/02/06 07:49


待ち合わせの6時ちょうど。









私は浴衣姿で、岩泉の姿を待っていた。












春乃が私の家まで来て、浴衣の着方を教えてくれて








花巻との約束がある春乃は、途中で別れて、

先に夏祭り会場に行っている。















岩泉 一
わりぃ。遅れt……
岬 あなた
あっ、岩泉くん!全然大丈夫だよっ







岩泉の姿を見た瞬間、嬉しくなって声が弾む。




彼は途中で黙ったまま動かない。






岬 あなた
……?どうしたの
岩泉 一
……あ、いや。
岩泉 一
その……似合ってるな




顔を真っ赤にして、そっぽ向きながら言う。








私も顔が赤くなるのがわかった。






嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。











岬 あなた
あっ……ありがとう///
岩泉 一
……おう///












そのまま、ゆっくりと近づきながら、


夏祭り会場へと歩き出した。



















岩泉 一
…………
岬 あなた
…………






話すことも無く、学校帰りの時と同じように、ずっと黙ったままだ。



いつもなら少し気まずく感じてしまうところだが、今日はこの距離感が何故か心地良い。





















会場に着くと、岩泉がこちらを振り返る。

岩泉 一
最初、どこ行きてえ?
岬 あなた
えっと……私はどこでも



思わずそう言ってしまい、後悔する。









どこでもいいが、1番困るのに。


でも、行きたい所と聞かれても、思いつくものがない。







というか、夏祭りってどんなものが売ってるんだっけ?





ずっと来ていなかったから、わたあめとか、りんご飴なんかのものしか思いつかない。














岩泉 一
んじゃ、おれが決めてもいいか?


コクンと頷き、岩泉の歩く後ろをついて行く。























ドンッ








岬 あなた
きゃっ……



誰かとぶつかり、転けそうになったところを、岩泉が、支えてくれた。




岩泉 一
ッ……大丈夫かっ
岬 あなた
う、ん



夏祭りはまだ始まったばかりだけど、人が多い。



ちょっとでもよそ見したら、はぐれてしまいそう。







そう思った時、スっと手を握られる。




岬 あなた
っ!



岩泉は黙ったままだ。



でも、強く、しっかりと握ってくれている手は、心強くて。



私もギュッと握り返す。





























花巻 貴大
あれ?岩泉と岬さん?



焼きそば屋さんの前では、花巻と春乃がいた。



春乃の手には、ヨーヨーと焼きそばが入ったビニール袋がかかっている。




春乃
2人ともラブラブだなぁ
岬 あなた
えっ?


なんで?と、そう言おうとした時、自分たちが今手を繋いでいることに気がついた。



これは、えっと……


と、慌てるが、春乃は相変わらずにやけている。



恥ずかしさで、身体中が熱い。


岩泉 一
岬……焼きそば好きか?
話をそらすかのように突然そう聞かれて、勢い任せで頷くと、

岩泉は焼きそば屋の前に行く。






2人にからかわれても、まだ手を繋いでくれている。



恥ずかしいのは彼も一緒。でも、それでも手をはなそうとはしない。


強く握られた手が、私達はつきあってるんだって、そんなふうに言ってる気がして、

なんだか嬉しくなる。






花巻 貴大
じゃあ、俺らも行くわ
岩泉 一
おう
小さく手を振りながら、人混みの中2人の背中が見えなくなるのを待つ。








私達は、2人分の焼きそばを持って、どこか座るところを探すことになった。























クラスメイト「あれー?岩泉じゃん」




クラスメイト「…………と、岬さんか」





人がだんだん増えてきた頃、ふと後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

岩泉 一
お前らか








クラスメイト「お前らかってなんだよw」



クラスメイト「何?二人で来てんのwやっぱ付き合ってるってまじだったんだ」












同じクラスの男女数人がからかい半分で、岩泉に絡んでいる。


私は学校じゃあ友達の少ない冴えない女子だし、こんなキラキラしたみんなとは話すこともないので、

岩泉の後ろに隠れるようにたっていた。







クラスメイト「岬さん……浴衣きてきたんだ」







1人の女の子がきずくと私の横にいて、思わずみがまえる。


岬 あなた
う、うん…




クラスメイト「ふーん……うざっ

クラスメイト「……キモいんだけど




クラスメイト「陰キャのくせにさ




クラスメイト「まじそれなっ









私を見ながら、軽蔑するかのように冷たい目線を向けられ、心無い言葉がグサグサと刺さる。







岬 あなた
ッ……




相手はきっと聞こえないように言ったつもりだと思うけど、










溢れそうになる涙をグッとこらえる。






岩泉 一
…………
岩泉 一
悪い。俺らもう行くわ




クラスメイト「え、もぅー?」





クラスメイト「じゃあなぁ」




岩泉はそういうと、話していた同じクラスの男子に別れを告げ、


早足にその場を離れる。





私は引っ張られるようにしてついて行くが、彼は一言も話さず、

どんどん人混みから遠ざかって行く。












岬 あなた
(あれ?なんか岩泉くん……怒ってる?)





私、なんかしたっけ?



前だけ見て、黙々と歩いていると、




着いた場所は、人気のない神社の裏だった。












岩泉 一
…………気にすんな
岬 あなた
ッ……



その一言が、何に対してかなんてすぐわかった。





私に聞こえていたんだから、すぐそばにいた岩泉に聞こえていてもおかしくない。










あんな悪口言われてる彼女なんて、嫌じゃないのかな?




うざいって……気持ち悪いって……岩泉くんは思わないのかな?











岩泉 一
俺はお前の味方だ



歩いていた足を止め、ゆっくりと顔をこちらに向ける。








"味方だ"なんて……








その言葉がどれだけ嬉しいかなんて、彼には分からないだろう。














私は、ずっとあなたに貰ってばかりだ……











どうしてこんなにもしてくれるの?






私は貴女に何もしていないのにッ









つい最近まで、話すこともなかった、ただのクラスメイトでしょう?









岬 あなた
なん…でッ



どうして、どうして!
























































どうして私を好きになってくれたの?
















心の底で思っていた謎。




告白してくれた時から、なんで私なんだろうって












でも、聞くのが怖かった。








どんな理由でも、自分に向けられた好意だって。




それが嬉しくて、

なんの取り柄もない私がほかのみんなと少しでもちかづけたって、肯定して欲しかっただけ。









岬 あなた
どうして、こんなっ……私なんかにッ






繋いでいた手を振り払う。






岬 あなた
ッ……






わかってる。






私を慰めてくれるのは、彼が優しいから。










傷ついてる自分を見て、可哀想だって、そうやって哀れんでるんでしょう?
























岩泉くんは何も悪くない。









ひとりぼっちの私に、手を差し伸べてくれた……






周りから冷たい目で見られる人に対して、そんなふうにするのは、誰でも出来ることじゃない。















岬 あなた
あんなこと言われてる人なんか……
岬 あなた
岩泉くんはいやじゃないのっ?


































人と話すのが苦手で、







できるだけ目立たないように、いつも周りの様子を伺って、








取り柄とか、そんなものなくて……



















中学はいつもひとりぼっちで、







高校からは上手くやろうって、そう思って来たのに……








3年間、春乃以外友達と言える子なんて一人もいない。




























私は、そんな私が大っ嫌いだ


















岩泉 一
岬……












『岬さんってなんかいつも暗いよなー』


『ザ・陰キャって感じぃー?』


『ほんっと、岩泉くんと付き合うとか。』


『まじ、いきんなって話だよねーw』























思い出したくもない、こんな思い出。





そんなのわかってるよ。暗くて、周りの人とは違うことぐらい














でも、どうして他の人達に岩泉くんとのことまで言われなきゃいけないの?







私は、このさきずぅーと、


1人でいなきゃいけないの?


































きずくと、ぽろぽろと、涙を流した私がいた。




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