降りてきた人の姿を見て、ヒュっと息をのむ。
サッと視線を地面に逸らし、早足にその場を離れようとしたが
180越えの男子2人が立ち塞がっている階段を通ることはできなさそうだ。
私の顔を見るなり、心配そうに話しかけてきた。
ぎゅっと制服の裾を掴む。
その問いになんて返せばいいのかわからず、私は体を縮こませ、黙ったまま
視線をきょろきょろと動かした。
私と2人との間に沈黙が流れる。
気まずい雰囲気の中、最初に口を開いたのは松川だった。
岩泉くん……
その名前に反応して、勢いよく顔を上げると松川の顔がすぐそばにあった。
驚いて後ろに後ずさると、彼が微笑むように笑う。
その言葉でハッとし、顔に手を当てる。
涙で濡れたほほが冷たい。
赤く充血してるであろう瞳も、
湿ったまつ毛も、
腫れたまぶたが重くてしっかり目を開けない。
そう言って見つめてくる瞳は、何もかもを見通すようで動けなくなる。
そんな目で見ないで……
本当のことなんて、絶対に言えないから。
私が嫌われてるなんて知ったら
今みたいに心配してくれることも無くなる。
クラスメイトにあんなふうに言われてるなんて、知られたくない。
嘘だってわかるだろう。
あからさまに泣いてるってわかるこの顔で、何も無いって。
でも私にはこれしか言えなかった。
他になんていえばよかった?どんな嘘つけばよかった?
とにかくこれ以上関わらないで、もう心配しなくていいからって、直接言うことは出来ないから
こうやって遠回しに伝えるしか、私は思いつかなかったんだ。
及川も松川も、それ以上何も言わなかったのは、察してくれたからだと思う。
ぺこりと頭を下げる。
そのまま地面から視線を外さずに、私は2人の横をとおりすぎた。
____________________
階段を1段とばしで駆け上りながら、濡れた目をブレザーのそでで拭う。
教室まで着くとドアに手をかけ、そっと中に入った。
ニカッと笑うその笑顔が眩しい。
ずっと待たせて申し訳ないのに、
それでも待っててくれたことが嬉しくて……
そう言って私の机の上にあったバックを手に取り、こちらに近づいてくる。
あれ……?
どこ行ってたんだって、聞かれると思ってたけど……
岩泉はそんなこと気にもしてない様子だ。
私のところまで持ってきてくれたバックを受け取る。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。