第22話

二 学 期 編
1,545
2021/04/12 12:31
及川 徹
ってあれ?岬さん……?




降りてきた人の姿を見て、ヒュっと息をのむ。



岬 あなた
あ…………







サッと視線を地面に逸らし、早足にその場を離れようとしたが


180越えの男子2人が立ち塞がっている階段を通ることはできなさそうだ。








私の顔を見るなり、心配そうに話しかけてきた。







及川 徹
……もしかして、泣いてた…?






ぎゅっと制服の裾を掴む。





その問いになんて返せばいいのかわからず、私は体を縮こませ、黙ったまま

視線をきょろきょろと動かした。













私と2人との間に沈黙が流れる。



気まずい雰囲気の中、最初に口を開いたのは松川だった。










松川 一静
…………岩泉が教室でずっと待ってたけど、
岬 あなた
えっ





岩泉くん……







その名前に反応して、勢いよく顔を上げると松川の顔がすぐそばにあった。



驚いて後ろに後ずさると、彼が微笑むように笑う。







松川 一静
やっと顔上げた
岬 あなた
え、あ、えっと……わ、私っ
松川 一静
その顔で行ったら岩泉驚くだろうな







その言葉でハッとし、顔に手を当てる。






涙で濡れたほほが冷たい。



赤く充血してるであろう瞳も、


湿ったまつ毛も、


腫れたまぶたが重くてしっかり目を開けない。








松川 一静
……何かあったの?






そう言って見つめてくる瞳は、何もかもを見通すようで動けなくなる。






岬 あなた
ッ……





そんな目で見ないで……







本当のことなんて、絶対に言えないから。







私が嫌われてるなんて知ったら




今みたいに心配してくれることも無くなる。







クラスメイトにあんなふうに言われてるなんて、知られたくない。





岬 あなた
……なに、も
岬 あなた
何も、ないです……






嘘だってわかるだろう。





あからさまに泣いてるってわかるこの顔で、何も無いって。




でも私にはこれしか言えなかった。















他になんていえばよかった?どんな嘘つけばよかった?














とにかくこれ以上関わらないで、もう心配しなくていいからって、直接言うことは出来ないから


こうやって遠回しに伝えるしか、私は思いつかなかったんだ。









松川 一静
………………そう




及川も松川も、それ以上何も言わなかったのは、察してくれたからだと思う。



岬 あなた
あ、あのっ!岩泉くんは……
及川 徹
あー、うん!教室にまだいると思うよ
岬 あなた
あ、ありがとう、ございます







ぺこりと頭を下げる。




そのまま地面から視線を外さずに、私は2人の横をとおりすぎた。











































____________________








































階段を1段とばしで駆け上りながら、濡れた目をブレザーのそでで拭う。






教室まで着くとドアに手をかけ、そっと中に入った。









岩泉 一
おう!遅かったな




ニカッと笑うその笑顔が眩しい。







ずっと待たせて申し訳ないのに、


それでも待っててくれたことが嬉しくて……







岬 あなた
あのっ、ご、ごめんなさいっ!待たせちゃって……
岩泉 一
気にすんな



そう言って私の机の上にあったバックを手に取り、こちらに近づいてくる。








あれ……?



どこ行ってたんだって、聞かれると思ってたけど……



岩泉はそんなこと気にもしてない様子だ。




岩泉 一
んじゃ帰るか



私のところまで持ってきてくれたバックを受け取る。



岬 あなた
…うん!

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