三人しかいない部室。部活動を開始しようとした零先輩に、私は思わず挙手をした。
日和先輩はもう、一週間部活に来てない。
先輩を怒らせちゃって、変な感じになっちゃったまま。
謝ろうにも、あの日以来校舎内でも先輩を見かけることはなかった。
小さな声でフォローを入れてくれた清香先輩に、思わず顔をあげる。
なんで日和先輩が来なくなったか、清香先輩も知らないらしい。
そうだよね、考えても仕方ないことってたくさんある。今は部活に集中しないと。
ゾンビも、生存者が嫌ってなるほど追いかけてきて、精神的にも肉体的にも苦痛を負わせてくる。
……しかも、時には逃げ切れなくて……
清々しい顔をしている清香先輩に、零先輩が頭を抱えている。
自分の中でストーカーって、好意が転じて独占したいがための行動って思ってたけど……
実のところ厄介なのは自覚がない善意ってところなんだろうなぁ。
真剣な表情の零先輩に首を傾げる。
清香先輩も、呆れながらどこか心配そう。
結局、校門で迎えを待たせているという清香先輩と別れ、零先輩と一緒に帰る。
な、なんかちょっと緊張……。
ストーカーって、今の今まで部活で学んでたやつ!?
零先輩に聞かれ、小さくうなずく。
ストーカー被害に遭ったら、まずは証拠を集めなくちゃいけない。
……きっと、いま日和先輩はその段階。
そうだ、入部したときから聞いたことのあった名前。
日和先輩は優しい。そう、優しすぎるのだ。
零先輩が立ち止まって、まっすぐこちらを見てくる。
強くて真剣な目に見つめられて、思わず息をのんでしまう。
だから、零先輩は清香先輩に迎えを強制して私をこうして送ってくれてるんだ……。
零先輩は頭を下げた。
顔をあげた零先輩は本当に真剣な目をしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。