清香先輩に話を聞いてもらってすっごく楽になった!
今はまだわからないけど、いつかきっとわかる。
そう思えば日和先輩との会話だって、何も怖くない気がする。
部室の扉を開ければ、日和先輩と零先輩が声をかけてくれる。
恋愛というよりもお父さんっていう感じだけど、これが安心できちゃうんだよねぇ。
キュンキュンするのもいいけど、安心感も時には必要だと思うんだよね!
ふと視線を感じると、日和先輩がじっとこっちを見てる。
笑顔じゃなくて、……あの、観覧車の時みたいな拗ねた顔……。
そうだ、日和先輩に「楽しかった」ってちゃんと言えてないんだった……!
目の前に二枚の長方形の紙が差し出された。
これは……!
日和先輩が一枚チケットを渡してくれる。
そこにはやっぱり今話題の恋愛映画のタイトル!
うわー! やっぱタイトルからして良さそう!
うわー! うわー! 口に出すとさらにいい感じのタイトル!
顔をあげると、驚いた顔の零先輩がいた。
零先輩の視線を辿ると、日和先輩の顔が真っ赤に染まってた。
胸がドキドキしてて、今すぐ飛び跳ねたい感じ……。
そうだ、今すっごくわくわくしてる!
振り向けば、日和先輩は暗い表情のまま固まってた。
日和先輩は切なそうに笑ってもう一枚のチケットを零先輩に渡した。
そして、部室から出て行ってしまう。
慌ててドアから顔を出しても、日和先輩は振り向かず行っちゃった。
椅子に座りながら日和先輩から渡されたチケットを眺める零先輩。
その目が、こちらに向けられる。
私はきっと、今何もわからず日和先輩を傷付けてしまった。
何がダメだったのか、全然わからない。
……これが、先輩の言う厄介なこと……
立ち上がった零先輩が、私のもとまでやってきてチケットで頭を叩く。
でも全然痛くなくて、……痛くないはずなのに。
零先輩はそう言って私の手にチケットを握らせた。
そのまま日和先輩が去ってしまった方へ向かっていく。
私は立ってるのが嫌になって、その場にしゃがみこんだ。
映画が見れると思ったら、すっごく心が躍った。
飛び跳ねて、ぴょんぴょんしたくなった。
もし、ここが家だったら。そしたら、絶対に飛び跳ねている自信がある。
でもこれがどういう感情なのかって言われても、何もわからない。
ただ、楽しくて、嬉しくて……。
この気持ちで先輩を傷つけたとは考えづらかった。
傷ついたような日和先輩の顔が忘れられない。
前の拗ねた時の表情と重なって、胸が苦しくなってくる。
笑っていて欲しい。先輩には、ずっと。
わくわくした気持ちとはかけ離れた気持ち。
そっとおでこに触れて考える。
それでも、この気持ちが何なのか、私にはさっぱり分からなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。