第8話

感じるわくわく、疑問バクハツ
905
2021/09/08 09:00
清香先輩に話を聞いてもらってすっごく楽になった!
今はまだわからないけど、いつかきっとわかる。
そう思えば日和先輩との会話だって、何も怖くない気がする。
花梨
花梨
お疲れ様です!
日和
日和
あ、花梨ちゃん!
零
体調は大丈夫か?
花梨
花梨
はい! ご心配おかけしました!
部室の扉を開ければ、日和先輩と零先輩が声をかけてくれる。
零
体調が悪くなったらすぐ言うんだぞ
花梨
花梨
そういう些細な気遣いも恋愛においては重要なんですね!?
零
……まぁ、あながち間違ってはない。
辛くなったら隠さないように
花梨
花梨
えへへ、零先輩って本当に優しいですよね
恋愛というよりもお父さんっていう感じだけど、これが安心できちゃうんだよねぇ。
キュンキュンするのもいいけど、安心感も時には必要だと思うんだよね!

ふと視線を感じると、日和先輩がじっとこっちを見てる。
笑顔じゃなくて、……あの、観覧車の時みたいな拗ねた顔……。
日和
日和
……ねぇ花梨ちゃん
花梨
花梨
は、はい! なんでしょう!
日和
日和
今度、映画見に行かない?
花梨
花梨
えっ?
日和
日和
デートの後から花梨ちゃん元気なかったみたいだし……
楽しくなかったのかなって
花梨
花梨
そんなこと……!
そうだ、日和先輩に「楽しかった」ってちゃんと言えてないんだった……!
花梨
花梨
日和先輩、あの……!
日和
日和
だからさ、もう一回デートしよう
花梨
花梨
えっ
目の前に二枚の長方形の紙が差し出された。
これは……!
花梨
花梨
この映画!
今流行りの恋愛映画ですか!?
日和
日和
そう。前に部活で見たのも面白かったけど……
流行りのものも見たほうがいいかなって
花梨
花梨
これ! すっごく気になってたんです!
もう予告の時から見たくて!
日和
日和
ふふっ、よかった
日和先輩が一枚チケットを渡してくれる。
そこにはやっぱり今話題の恋愛映画のタイトル!
うわー! やっぱタイトルからして良さそう!
花梨
花梨
『私は恋をしたのかもしれない』
うわー! うわー! 口に出すとさらにいい感じのタイトル!
零
……日和?
顔をあげると、驚いた顔の零先輩がいた。
花梨
花梨
? ……わ!
日和先輩どうしたんですか!?
零先輩の視線を辿ると、日和先輩の顔が真っ赤に染まってた。
花梨
花梨
え! 体調悪いんですか!?
日和
日和
ううん、大丈夫。……良かったら一緒に行こうよ
花梨
花梨
はい! ぜひ!
ありがとうございます!
日和
日和
そんなに喜んでもらえて、俺も嬉しいや
花梨
花梨
えへへ、今、すっごく……なんて言うんだろう……
胸がドキドキしてて、今すぐ飛び跳ねたい感じ……。
花梨
花梨
わくわく! わくわくしてます!
そうだ、今すっごくわくわくしてる!
日和
日和
……なぁに花梨ちゃん。
今わくわくしてるの?
花梨
花梨
はい! もうこれ以上ないくらい!
日和
日和
それってさ、どういう気分?
花梨
花梨
遠足前の気分です!
日和
日和
……遠足……遠足、ね……
零
日和?
花梨
花梨
零先輩、やっぱり今流行りの映画って勉強になりますよね!?
零
え? あ、あぁ……。
流行ってるということは今求められている要素が入っているということだからな
花梨
花梨
そうですよね! 零先輩も一緒にどうですか!?
課外授業part2みたいな感じで! ね! 日和先輩!
振り向けば、日和先輩は暗い表情のまま固まってた。
花梨
花梨
日和先輩……?
日和
日和
あぁ、……うん、そうだね、うん
花梨
花梨
え……?
日和先輩は切なそうに笑ってもう一枚のチケットを零先輩に渡した。
そして、部室から出て行ってしまう。
花梨
花梨
え、え……日和先輩!?
慌ててドアから顔を出しても、日和先輩は振り向かず行っちゃった。
零
……まぁ、今回に関してはあいつの気持ちもわからんではない
花梨
花梨
……へ?
椅子に座りながら日和先輩から渡されたチケットを眺める零先輩。
その目が、こちらに向けられる。
零
恋について無知なことは罪ではない。
だからこそ、ここで学ぼうとしたんだろ
花梨
花梨
は、はい!
私、本当に何もわからなくて……!
零
そうだな。
きちんと学ぼうとしている姿勢は認める
花梨
花梨
……はい
零
だが、無知とは時に鋭い刃となって人を傷つける。
どうして傷付けてしまったかもわからないからこそ、厄介なものだ
花梨
花梨
……はい
私はきっと、今何もわからず日和先輩を傷付けてしまった。
何がダメだったのか、全然わからない。
……これが、先輩の言う厄介なこと……
花梨
花梨
……私……
零
完全に花梨が悪いわけじゃない。
そう落ち込むな
花梨
花梨
……でも
零
出ていきたくなる気持ちもわかるが、
今までさんざんやってきて何も言わないあいつも悪い。
お互い様だ
立ち上がった零先輩が、私のもとまでやってきてチケットで頭を叩く。
でも全然痛くなくて、……痛くないはずなのに。
零
さっきのわくわくした気持ちが何なのか、もう一度思い出してみろ
零先輩はそう言って私の手にチケットを握らせた。
そのまま日和先輩が去ってしまった方へ向かっていく。

私は立ってるのが嫌になって、その場にしゃがみこんだ。
花梨
花梨
……わくわく……
映画が見れると思ったら、すっごく心が躍った。
飛び跳ねて、ぴょんぴょんしたくなった。
もし、ここが家だったら。そしたら、絶対に飛び跳ねている自信がある。
花梨
花梨
……どういう気持ち……
でもこれがどういう感情なのかって言われても、何もわからない。
ただ、楽しくて、嬉しくて……。
この気持ちで先輩を傷つけたとは考えづらかった。
花梨
花梨
……日和先輩
傷ついたような日和先輩の顔が忘れられない。
前の拗ねた時の表情と重なって、胸が苦しくなってくる。
笑っていて欲しい。先輩には、ずっと。
花梨
花梨
……
わくわくした気持ちとはかけ離れた気持ち。
そっとおでこに触れて考える。

それでも、この気持ちが何なのか、私にはさっぱり分からなかった。

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