部室を開けた私の目の前に、キラキラオーラを放つ零先輩が仁王立ちになっていた。
突然のことで処理しきれなかった私は、当然ドアの前で止まってしまう。そんな私を連れ出したのは、日和先輩。
そう言って日和先輩が私の肩を抱いて廊下を歩いていく。
部室の鍵を閉めた零先輩も、後ろからついてくる。
すごい近い! 日和先輩いい匂いだけど! 今そんなこと言ってられない!
日和先輩の腕をつかんで後ろを振り返れば、零先輩の驚いた顔とご対面。
驚きたいのはこっちなんですけど!
切なげに笑った日和先輩に連れられるまま、私は靴を履き替えて校門の前に立っていた。
状況が何一つ分からない。
確かに座学よりも実技の方が得意だ。話を聞くよりもやって覚えたほうが早いじゃん。
どうせ紙で覚えたってそれが通用しないのが大半な世の中だもん。うん。
零先輩の言葉と同時に、私の右手が取られる。私の手よりもずっと大きい、男の人の手。
視線をあげると、日和先輩が優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
太陽も相まって眩しい……。オーラで人を倒せそう……。
日和先輩はただ掴んでいるだけだった手を少しだけ離して、指同士を絡めてきた。
いわゆる、恋人繋ぎ。
それはいろいろと困る! お風呂とか、と、トイレとか!
そう思って慌てて手を振ると、案外すんなり離れた。
安心したように日和先輩を見れば、今まで見たことないような顔で笑ってた。
耳も尻尾も垂れ下がり、しょんぼりした子犬みたい。……なんか、罪悪感がすごい……。
零先輩の言葉に、私は慌てて日和先輩の手を取った。
でも、日和先輩は手を動かしてくれない。
先輩の指を一生懸命絡めようとしても上手くいかない。
これは慣れないとできないのかな。
そう思ってつないだ手を見せつければ、日和先輩は目を見開いた後、ふにゃっと笑った。
元気なかった犬が散歩だって言われて元気を取り戻した感じ。うーん可愛い!
しばらく歩いた後、零先輩はそう言って公園に入っていった。
そこには、小さなワゴンのお店が出ていた。
クレープや飲み物を売っているワゴンからは、すごくおいしそうな匂いがする。
日和先輩はグラスにハート型のストローがささった飲み物を差し出してきた。
飲み口は二つあるけど一緒に飲んだら近すぎるやつ!
良くテレビとかで「いまどき!」とかやってたやつだ!
薄ピンク色の飲み物の正体はいちごみるく。甘い味が口いっぱいに広がった。
やめられない! これは! やめられない!
日和先輩がまた悲しそうに笑ってる。先輩も飲みたかったんだろうな……。
日和先輩が私の手を引いてクレープを購入。
焼きあがっていくのを一緒に見てたら、お腹が鳴らないかすっごく心配だった。
日和先輩が受け取ったクレープを差し出してくる。
匂いにつられるようにクレープを受け取ってかぶりつけば、さっきのいちごみるくとはまた違った味が口に広がった。
思わず閉じてしまった目を開ければ、映ったのは宙に手を浮かせたまま悲しそうな表情を浮かべる日和先輩。
しまった。また全部食べるところだった!
宙に浮いたままだった日和先輩の手にクレープを差しこむ。
零先輩たちが近くのベンチに座るのを見届けて、私もクレープを買いに行く。
日和先輩の元気がないように見える……。
部活だと分かっていながら楽しみすぎたのは自覚済み。
でもだって、何をやっても様になっちゃうんだもん日和先輩!
だがこのままではただ楽しんで帰っているだけになってしまう。それだけはだめだ。
さっき学んだことを実践。
買ってきたクレープを差し出せば、日和先輩は驚いたように目を丸くする。
いつも笑みを浮かべてるから、ちょっと新鮮な表情だ。
いつもならすぐ会話に入ってくる日和先輩が、やっぱりおとなしい。
体調でも悪いのだろうか。
そう言って微笑んだ日和先輩の顔は、いつもより少しだけ幼かった。
余程疲れさせてしまったらしい。猛省すべきかもしれない。
すみません、日和先輩。
でも楽しかったのは事実。ありがとう日和先輩!
意外と小さな口でクレープを食べる日和先輩を拝んでおく。
真剣な顔で考え込む零先輩。
こんなにいろいろ知っていてかっこよくてモテるのに、なんで先輩はこの部活にいるんだろう。
まさかの創立者!! なんで!
零先輩は真剣な顔で首を横に振った。
こんなに恋愛マスターな先輩でも、分からないことがあるらしい。
これは、思っていたよりもマスターになるのは難しいのでは……?
壁は高いほど燃えてくる! 頑張れ私!
絶対マスターして、幸せな恋愛をするんだ!















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!