本日の部活内容である恋愛映画を見終わった後、私はふと思ったことを口に出した。
今回の映画は、ヒロインである女子高生が意中の先輩を落とすために奮闘する超王道胸キュン映画。
そこでヒロインの女の子は、「初恋」なのだといっていた。
清香先輩に言われ、今見たものを思い起こす。
先輩を見るだけで、声を聞くだけで、名前を呼ばれるだけで嬉しくなると言っていたヒロイン。
誰かを見て舞い上がったこともなければ、一喜一憂したこともない。
机に頬杖をついて微笑む日和先輩。
こういう言葉、よく漫画とかでは見てたけど本当に言う人っているんだ。
これは日和先輩みたいに顔が整っている人だからこそ許される台詞かもしれない。
零先輩は立ち上がったと思えば、私の横を通り過ぎていく。
……あれ?
何処に行くんだろう、って思ってたら私の座っている椅子に手をかけてきた。
え? って顔をあげた瞬間、零先輩の綺麗な顔が真横にあった。
椅子についている手とは反対側の手は、机の上。
……えっ! なにこれ!
黙ったままじっと見つめてくる零先輩。
勉強を教えるようなこの体勢。
……すごい、学校のパンフレットとかでよく見たことあるよ! 近い! 覗き込まれてる!
割れんばかりの拍手を送れば、零先輩が目を見開いた。
しまった、拍手がうるさすぎただろうか……?
うきうきとした日和先輩の声に、零先輩はそっと顔をはなした。
……若干冷たい目で見られているのはなんで!?
零先輩がため息をつきながら席へと戻る。
なるほど、顔が良いと意識しなくてもモテちゃうんだ。
日和先輩に呼ばれ顔を上げれば、グイっと少し強引に腕を引かれる。
抵抗する間もなく立たされたかと思えば、とん、と背中に冷たいものが当たった。
壁だ。
背中が壁についたのだと認識した瞬間、視界に日和先輩の腕が映った。
日和先輩の手だけじゃなくて、肘まで壁についてる。
壁ドン……? ううん、私の知ってる壁ドンよりずっと近い!
顎を持ち上げられ、強制的に日和先輩の顔を見つめることになる。
こつん、とおでこにぶつかったのはあったかいもの。
おでこだ! 日和先輩のおでこだ! 近すぎて、日和先輩がちゃんと見れない!
ゆっくり近づいてくる日和先輩の顔。
零先輩もそうだけど、日和先輩だって負けず劣らず綺麗な顔をしていらっしゃる。
これは……このまま顔を近づけられたら……!
胸がドクっと跳ねる感じがした。
零先輩の声とともに日和先輩の顔が離れる。
見れば、零先輩が日和先輩の襟元を引っ張っているところだった。
体が震えてる。でもそれは嫌な震えじゃない。それに、胸がすっごいドキドキしてる。
お母さんに怒られた時とは、また別の感覚。
すごい、これが……これが……。
少しだけ強引だったのがなお良し!
普段の生活であんなに顔と顔が近づくこともないし、すごく新鮮だった!
興奮冷めきらぬままにまくしたてると、清香先輩がそう言った。
零先輩に首根っこを掴まれたままの日和先輩は、どことなく悲しそうな表情を浮かべていた。
こんなに美男美女が揃っていて、こんなに面白い体験ができるのに。
この部活には、他の部員がいる感じもないし新入部員が来る様子もない。
呆れたような零先輩は、日和先輩を引っ張って椅子に座らせた。
椅子に座ったまま後頭部をかく日和先輩。
面接って、あの「恋とはなんだと思う」ってやつかな。
私だけが合格したってことだよね?
すごい……。じゃあ……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。