帰り道、いつもは人通りが多い道も夜中となるとサラリーマンのおっさんしかいない。
軽井沢は大きな欠伸をしてゆっくりと歩いている。
そろそろ眠気が俺にも襲ってきて、ふるふると頭を振る。
すると、その行動に軽井沢は口を開けた。
苦笑混じりに答えると、「俺もっす」ともう1度欠伸をする。
家まで後少し、俺は時計を見ながら歩いていた。
そんなことを考えていると、反対方向に歩いてくる相手に気付かず、相手とぶつかってしまった。
相手の鞄が落ちて、謝りながら拾おうとしゃがみこむ。
するとその相手は俺の手をパシッと掴んだ。
すると、俺の手を握ったまま片方の手で鞄を拾う。
暗くて顔はよく見えないが、俺と同じサラリーマンっぽい。
立ち上がると、尚も相手は俺の心配をしてきた。
握ったまま話をされてそっちにしか集中が向かなくて。
相手は「あぁ、済まないね」と俺の手をパッと離すと、「またね」といって去ってしまった。
声からして三十代前半だろうか…?
腕時計がやけにキラキラしてて高級品っぽかったし、どっかの偉い業者の人か?
そんなことを考えながら去ってしまった相手の後姿をみると、今まで黙って様子を見ていた軽井沢が口を開けた。
軽井沢の言葉に返事はできなかった。
いやらしい握り方だったし…
夜中には変なサラリーマンもいるもんだな、なんて思いながら俺達はそれぞれ別れを告げて、それぞれ別の道へと歩いていって、家に帰った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。