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第44話

カールに異常が起きました
──今日は久し振りに授業が行われる。

久しぶりに、というのも、暫く僕が授業を休んでいたからだ。

別に風邪だとかを引いていたわけじゃない。

ただ、僕は最近気付いてしまった。

カールはどこかおかしい。

いや、おかしいというのも僕の主観な訳で。別にもしかしたらカールの言動はこの世界にとって常識で、特に特筆するような変なところはないのかもしれない。

ただ、異様に多いのだ。『奴隷』という言葉を口にすることが。

この世界は人身売買が当たり前な世界。人間こそが絶対で、人間以外の種族は人間に使役されるのが当たり前となっている世界。

だから別に普通の人間が『奴隷』といったところでおかしくはないのだ。

でもカールは、通常の人間が発するであろうその言葉を一日に一回や二回は必ず言っている。

レーナや宮廷魔法士もたまに言うことはあるが、そんなしょっちゅう言うようなことでもない。

それに、急に変わっている。

カールが僕の家庭教師になったとき、第一印象としては『優しそうな若人』『頭が良さそう』という感じだった。

特段カール自身も授業中『奴隷』を連呼するような人間ではなかった。

だがそれもいつからか、今ではどんな内容の授業でも必ず『奴隷』という言葉がついて回る。

もしかしたらそれがカールの本性なのかもしれないが。

どちらにしろ怖いだろう?カールに何かしら起こっているにしても、それが本性なのだとしても。

今まで優しかった人が急にイカレサイコみたいなことを言い始めて驚かない人を見てみたい。

まぁそれでも僕はカールに良くしてもらってる。この世界の知識も、何もかも教えてくれたのはカールだ。

それが本性なのなら、僕はそれに口を出さずにただ本性を曝け出させてやればいいのだろう。それが正しいかは別として。

─でも、もし何かしら起こっているのだったら?

仮にも彼は僕の家臣という扱いになる。いわば僕の『所有物』だ。そんなふうに言うのは気が引けるが。

6歳になった時点で、僕は1人前になる。レーナもカールも僕の『所有物』と認められる。

そんな人の持ち物に勝手に傷をつけられてはたまったものではない。

誰かがカールを操っているのか?カールの精神に作用する何かを仕込んだのか?

そんなことは許さない。『僕の』カールだ。僕だけの。そこに茶々を入れるのは何人であろうと許さない。

僕は仮にもこの国の皇女だ。その皇女に喧嘩を売るなら、もちろん僕が喧嘩を買って正面から潰しにかかることも想定済みだろう。

見せてやろう。『シャンドール帝国第三皇女』の強さを。権力を。


まぁ、まだ誰かにやられているとは決まっていないのだ。一人で妄想してヒートアップしても得はない。

まずはカールをよく観察することが重要なのだ。

今まではカールが怖くて授業をサボっていたが、ずっとこのままでいるわけにもいかない。

本性ならば、僕はそれを受け入れよう。カールの居場所になろう。

…すこし、烏滸がましいかな?まだ齢6つの子供が大人の居場所だなんて。

まぁ精神的にはもうカールより歳上なのだ。それくらいいいだろう。

カール何歳だっけ。そうだ19だ。
意外と若いな。まぁ成人が16だから大人か。

そういえば、姉も…この前成人式を盛大に執り行ったくせに、性格は変わらない。全く可愛い姉だ。

そうこうしているうちに始業のチャイムがなる。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
どうも、皇女様。お久しぶりですね。
寂しそうにそういうカールの目には隈が浮かんでいて、かなり窶れた様子だ。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
!どうしたの、カール。いや久しぶりだけどさ。顔酷いよ。ちゃんと寝てるの?
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
いえ…ただ、長期休暇を取られたものですから、少し不安に…さ、授業を始めますよ。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
いや、駄目だって。いくら何でも。長い間休んだのは悪かった。悪かったけどさ。流石に寝て?授業なんてどうでもいいよ。ぶっ倒れたらどうするの。というかもう気を緩めたらぶっ倒れそうじゃん。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
え、でも…
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
私のベッドを貸してあげるから、ほら。ちょうど6歳児には大きすぎるから、カールの身長でもいけると思う。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
いや、でも、授業は?せっかく久しぶりの授業だから、今日は特別な単元を…
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
そんな顔で何言ってんの!どうせこのままやっても倒れるでしょ、途中で。明日も授業はあるから。それに休むのも勉強だよ?
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…はぉ、では、お言葉に甘えて。授業時間が終わったら起こしてください。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
はい、おやすみ。
無理矢理授業を始めようとするカールを説得してやや乱暴にベッドに押さえつける。

カールは明らかにホッとしたような顔をして、その数秒後にはすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てながら眠り始めた。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
…全くもう、何なのよ。
なんで寝てないんだ?寝る時間ならあっただろうに。

かなり憔悴している様子だった。これは終業のチャイムが鳴っても起こさないで、今日は宮殿に止めたほうが良さそうだ。そう思って、レーナに今日家庭教師を止める旨を伝える。

レーナは最初こそ困惑していたが、理由を説明すれば「一日だけですからね」と言って新しく簡易ベッドを出してくれた。
──翌日──
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
ふぁ、よく寝た。…ってえ?ここ、どこ?なんで僕はここに…えっここ皇女宮か!?
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
あ、カール。おきたの、おはよう。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
いやおはようじゃないですよ。なんで僕はここにいるんですか。僕は終業のチャイムが鳴ったら起こしてと頼んだはずですが。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
主人からの慈悲よ。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
何が慈悲ですか。…あぁくそ、僕は一体どれだけ寝てたんだ。あのメイドにバレる前に帰らないと。
レーナ
レーナ
バレてないとお思いですか?
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
うわっ
レーナ
レーナ
あなたのことは皇女様から聞きました。あなた、凄い隈だったじゃないですか。そんな状況で帰らせても途中で倒れられても困りますし。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
そんな酷かったのですか?
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
うん、目も当てられなかった。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…はぁ…
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
ところで、なんであんなになるまで寝なかったのよ。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…実は、皇女様が「暫く休む」と言われたので、もしかして知らないうちに何か不敬を働いたのかなと不安になって…寝るに寝られなかったのです。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
あぁ、そういうこと。なら心配しないで。私が暫く休んだのは、少し皇女宮内でゴタゴタがあったからよ。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…はて?ゴタゴタがあったなど聞いておりませんが。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
本来なら秘密なんだけどね。なんかお姉様に「暫く授業を休め」と言われたから。理由を聞いたら、秘密にしろって言われてね。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
思い切りバラしてるけど。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
流石に内容の細かいことまでは言えないし、それをお姉様に確認したりしたら私がお叱りを受けるから、ここだけの秘密ね。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…はぁ、分かりました…
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
じゃ、これからはちゃんと寝てね。流石に病み上がりで授業させるわけにも行かないから、今日は休みなさい。また明日待ってる。
家庭教師(カール)
家庭教師(カール)
…はい、承知いたしました。心からの慈悲感謝します。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
ん、じゃーね。
カールは荷物をまとめて、覚束ない足取りで皇女宮をゆっくりと出ていった。

勿論、「ゴタゴタ」なんてのは嘘だ。

実際ゴタゴタ何てなかったけど、流石に休んた理由をそのまま伝えると傷つきそうだったから咄嗟に嘘をついたのだ。

我ながらバレてないと思う。だってあのあと、レーナに「そんな理由で休まれていたのですか?」って聞かれたから。

まぁちゃんとレーナには事情説明して、理解してもらったけどね。
…最近は謎ばかりだ。神といいカールといい。
僕には「のんびり生活する」という選択肢はないのだろうか。無いな。
あ~体が凝った。慣れないベッドで寝たからかな。いつの間にこんな贅沢になったんだろ。

結局カールのあれが本性なのかすらも掴めなかった。

明日、授業があるはず。それに賭けよう。