第28話

「宮廷魔法士」に会いました。
45
2020/12/12 13:39
今日は僕が楽しみにしていた日だ。

何かというと。そう、この世界でしか味わえないファンタジーなあれをようやく僕はこの目で見れるのだ。

つまりだな。今日はレーナさんに懇願してやっと許可をもらえた、「宮廷魔法士」と会える日なのだ。

この世界は前世とは違い魔法が存在する世界。

とは言ってもこの世界の住人全員が魔法を使えるわけではない。

人間は大抵「魔法士」の素質を持ったものと「武闘士」の素質を持ったものでわけられ、「魔法士」は魔法を、「武闘士」は武道に優れている。

これは生まれながらの素質であり、変えることはできない。

「魔法士」は魔法が使える代わりに体を動かして一般以上に武道の道を極めようとしても一般より少し筋肉がつく程度で、決してそれ以上は強くなれない。

「武闘士」はそもそも魔法自体が使えない。

稀にどちらの性質も持たない「非所持者」が産まれることがあるが、そうやって産まれた子はそれが発覚した時点で殺されるか、生き残っても酷い差別等で満足に暮らせやしない。

因みにその性質を調べるためには、2つの性質を司る「武闘神アラム」と「魔法神シフカ」という二柱の神に聞く必要があるらしい。

まぁ大抵は産まれた瞬間に母体と子供にお告げが下されるそうだ。

しかも母体が命を落とすか何かで性質が分からなくなっても、教会で神に祈りを捧げれば簡単に教えてもらえる特典付きである。

ちなみに僕は「魔法士」の性質を持っている。

いつお告げが下されたかは覚えていないが、レーナさんに聞けばすぐに教えてもらえた。

ちなみにここだけの話、所詮この2つの性質は『どちらが扱えるか』と言うだけのものなので、「魔法士」だからといって魔法が得意なわけでもないし、「武闘士」だからって運動が得意なわけでもない。

だから僕も魔法を自由自在に扱えるかは分からないのだが。

…と、長くなったが。「宮廷魔法士」というのは、大量にいる「魔法士」達の中から更に特筆した才能を持ち、且つそれを帝国の為に扱う「魔法士」のことである。

今回はその人と会って魔法を見せてもらうのだ。

因みに魔法は流石に室内じゃ危なそうだから今は特別に皇女宮の庭の中の開けた砂場で見せてもらうことにしている。
宮廷魔法士
宮廷魔法士
フム…貴女が今回この私の魔法を見たいと無様に懇願してきた第三皇女ですか。
…んんん???

あれなんかすごい暴言はかれたような…

無様…?

えまって仮にも一国の皇女にそんなこと言う?泣くよ?泣いちゃうよ?
宮廷魔法士
宮廷魔法士
おや、挨拶も無しですか。皇女だろうが所詮は生まれたばかりのサルですね。
ん〜待って僕なんでこんなに暴言吐かれないといけないの?

僕何かした?したなら謝るよ?やった覚えないけど。
宮廷魔法士
宮廷魔法士
まぁいいでしょう。所詮サルでも私の素晴らしすぎて倒れてしまいそうな魔法を見たいと。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
え…うん。そうだけど…
固まり続けていた喉からやっとはっきりしない相槌が出る。

それにしても自分で素晴らしいって言っちゃうか〜…

もしかしなくてもこの人さてはナルシストだな?

というかクセ強すぎて寝るとき頭から離れなさそう。
宮廷魔法士
宮廷魔法士
それではサル皇女様。どんな魔法がお望みですか?この国を埋め尽くすほどの水?世界を滅ぼす地獄の業火?
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
まってまってまって、わたし的につっこみたいことは山のようにあるんだけど、とりあえずその人をひげ卑下するようなよびかたやめない?
宮廷魔法士
宮廷魔法士
おや、サルの分際で私に口答えとは。いい度胸ですね。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
だからそれをやめろっていってんの。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
というかれーな、これ不敬罪になんないの?
レーナ
レーナ
なりませんね。宮廷魔法士であるこの方はまだ齢10にも満たぬ皇女様と地位がほぼ同じです。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
チッ
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
…まぁいいや。こんかいの私のもくてきはまほうを見せてもらうことなんだし。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
じゃあそうだね…さすがに国をしずめるおおみずとかじごくのごうかとかはこわすぎるからぶなんに石かなんか作り出してよ。
宮廷魔法士
宮廷魔法士
石ですか…承知しました。
宮廷魔法士
宮廷魔法士
『主神ライサスに見守られし数多の魂よ。魔法神シフカに授けられし全ての大いなる力の結晶よ。今一度私の力で奇跡を起こすことをお許しいただき、ここに石の屈強な壁を創り出し給え。』
宮廷魔法士が呪文のような中二病じみた言葉を噛むことなくスラスラと言い切ったあと、庭自体が地震のようにひどく揺らぎ、僕は堪らず目を精一杯瞑る。

──そして次に目を開いたとき。

不思議な紋様が施された頑強そうな土の壁が、僕と宮廷魔法士を隔つようにそこに在った。

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