第114話

レメルンに国内貿易協定の誘いが来ました
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2021/06/13 11:00
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
『レメルンの復興状況と隣町との国内貿易計画について』…ねぇ…
14歳の頃レメルンの復興に手を付けて、今や4年目である。

今では町民全員が笑顔溢れる暮らしを送っており、現在は福祉施設や教育機関etcの人材育成に手を付けている。

僕から見ればなかなかに異例な速さの復興だが、これがあの裏レメルンが何かしたのか、それとも単純に町民の技術が高かったのかは分かる術はない。

レメルンの町について、最初は入り組んでいた居住区画を統一することに決めた。

あの町は当初奴隷の町だった。落とし穴に溜まった水の中で人魚の稚魚が狭そうに暮らしていたり、本来緑ある地に住むはずのエルフや妖精が荒野にテントを構えて震えていたり、とにかく何もかもが混沌としていた。無秩序もいいところだった。

レメルンの北の方には干上がった池がある。まずはそこに水を貯めた。魔法を使えば何ら造作もないことだった。
そしてその場所で、次に小魚やプランクトンの養殖を行った。独自の生態系を確立させたのだ。

その間人魚たちは専用の水槽で秘密裏に匿っていた。この世界で、公に奴隷の居住区を整えているなんて知られたら流石に僕の地位が危ない。それでも、充実はしてくれていたと思う。

そしてあとは熱帯魚と寒帯魚それぞれに合わせた地区の水温の調節、水性の軟質硬質を整え十分な餌の確保そして文化圏を作るに十分な池の深さ。

恐らく人魚にとって…中でも海水魚にとって、海のような広いところの方が満足できたかもしれない。レメルンはそんなに広いわけではない。いやそれでも面積は78.05km²という広さだが。僕の故郷より16倍くらいでかいが。

すべての種族に均等に地区を分けるために、各種族15km²ほどの敷地を設けている。また、すでに生まれている異種族同士のハーフや種族間との交流を持つのに抵抗を持たない人たちのために真ん中に異種族共同居住地も建設する予定だ。

各種族専用居住地を作ってはいるが、人口の統計を確認次第配布予定の『レメルン内限定交通切符』…まぁ要は身分証的なものを建設済みの関所に見せれば他種族でも出入りが可能となっている。

人魚地区の方には水中呼吸薬も無料配布の手はずを整えている。最近宮廷魔法士が魔法薬の量産法を開発してくれたおかげで計画がスムースに進んでいる。

これと同様に、中央異種族共同居住地への移住を希望する人魚にも、滞在期間にあわせて人間変体薬を譲渡している。こればっかりはレメルンが陸にあるからどうしようもできない。その代わり人の姿に慣れない人魚のために簡易プールの販売と人の姿においての注意点の講座を低価で行うつもりだ。流石に無料とはいかない。

異種族間の婚姻の場合中央異種族共同居住地に住んでもらうことになる。これは要らぬトラブルを避けるためだな。

そして仕事配分にも気を使っている。獣人はその性質から、力仕事に長けている。彼らのところには大工仕事などを斡旋し、たまに事務仕事も回すことで獣人ながら力仕事に長けていない住民の無職化を避けている。

エルフや妖精には魔法を利用した魔法紡績工場や森の力を使う製菓・食品工場へ回ってもらっている。

人魚は社交術に長けたものが多い。旅行会社やカウンセラーなど、体をあまり使わない仕事を募集に出したところ、すぐさま枠が埋まってしまった。もちろんこの三種族にも獣人と同じような措置を設けている。

さて、こんな感じで着々と進んでいる復興計画だが、何人かの資金協力者から『我が領と国内貿易を行わないか』との申し出が来た。

僕は住民の彼らに前世の知識を与えている。と言ってもあやふやなものだが、最近どうも記憶が戻ってきているようだった。カメラや飛行機の構造原理など、教えられるものは全て教えた。

彼らはそれを利用しようというわけだ。もともとあいつらは奴隷に同情的ではなかったから、何故協力してくれるのか不思議に思っていた。これを狙っていたのか。

今の不完全な状況で国内貿易をしたところで、むしり取られるだけむしり取られてあとは奴隷に元通りだ。そうはさせるか。

僕は引き出しから判子を取り出し、何故か英語で『rejection却下』と書かれた裏面をさっと一瞥した後、くだらない文字の並ぶ書類に振り下ろした。

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