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第52話

カールの昔話を語りました(第一部)
──カール視点──
皆もうご存知の通り、僕 カールはシャンドール帝国第三皇女であらせられるオルガリネ・シューニ・シャンドール殿下の家庭教師をやっている。

否、やっていた、の方が正しいのだろうか?

少なくとも僕が『僕』としてオルガリネ殿下に勉学を教えさせて頂いていたのはオルガリネ殿下が五歳の頃までだ。

端的に言おう。僕の体は所謂『乗っ取り』によって他の人物の所有物となっていたのだ。

とは言っても乗っ取られていた期間の記憶はあるし、なんなら乗っ取られていたという自覚がなければ普通にそれが自分と錯覚するほどには妙に記憶に馴染んだ。

僕は平民。でも普通とは少し違う。

僕は元々『妖精』と呼ばれる存在である。


──回想──


ちょうど僕が10歳程の頃だっただろうか。

ほんの気まぐれで入った家近くの森で遭難したときに、運悪く精霊様に魅入られて妖精となった。

元来なら『妖精』は体がちょうど成人男性の掌ほどの体長しか無い、傍目で見ればかなり矮小な存在だ。

一度妖精となれば二度と人間には戻れないし、妖精は人間にとって最早同族ではなく虐げるべき奴隷と同じ扱いになる。

昔から変なところで頭の回った僕はその事実に気付いて子供ながらに恐怖を覚え、精霊様に帰りなさいと言われても足が竦んで森から出られなかった。

僕が成ったのは『風の妖精』。その気になれば一瞬で林を切り倒す鋭い風を吹けるし船の帆に柔らかい風を当てて船をすすめることもなんら難しくはない。

自分の小さな羽つきの体を風にのせてお家に帰ることだって容易かった。

そもそも、僕は精霊様に妖精になることを承諾した覚えはない。

勝手に魅入られて、勝手に近寄られて、勝手に魔力を植え付けられたのだ。とんだとばっちりだ。

お家に妹も残してきている。何より僕には『真っ当に生きて自分の力で家庭教師になる』という立派な夢があった。

その為に今まで勉強して、ガリ勉と笑われても歯を食いしばって耐えてきたのに。

その夢がこんな形で壊されるなんて絶対に嫌だ。

森にこもって10日ほど立った頃だろうか。ついにイライラして精霊様にそう言ってしまった。

精霊様はもちろんキョトンとしていた。「お前は何を言うんだ」とでも言われているようだった。

そして10秒ほど──僕は自分の言ったことに気づき気まずすぎてその時間が数時間にも感じられたが──見つめ合った頃、急に精霊様はなんだ、そんなことかと手を叩いて大笑いした。

怒られるかも、と少しビクビクしていたこちらの身からしては、怒られない安心よりも何を笑っているんだ、という怒りが沸々と湧き上がってきた。

「そんな悩みでこの森に留まっていたのだったら、早めに私に言えば良いのに。」

精霊様は一頻り笑ったあとそう呟いて、僕の体を心地の良い風で包んだ。

そうして風はいつしか中が見えないほど濃く、大きくなり、風が消えた頃にはそこには裸で座る細身の少年。

急に高くなった視界に僕が混乱していると、精霊様は僕を妖精にしたとき預かっていたという僕が来た頃の衣服を僕に寄こした。

僕は運が良いのか悪いのか、精霊様に大層気に入られていたようで。普通なら無理やりつまみ出していた、という精霊様の目は憂いと慈愛に満ちていた。

その後は気をつけて帰れよ、と森の入り口まで見送ってくれた。

無論その頃には僕は10日も行方不明という扱いだったので、必死こいて僕を探していた両親と妹に怒られながら泣かれた。

人間の革を被っているとはいえ、前述した通り妖精が人間に戻ることは叶わない。

両親、妹共に純粋な人間。その中で唯一人外となってしまった寂しさと孤独感は、勉強で紛らわせた。




そして今、努力を積み重ねてここにいる。

流石に宮廷魔法士にはバレた。だが彼は僕を歓迎してくれたため、待遇良く接してくれた。




事件が起きたのは、そうだな、今の第四皇女と第四皇子が生まれる10ヶ月前。つまり女が私生児を妊娠した頃だった。

何が問題か。その女は僕の妹だった。

妹は僕が妖精となって五年後、人攫いに攫われてそのまま行方も分からず売られていったきりだった。

平民だから。仕方ないと周りは言ったが、その頃の僕は荒れに荒れて妹を必死に探し回った。

それから数年が経って、家庭教師という身分になって妹への諦めをつけようと葛藤していたとき、あんなに必死で探した妹がボロボロで僕のもとに来たのだ。

妹は言った。

「自分は世界有数の有力者に売られて、奴隷にされていた」と。

「ある日この国の帝都につれて来られたかと思えば、周りは自分と似たような女性ばかりで、代わる代わる皇帝に襲われた」と。

「その後魔法で妊娠してしまったかどうかを有力者に確認された」と。

「妊娠が判明したとき、有力者は私生児が出来たのが喜ばしいと、これを気に自分を有力者の娘と言うことにしてシャンドール帝国と繋がりを持とうとしている」と。

「カールが家庭教師をしていることを人伝に聞いて、今まで考えもしなかったが命からがら逃げてきた」と。

途中から自分がどんな顔をしていたか分からない。

僕にとっては宝物のような子だった。大切な、大切な妹だったのに。

その妹を理不尽に奪われ、汚されて、どうして正気を保てていられようか?

僕は今すぐにでも有力者を叩き潰してやりたいと叫ぶ心を理性で無理やり抑えて、妹を子供が生まれるまで匿っていることにした。

結局、その作戦は失敗に終わった。

妊娠五ヶ月を過ぎたころ、どこからバレたのかわからないが僕の妹のことを知った僕をよく思わぬ貴族たちが有力者に詳細を伝えて、僕が少し出払っていて帰ってきた頃には家はボロボロで妹も攫われた後だった。

僕は泣いた。わんわん泣いた。

あれほど闘志を燃やして、あんなにも「守る」といった妹を、二回も守れなかった。

正直かなりショックだった。

その頃授業が休み期間だったのが幸運だった。授業にも夏休みや冬休みみたいなのはあるのだ。

そうして日々悔しさを飲み込みながら五ヶ月が過ぎて、第四皇子と第四皇女の話を聞いた時、妹がこれからは安全な皇宮で過ごせると聞いて安堵した。

だがあの皇帝とひとつ屋根の下と聞いてまた絶望した。

はっきり言ってもう皇帝に尊敬の念などない。逆にある方がおかしいだろう。



…と、長々と僕の『乗っ取り』とは関係が無さそうな話をしてしまった。

だがこれが、関係があるのだ。

この話は終わらない。僕の妹の話が第一部とするなら、これからの話は第二部といったところか。




さて、みんなお待ちかね。第二部のお話、始まり始まり──