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第26話

幕間 家庭教師が風邪を引きました
─────家庭教師カール視点─────
あぁ、やってしまった。

ついこの間やっと第三皇女殿下の家庭教師と言う座に着けたというのに、まさか風邪を引くとは。

僕は僕以外の誰もいない殺風景な自室で一回だけため息をついた。

家庭教師は、僕の昔からの夢だったのだ。

この国では、教師は主に平民、家庭教師は主に貴族や皇族に勉強を教える。

当然平民と貴族や皇族とでは立場がかなり違うため、教師と家庭教師との身分の違いも激しい。

そんな中で、普通は貴族しかなれないはずの家庭教師という職に平民である僕が就いたというのは、良くも悪くもこの国に少しの波紋をもたらした。

当然だ。普通なら貴族に謁見することも叶わないような平民が皇族・貴族の家庭教師となるのだから。

しかも教える先がシャンドール帝国第三皇女であるとすれば、それはそれは恨みも買うであろう。

だから、貴族からの少しの陰口や嫌がらせにはずっと目を瞑ってきた。

だがまさか水をかけられるとは。

おかしいとは思ったのだ。急に貴族主催のお茶会に呼ばれ、しかも貴族と対等に接して良いと言われたのだから。

普通は平民が貴族に舐めた口をきくのは『不敬罪』という罪に問われる。

ましてや主催した貴族はかの悪名高き[シュメラド伯爵]だった。

彼は裏で人身売買を行っているだとか、気に入らない者は皆社会的に抹殺するとか言われている男だ。

もしそんなところでボロを出してしまえば、一瞬で僕の家庭教師生活は終わる。

だからずっと機嫌を取りながらお茶会を過ごした。

すると途中、同じく参加していた貴族の令嬢がおもむろに蛇口を開けた。

蛇口の先はホースで、ホースの先は僕に向かっていた。

令嬢はそんなことは露知らず、という素振りで「手を洗いたい」と蛇口を全開にした。

もちろんかなりの水圧の綺麗な水たちが僕の全身に降り掛かった。

そこからはもう、地獄絵図だった。僕にとっては。

「あらあら、なんて鈍くさいのかしら」

「こんな不意打ちも避けられないなんて」

「所詮平民ね。」

「いい男が情けない」

僕が水に驚いて椅子から転げ落ちた瞬間、多種多様な罵詈雑言が華やかなお茶会を包んだ。

とめどなくあふれる僕への悪口は、次第に理不尽なものへと変わり、僕は逆に冷静になって「この人たちはもう語彙力が尽きたのだろうか」だとか考えていた。

べつに悪口自体には慣れていたし、今更こんな嫌がらせを受けたところでどうでも良かった。

ただ時期が冬だったため、かなり肌寒かったが。

ただ貴族たちは無反応な僕に苛ついたのか、急に

「何か言いなさいよ!」

と思いっきり僕の頬を叩いた。

はっきり言って普通に痛かったし、その頬は今でもほんのり赤くなっている。

流石に他の貴族も暴力はやり過ぎだと気付いたのか、急いで叩いた貴族を止めていた。

僕はその騒ぎに乗じて、「皆様のお目汚しとなるといけませんので、私はここで失礼します」と誰も聞いていないお世辞を述べてその場を去った。

ただ流石にびしょ濡れのまま帰ったのがいけなかったようで、その後風邪を引き今に至るというわけだ。




皇女様は、今頃何をされているだろうか。

本当ならば今頃は僕が皇女様に勉強を教えている時間だったのだ。

皇女様には代理の家庭教師がついているのかそれとも授業自体がなくなっているのかは僕は知らないが、何か問題を起こしていないといいのだが。

第三皇女様は、思ったよりもかなりの秀才のようだ。

僕が教えたことをスルスルと吸収していく。

普通なら三歳児では解けないような問題もいとも簡単に解いていく姿は、傍目には恐怖すらも感じるほどだった。

あと、やることなすこと全てが大人びている。

なんだろうか、思考が大人のそれなのだ。

口調はもちろんのこと、動きにも標準的な三歳児ではない、ある程度年を取った人間の動きが滲み出ていた。

…僕はあの子のことを、神様か何かなのではと考えている。

僕は今まで、たくさんの子供と触れ合ってきた。家庭教師になる前も。

こんなオーラをまとう三歳児は初めてだ。

普通とは何かが違う、それだけは分かる、でも何なのかはわからない。

もし神様ではないとしても、確実に普通ではない。

その証拠に、彼女は勉強の間、何やら読めぬ字を書いていた。

彼女が言うにはそれは「ニホンゴ」と言うものらしいが。

そんな言語見たこともないし聞いたこともない。

ただ字体が少し平国の文字と似ていたが。

あの子のことをもっと調べる必要があるかもしれない。

これから家庭教師としてあの子に付いている為に。

その為には、早く風邪を直さないと。

そう思って、僕は予め用意しておいた薬を水とともに喉へ流し込んだ。